37:怒り心頭のモフモフ達
「そう言われると、複雑な気持ちだな。スチュがナタリーに片時もはずすなと言ったことで、その宝石はナタリーのそばに常にあることになった。おかげで俺は気づくことが出来た。ナタリーが断罪を受けたことも、河に落とされ、どこに流れ着いたかも」
それはなんとも皮肉な話。
スチュ王太子はまるで飼い犬に着ける首輪のように、あのブレスレットとネックレスを身に着けることを命じたのだと思う。でもそれが奇しくもアンディに私の状況を知らせることになった。
「ナタリーの様子が分かるのは、俺にとっては喜ばしいことだった。その一方で、俺の想いを込めた宝石で勝手にネックレスとブレスレットを作り、ナタリーに贈ったスチュには怒りを覚えていた」
「……もしかして対価だからって言って私からブレスレットとネックレスを受け取ったけど、本当は対価うんぬんではなく、スチュ王太子さまへの怒りで、私からあのブレスレットとネックレスを外して欲しいと思ったの……?」
アンディは目を閉じ、大きく息を吐く。そしてゆっくり瞼をあける。ラピスラズリのような瞳と目が合う。
「ナタリーは鈍感なのか、敏感なのか、どっちなのだろう……。でも、今の指摘は正解。あの状況で『ブレスレットとネックレスを外せ』なんて言ったら、ナタリーは怯えただろう。そこで対価として受け取る形にしたんだよ」
鈍感なのか敏感なのか。私としては……そのどちらでもない「普通」なんだと思っているけど。それにしても対価という形ではなく、もっと別の方法もあったのではないかと思ってしまう。
「どうして……話してくれなかったの? 最初から、事情を話してくれれば、あっさり私から『このブレスレットとネックレスを処分して』って、アンディに託したかもしれないのに」
するとアンディは顔を赤くし、あの困り顔になってしまう。
「ナタリーは鈍感になってほしいところで敏感なんだよな。……今回、スチュがあっさり話してしまったし、ディーンやオルドリッチ辺境伯には、俺の身の上を話していた。だから当たり前のように、俺がスチュの双子の兄だって明かすことになったけど……。本来は気軽に話すようなことではないから」
そう言われるとそれは……その通りだった。スチュ王太子に双子の兄がいることは、元婚約者の私だって知らなかったのだから。
同時に。
鈍感なのか敏感なのかという件。
どうも私はここぞというところでは鈍感になり、ここはスルーしてほしいところで敏感になってしまう人間なのかもしれない。
そんな風に思わず考え込んでいると、アンディが私の頭を優しく撫でる。
「今、話した通り、俺はスチュに対して怒っていたから。ナタリーからブレスレットとネックレスを受け取った後、すぐに宝石の魔法を解除した。そして後先考えず、スチュがナタリーに贈った物を、手元に置いておきたくない。そう思い、売り払ってしまった。まさか巡り巡ってあれがスチュの元まで戻るなんて、考えていなくて……。つまり。スチュがこの森に来たのは、俺の落ち度でもある。ナタリーだけのせいではないってこと」
そう言った瞬間。
アンディのおでこが、私のおでこに触れていた。
「だから、ナタリーが涙を流す必要はない」
なんて、アンディは優しいのだろう……。
体が芯から感動で震えていた。
「アンディ、本当にありがとう。あなたに出会えて良かったと、心から思うわ」
すると。
「……ナタリー、俺……」
「「「「アンディ、ナタリー!」」」」
モフモフ使い魔の声に、慌ててアンディと私は体を離した。
「ナタリー、心配したんだぞぉ!」
パールを筆頭にモフモフの使い魔達が、私の腕の中へ飛び込んできた。
そこで私は思い出す。
この小さな体でスチュ王太子に立ち向かってくれたことを。
「みんな、あの時はスチュ王太子に立ち向かってくれて、本当にありがとう」
ぎゅっと抱きしめることはできないので、みんなの体を包み込むように抱き寄せる。するとモフモフの使い魔は、私の胸にすがりつく。
「無事で本当によかったよぉ。あれが王太子だってアンディから聞いたけど、最悪だな」
パールが憤慨すれば、ブラウンとマシュマロも同意を示す。
「ナタリーに手を出そうとするなんて本当に最低よ!」
「あーゆう人間はね、地獄に行くべきだと思うわぁ」
怒りがエスカレートしたモフモフの使い魔達は……。
「アンディ、アイツのことをスズメバチたちに襲わせようぜ!」
「そんなの生ぬるいわ。湖に沈めてやりましょう!」
「いっそ、使い魔に変えて、一生こき使えばいいんじゃないのぉ」
「まあまあ、落ち着け、みんな。スチュはあれでも王太子だから。簡単に手出しはできないよ。それより見て見ろ。ディーンが沢山、食料をくれたぞ」
アンディの言葉に、モフモフの使い魔達の顔色が変る。一斉に麻袋へと向かって行く。
「明日から少しずつ、木々に魔法で力を与えて行くから。……ナタリーも協力してくれるか?」
ラピスラズリのようなアンディの瞳が、私に向けられた。本当に見ていると吸い込まれそうな美しい瞳だ。
「勿論よ。私ができることがあれば、なんだって協力するわ」
アンディの顔が明るく輝く。
その笑顔は……本当に反則だ。
もう胸が信じられないぐらい、ドキドキしてしまっていた。
モフモフ達が提案するざまぁが何気に辛辣!
【御礼】
今朝の日間恋愛異世界転ランキングにて
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