35:イメージしていたものと違います!
「ナタリーは、フリルのついたチェリーピンクの愛らしいドレスを着て、本当に可愛らしかった。肩までのブロンドは、太陽の光を受け、キラキラ輝いていた。肌はミルク色ですべすべで、頬と唇は薔薇色。そして瞳はルビーみたいで驚いた。俺を見てナタリーは『とっても素敵な王子様。その頭のカマキリは王子様のペットですか?』って微笑んだ」
チェリーピンクの愛らしいドレス……まさに女の子っていうドレスを、その時の私は着ていたのね。それにしてもアンディってば。髪が輝いているなんて……。肌はすべすべなんて、よく見ているわ。それに……私の瞳の色に驚いてくれたのね。
一方の私は、「とっても素敵な王子様」と言ったと。今でもこれだけの美貌のイケメンなのだ。子供であってもアンディは、美少年だったことだろう。
それで私はそのアンディに対し……「その頭のカマキリは王子様のペットですか?」と微笑んだ。
え?
頭のカマキリ? ペット?
え、私は何をアンディに告げたの……!?
「ナタリーはすごいと思ったよ。その年齢の女の子なら、カマキリを見たら『きゃーっ』ってなりそうなのに。笑顔で俺のペットかって尋ねた。尋ねられた俺の方が驚き、泣き出してしまって」
な……!
なんて出会いなの!?
全然、イメージしていたものと違うっ!
「カマキリはたまたまだった。どこから飛んできたのか分からない。でも俺の頭にのっていた。俺は王宮暮らしで、虫はその頃、慣れていなかったから……。周囲にいた近衛騎士が、慌ててカマキリを捕まえようとしたら、ナタリーが冷静にカマキリを手にとったんだ」
わ、私、何をしているの……!?
伯爵家の令嬢でしょう!? そこは近衛騎士にまかせるべきだったのでは……!?
「王子様のペットではないのなら、自然に帰してあげましょう――ナタリーはそう言ってカマキリを空に放った。俺は……感動した。伯爵家の令嬢で、虫なんて苦手かと思った。でもそんなことはない。むしろ虫に驚く俺を助けてくれた。それに近衛騎士が捕まえていたら……。多分、カマキリはそこで終わりだった。でもナタリーのおかげで、カマキリは自然に帰ることができた。あの時のナタリーは、まさに天使みたいだった。心優しい天使。俺は……ナタリーと婚約できることを、心から嬉しく思ったよ」
アンディのラピスラズリのような瞳が、信じられない程キラキラしている。
想像していたおとぎ話のような出会いではなかった。
でもアンディは……虫を恐れず逞しかった私を……気に入ってくれていたらしい。
「だから王宮を去ることになった時の唯一の心残りは……ナタリーのことだった。最後にナタリーに会いたい。お願いだからと頼んだ。そうしたら……ナタリーはスチュの婚約者になった。もうお前の手が届かない存在なんだと言われて……」
その時のことを思い出したのか、アンディの瞳が悲しみで曇る。その姿は、見ている私まで心が苦しくなってしまう。
「失意のまま連れて行かれたのがザロックの森だった。よりにもよって俺が慣れていない虫もわんさかいるし、野生の動物も沢山いて……。もう、ダメだと思った。でもディーンが俺を見つけて、魔法の使い方から、森の中で生きる術を教えてくれたんだ」
ディーンとの出会いがなかったら、アンディは……。それを思うと、国王陛下は……。なぜ魔術師と神官長の悪巧みを、見抜くことができなかったのだろう。
「ディーンからは屋敷に来ないかと言われたけど……。ディーンは辺境伯の息子だ。もし森に捨てた俺が辺境伯家の屋敷に身を寄せていると分かったら……。迷惑をかけたくなかった。ディーンにも。オルドリッチ辺境伯にも。だからそれは断って、森にも、虫にも、動物にも慣れるようにした。魔法の使い方も覚えて……。そして森のど真ん中に家を建てて、使い魔を召喚した。ここで生きていくって覚悟したよ」
「アンディは……強いわ。虫を克服し、魔法を会得して、森の中で生きていく術を身に付けた。それは……とてもすごいことだと思うわ」
するとアンディは首を振った。
「俺が頑張れたのはナタリーのおかげだった。それなのに……俺は……ナタリーがピンチだと気づいたのに、躊躇ってしまった……。『生きたいなら、絶対に王都へ近づくな』と父親に……国王に言われた言葉が、頭にこびりついていて。だから駆け付けるのが遅れた。決心するのに時間がかかり過ぎた。俺のせいでナタリーは、あんなに傷つけられてしまった」
今、アンディが言っていることは、間違いない。私がスチュ王太子に断罪され、鞭打ちされた上で河に落とされたことを言っているのだろう。
アンディは魔法を使える。なんらかの方法で私が断罪されたことを、知ったのだろう。それで助けようと思ってくれた。しかし子供の頃に父親に言われた言葉がネックになり、王都へ向かうことができなかった……ということね。
でも。それは仕方ないと思う。子供にとって、親は絶対的な存在のはず。その親からそんな冷たいことを言われたら、それこそトラウマになる。
アンディは今、とても苦しそうな表情をしていた。黙っているなんて無理。
だから思わず、声をあげていた。
























































