38:嫌だよ! 俺は絶対に!
翌日から、日常が戻った。
朝、アンディがやはり私を起こしに来て、アーリー・モーニングティーを出してくれる。朝からアンディの素敵な顔を見て目覚めた私は、ミルクティーを飲み、明るいラズベリー色のワンピースに着替える。
アンディは、スカイブルーのシャツにインディゴブルーのズボンという、イケメン度が上がるカラーの服を着ている。
洗濯をして朝食を用意して、食事をして掃除をする。食材はディーンがくれたので、調達には行かず、日常以外のやるべきことに取り組むことになる。
それは――燃えてしまった森の再生だ。
完全に炭になってしまった木は、自然に帰し、代わりにアンディの魔力を込めた種を地面に埋めた。この作業はモフモフの使い魔達も手伝ってくれている。
日常+αがあることで忙しくなったが、でもそれで疲れるのはなんだか心地よかった。
庭で使っていた丸太のテーブルと椅子は、アンディの魔法で用意することにした。
「今、森の木を切る気持ちにはなれないんだ」
アンディがその言葉に込めた思いはよく分かる。
今、森は火傷を負い、ヒドイ状態。
再生をしている最中なのだから。
新しく登場したテーブルと椅子は、新品という感じではない。少し傷ついてたり、日焼けした感じがあり、なんだかすぐに馴染むことができた。
そのテーブルに晩御飯を並べていく。
ディーンがくれたジャガイモは、カリッと揚げ、バジルと塩胡椒で味付けをした。もらった干し肉はシチューにいれ、野菜などもディーンの麻袋にはいっていたものを使っている。麻袋にはチーズも入っていたので、チーズフォンデュも用意した。後は焼き立てのパンだ。
使い魔達もテーブルに勢揃いしている。
アンディも私も着席した。
みんながいることを確認すると、アンディが口を開く。
「いただきまーす!」
「いただきます!」
私を含めた使い魔達も一斉にそう言うと、夕食がスタートした。
シチューのニンジンをまずはパクリと頬張ったその時。
「食事中だったのか」
落ち着いたバリトンの声に振り返ると、そこにディーンがいる。
黒のシャツに落ち着いたアンティークグリーンの麻のジャケットに、ココアブラウンのズボンという姿は、ディーンによく似合っていた。
「丁度今、食べ始めたところだ。ディーンも一緒に食べよう」
アンディに誘われたディーンは、慈しみを感じさせる笑みを浮かべる。
「まるで夕食を狙ってきてしまったようだ」
「それでも構わないよ。何せこのテーブルに並ぶ料理のほぼすべて、ディーンにもらった食料で用意したから」
「なるほど、では遠慮なく、でいいのかな?」
ディーンの問いにアンディが頷き、私は厨房へディーンのための食器を取りに戻った。白いお皿、スープボウル、水をいれたグラスを木製のお盆にのせ、玄関から庭に出ると。
「嫌だよ、ディーン! 俺は絶対に!」
アンディの声に驚き、思わずビクッとしてしまう。
私の方を見て座っていたディーンが、気遣うように視線をこちらへ向ける。ディーンの視線の動きに気づいたアンディも、振り返って私を見た。
アンディはとても硬い表情をしていたが、私を見て、その顔は少し和らいだ。
あんな風にアンディが怒鳴るなんて……。
どうしたのだろう?
「ナタリー、ごめん」
「ナタリー嬢、大丈夫ですよ。アンディが声を荒げたのは、私に対してではなく、王都にスチュ王太子と一緒に来いと命じた、国王陛下に対してですから」
「!」
国王陛下が、スチュ王太子と一緒に、アンディを王都に呼んだの……?
なぜだろう……。
ひとまずテーブルに駆け寄り、ディーンの前に食器を置いた。ディーンは私を見て「ありがとう、ナタリー嬢」と微笑む。私は頷き、席に腰を下ろす。
ディーンは「せっかく美味しそうな料理があるんだ。まずは食事をしよう。話はその後だ」と言い、これにアンディも同意した。そして再度私を見て「ナタリー、驚かせて本当にごめん」と謝った。
驚きはしたが、アンディが叫びたくなる事情もよく分かる。
「大丈夫よ、アンディ。ちょっとビックリしただけだから。……、そう! シチューにいれた干し肉。イイ感じに柔らかくなって美味しいわ。アンディに言われた通り、干し肉から塩分がしみ出したみたい。塩胡椒をいれ過ぎないでよかったわ」
私の言葉にホッとした様子のアンディが、止まっていた手を動かし、食事を再開した。
アンディがパンにたっぷりチーズをつけ頬張るのを見ると、ディーンは私に今日は何をしていたのかと尋ねる。私は使い魔とアンディと共に、森の再生に半日がかりで取り組んだことを話した。沢山、木炭も手に入ったので、ディーンに持ち帰らないかと尋ねると。
「木炭は燃料として使いますが、他に活用方法があるのですか、ナタリー嬢」
ディーンに尋ねられた私は、水の浄化、除湿・加湿、土壌改良などに活用できると話すことになった。これは前世で得ていた知識だが、ディーンは大いに驚いている。ただ、細かい原理を覚えていないので、なぜ水の浄化になるのか、と問われても上手く説明できないのが残念でならない。漠然といいらしいと知っていて、生活の中で木炭を取り入れていただけだったことが、悔やまれる。
だがディーンは優しいので深く追及せず、別の話題をアンディにふってくれた。ディーンは本当に、頼れる兄貴。
こうしてスチュ王太子とはまったく関係のないことを話し、食事を終えることが出来た。
























































