3:本当はお人好し
食材を調達にしに行くというアンディに連れられ、森の中を歩き回った。三日三晩寝込んでいた私にはいい運動になったと思う。そして森の中を歩き回り、いくつか分かったことがある。
やはりアンディの家はまるで森の中のポツンと一軒家みたいな感じで存在していた。さらにアンディは森の暮らしが長いようで、道なき道を迷うことなく進むことができている。そして森の暮らしが長いせいか、食料になる実や果物についても詳しい。魔法を使い、狩りや釣りもお手の物だった。
魔法を使いつつ、釣り竿を使い、器用に釣りをするアンディを眺めながら、魔法で作った畑から収穫したサヤインゲンの筋を、私はとっていた。そばには私にキャベツ1枚を要求した真っ白な子ウサギのパールがいる。家にいた沢山のモフモフはアンディの使い魔。だから人間の言葉を話すことも、理解することもできた。
「ねえ、パール。アンディっていくつなの? 私は18歳だけど、同じぐらいかしら?」
「ナタリーはアンディのこと、いろいろ知りたいんだよな? いいぜ、話しても。その代わり……」
「このサヤインゲン。パールは子ウサギの姿をしているけど、実際は霊獣だと聞いたわ。だからこれを食べても問題ないのよね」
パールは頷き、サヤインゲンを器用に両手で受け取る。その姿は本当に愛くるしいモフモフな白い子ウサギにしか見えない。
「そう。この世界……森に馴染むためにこの姿をしているだけだから。サヤインゲンは好物だぜ。で……アンディの年齢か。アンディは今年で18歳になるな」
「……学校とか、通っていたの?」
「まさか。アンディは5歳でこの森に捨てられて、それからはディーンとオイラ達の助けを経て一人で今の今まで生きてきた」
この言葉には衝撃を受けるしかない。5歳から、一人でこの森で? 生きていけるの? いや、生きてこられた。だからこそ、18歳のアンディがそこにいるわけで。
「どうして森に捨てられたの? それにディーンって誰?」
「ナタリーは聞きたがりだなぁ。どっちの話も長くなる」
「はい。サヤインゲン」
「……でもこれさ、アンディの畑の作物だよな?」
「ごちゃごちゃ言わないで。私が食べるはずの分を、パールにあげているのだから」
無茶を言っていると分かるけど、私には渡せるものは何もない。パールは「むう」と言いつつも、サヤインゲンを受け取ってくれた。
「森に捨てられた理由は、オイラ達にも明かさない。ディーンは知っているみたいだけどな。でもともかく、両親からも兄弟からも見捨てられた。でもアンディは子供の頃から魔法を使えたから。今住んでいる家も魔法で作り上げた」
アンディの家はログハウス風で、清潔感もあり、暖炉や竈や洗い場、バスルームにレストルームなど、必要な設備はすべて整っていた。あれを5歳の子供が、魔法を使えるとはいえ、作り上げたとは……すごいと思った。
「アンディはさ、魔法を使えるから、時々、ディーンが暮らす街に行って、そこで現金を稼いでいるんだ。魔法は万能だけど、魔法を使うと疲れるから。お金で手に入るものはそうしているんだよ。それにさ、魔法を使うと甘い物も無性に食べたくなるらしい。アンディは魔法を提供し、対価を得る。で現金を使い、街でお菓子とかを手に入れるんだよ」
「何かと対価、対価、というのはその現金が欲しいから?」
するとパールは「ちっ、ちっ、ちっ」と、人間のように自身の口の前で手を振る。
「アンディはお人好しだったんだよ。魔法を使えるってすごいことなのに。請われたら魔法でなんでもしてしまう。それではダメだって、ディーンが教えたんだよ。魔法を使って何かするなら、ちゃんと対価をもらわないとダメだって。対価を払うように言わず、ほいほい魔法を提供すると、その要求はどんどんエスカレートしていくって。そしてその要求に応えられないと、冷たくあたるようになる。そうならないためにも、対価を求める習慣をつけろって、な。……まあ、今日のナタリーに対する要求は……そうせざるを得なかったと思うけど」
なるほど。ただの鬼畜イケメンと思ったけれど、理由があったと。でも確かに欲しがる人間のそばにいると、どんどん奪われるというのは……何かの動画で聞いたことがある。
「アンディにいろいろなことを教えているディーンって誰なの? それと街が近くにあるの?」
パールはポリポリとあっという間にサヤインゲンを一本食べると「ぷはっ」と満足そうにゲップをしている。
「ディーンは……ディーン・オルドリッチ、オルドリッチ辺境伯の息子で、アンディより5歳上で、二人は仲がいい。ディーンもアンディに比べたらだけど、魔法も使えるんだよ。それで二人はザロックの森で出会い、意気投合して。ディーンがいろいろな本を貸してくれて、それでアンディは懸命に勉強した。多分、ちゃんと学校に通っていれば、学位もとれるぐらいの秀才だぜ、アンディは」
森に捨てられ、野生児のようにならなかったのは、そのディーンのおかげなのね。ディーンに出会えなければ、今のアンディはいなかっただろう。
「そうなのね。ディーンは本当にいい人に思えるわ」
「ああ。それにめちゃくちゃハンサムだぞぉ、ディーンは。街で一番人気だ。まあ、未来の辺境伯でもあるからな」
街! 街があるのね!
「あ、街があるって言っても、遠いぜ。いつも魔法で移動しているからあっという間だけど。馬車だとどれぐらいだろう? まずこの森を抜けて、河を渡り、そこからさらに徒歩でなんとか村にいって。そこで馬車を調達して……って、魔法を使えないと大変だぜ」
「そ、そんなに遠いのね……。でも地図を見た限り、村さえないと思ったから……。一応森を抜けて河を渡れば村に辿り着くのね」
「ナタリー」
声に振り返ると、籠いっぱいに魚を捕まえたアンディが、暗い表情で立っている。
























































