39:彼の思い
食器を片付け、コーヒーを入れるために私が席を立つと、アンディも席を立った。「ディーンの相手をしないでいいの?」と尋ねると、「使い魔達がいるから大丈夫」とアンディは答えた。
そこでチラリと様子を見ると……。
ディーンはパールと何やら話し込んでいる。
モフモフの使い魔達とディーンの仲は、アンディと同じぐらい長い。あんな風に話しこめるぐらい仲もいいのだろう。
洗い場に食器を運ぶと、アンディは食器を洗い、私はコーヒーの準備をした。その準備をしながら、アンディに私は尋ねた。
「ねえ、アンディ。国王陛下はアンディのお父様よね。でも昔、アンディをこの森に捨てた。だから二度と会いたくない……の?」
探るように尋ねると、アンディは小さくため息をつく。
「父親だなんて、これっぽっちも思っていないよ。森に捨てられた時点で、俺は自分に両親なんていなかったって言い聞かせたから。そうしないと……胸が張り裂けそうだったから」
……! そうなのね、そうだったのね。
でも、そうだと思う。
親に捨てられるなんて、衝撃的なこと。
それを幼かったアンディが受け入れるには……はじめから親なんていなかった。そう思いこむしかなかったというなら、それは仕方のないこと。アンディはそうすることで、自身の心が壊れるのをガードしたのだろう。
「アンディ、ごめんなさい。こんな質問をして……」
「大丈夫だよ、ナタリー。俺は……きっと特殊だと思うから。ただ……俺もいい大人になった。だから過去の遺恨を乗り越える必要もあるのかもしれない」
アンディは……なんて真面目で、そして……心が優しいのだろう。自分の心を守るため、両親から愛されることを諦めたはずなのに。存在しないものと思うようにしたはずだろうに。
遺恨を乗り越える……つまりは自身を捨てた両親を許すことも必要だと考えている。そんなこと考えられるなんて、簡単にできることではない。だからこそ、ディーンに王都に来いと言われた時は、あまりにも突然過ぎて拒絶し、怒鳴るようにしてしまったのだろう。
「アンディ、私はあなたにとって他人だし、こんな風に関わっていいか分からないわ。でもアンディの傍にいる一人の人間として。もしアンディが一人で王都に戻るには勇気がいると言うなら、私もついていくわよ」
「ナタリー……! ナタリーこそ、つい最近辛い目にあったんだ。王都に戻るなんて、怖くてできないのでは!?」
アンディが洗い物をする手を止め、私を見る。
その瞳には、心から私を気遣う様子が感じられた。
「それは……怖いわ。私が戻ったと知ったら、家族がどう思うか……。家族は私のことをミラー家の名に泥を塗った恥さらしだと思っているかもしれないわ。でもアンディのためなら頑張れる……かな。だってアンディは断罪され、河に捨てられた私を助けてくれたのだから。そしてアンディは……国王陛下からの命令だったら、王都に行くことを拒みきれないでしょう。だったらそこへ向かう手助けをしたいと思ってしまったの。勿論、私ごときで、アンディの気持ちが前に向くかは分からないけれど……」
「ナタリー」
気付けばアンディに抱きしめられている。
驚いてキョトンとした私は、されるがままになっていた。
「ナタリーが一緒に来てくれるなら。それ以上心強いことなんてないよ。……うん。ナタリーが王都に一緒に行ってくれるなら。俺は……王都へ行く」
「なるほど。アンディ、心を決めたか」
玄関のドアからディーンがにやにやしながらこちらを見ている。
「! ディーン、いくらディーンでも覗き見なんて!」
なぜかアンディの顔は真っ赤になっている。
「アンディ、覗き見なんてしていないぞ。私はほら、テーブルに残っていた物を運んできただけだ」
ディーンは確かにチーズフォンデュに使った小型のミルクパンと残ったパンが入った籠を手に持っていた。
アンディは「……!」と何も言えなくなり、一方のディーンは厨房へとやってきた。ミルクパンと籠を置くと、ディーンはアンディのことをまるで「よし、よし」というように頭を撫でた。
「ナタリー嬢、コーヒーの用意はできましたか?」
「あ、はい! お湯も沸きました」
「では運びましょうか」
コーヒーをいれたマグカップをテーブルに並べ、アンディと私が着席すると、ディーンは例の国王陛下の王都に来いという命令の件を話し始めた。
「スチュ王太子がこのノースコートで何をしたのか、そもそも何を目的にここへ来たのか、本人にヒアリングして聞いたことを報告書としてまとめ、王都に、国王陛下に提出した。その中では勿論、森に火を放ったことについて、私や父上が厳罰を求めると書かれている。その報告書を見た国王陛下からの返信が届いて、そこで父上にスチュ王太子とアンディを連れ、王都へ来るようにしたためられていた」
そこでコーヒーを一口飲むと、ディーンは再び口を開く。
「本当は私も王都へ行きたいところだけど、辺境伯家の男子が不在という事態は避けなければならない。だから私は留守番だ。まあ、それはいいとして。なぜ王都へ呼び出したかは……。父上を呼んだ理由は想像がつく。火を放つ――これはどこの国でも重罪だ。火事によって一つの村や街が滅びるなんて、よくあることだからな。厳罰を求める父上の気持ちも分かるが、国王陛下としては、王太子は世継ぎだ。罰する気持ちはないのだろう。まあ、父上と直接話し、懐柔するつもりなのかもしれない」
やはり王太子という立場は絶対だ。スチュ王太子が罰せられることはないのね……。いや、さすがに今回は森に火を放っている。数日の謹慎処分ぐらいは……下されるかもしれない。
とはいえ、スチュ王太子については、お咎めなしで終わるか、謹慎処分ぐらいが下されるか、それは分からない。ただ、どちらであっても、アンディを王都に呼びつける必要はあるのかしら?
……!
まさか……。
「ディーン様! まさか国王陛下はアンディが生きていたことに驚き、アンディを、アンディのことを……が、害するために呼び立てたのでしょうか!?」
























































