34:二人の出会い
「そうか。森自体の再建はできても、そこに暮らしていた生き物は……そうだな。本当に。あの王太子はヒドイな……」
そう言ってディーンは黙り込み、思わず三人でしんみりしてしまう。
「ところでアンディ。私や父上は、君自身からスチュ王太子が語ったことの多くを既に聞いていた。つまりは君が元王太子であり、スチュ王太子の双子の兄であることも知っていた。でもナタリーは今日、初めて全てを知った。その件について、二人で話したいのでは?」
しんみりした雰囲気を吹き飛ばす言葉だった。
確かにあまりにもスチュ王太子の行為がひどく、そちらばかりに目が向いてしまうが、とんでもない事実が明らかになっている。
私がアンディを見ると、なぜかその頬がうっすらと赤くなる。
自分が元王太子であった事実。
それが恥ずかしい……のかしら?
「……確かに、ディーンの言う通りだと思う。既にもう全部分かっているわけだから。今さら……だと思うけど、ちゃんと話さないといけないことだ」
「なんだ、アンディ、らしくないな。緊張しすぎるな」
ディーンがアンディの頭に手をのせ、くしゃっと撫でる。
なんだか本当の兄弟みたいで微笑ましく思ってしまう。
それにしても。
ディーンの言う通り。アンディは何でこんなに緊張しているのかしら?
「ナタリー嬢」
カチコチのアンディに対し、リラックスした様子のディーンが私を見た。
「はい、ディーン様」
返事をすると、ディーンは爽やかな笑顔で尋ねた。
「スチュ王太子は、君ともう一度婚約する……という前提の元、ここに来たわけですが。君自身はスチュ王太子と」
「絶対に嫌です!」
もう即答していた。
だって。
本当に、絶対、嫌だった。
スチュ王太子と婚約するなら……これは嘘偽りない気持ち。もう一度、河に飛び込んで逃げ出したい。本気で。
彼はもう、無理だった。
「ナタリー嬢、そんな泣きそうな顔をしなくて大丈夫です。ここにいる誰もが、君をスチュ王太子の婚約者にしたいとは思っていないですから。今日みたいに力づくでさらおうとするなら……。騎士道を学んだ一人の人間として、断固阻止します」
力強くディーンに言ってもらうことができ、本当に安堵できた。ディーンだったら間違いない。きっとスチュ王太子を止めてくれる!
「ナタリー嬢の気持ちもこれでハッキリ分かったわけだ。……私は執務室にいるから。二人はゆっくり話すといい。話が終わって森に戻る前に、立ち寄ってくれ」
ディーンがアンディの肩をポンと叩く。
「分かった」「分かりました」
ディーンが立ち去り、メイドがそばにきて、空になったディーンのカップを下げつつ、私達のカップに新たに紅茶を入れてくれた。
アンディは新しくいれてもらった紅茶にミルクをいれているのだけど……。
「ア、アンディ、溢れるわよ!」
「!!」
奇跡的な表面張力により、ミルクティーはカップから溢れることはなかった。でもこれではカップを持ち上げて飲むことはできない。アンディは小声で魔法を詠唱し、なんとかカップから八分目まで、ミルクティーの量を減らした。
「……大丈夫、アンディ?」
尋ねるとアンディは再び顔を赤くし「だ、大丈夫だよ」と返事をした。全く持ってして大丈夫には見えない。
でも。
落ち着いた手つきでカップを持つと、ミルクティーを飲み、「ふう」と息をはく。そしてキリッとした顔つきになり、私を見た。
そんなことをされると普通に美貌のイケメンなので。ドキッとしてしまう。そして「何!?」と固まる。
「……ナタリー。既に知っていると思うけど、ナタリーと俺は……本当は婚約するはずだった。そして子供の頃に、本当に幼い頃に一度だけ会っている。俺と会ったこと、ナタリーは覚えている?」
そうだ。そんな重要な情報も、さっき知ることになった。でも、覚えているかどうかについては……。
「アンディ、その件は本当に驚きだったわ。スチュ王太子が双子だったことも知らなかったし、私が本当はアンディと婚約するはずだったことも初めて知ったの。そして幼い時にアンディに会ったことも……ごめんなさい、私は覚えていないの」
「……そうなのか」
一度はキリッとしたアンディだったが。まるで雨でびしょ濡れになった子犬のように、しゅんとしてしまった。
「本当に記憶力が悪くて申し訳ないわ……。でもアンディは覚えていてくれたの、私のことを?」
尋ねるとアンディは、瞳を潤ませた子犬状態のまま、何度も頷いた。
「そうなのね……。私とアンディの出会い。それはどんな感じだったのかしら?」
成長してからのアンディと私の再会は最悪だった。でも幼い頃の出会いを、しっかりアンディが覚えているということは。初めての出会いは、きっと素敵なものだったのだろう。
「俺とナタリーが出会ったのは、春だった。王宮の庭園には沢山の花が咲いて、とても美しかった。天気も気候もよかったから、庭園に席を用意して、そこで顔合わせをしようとなった。チェリーブロッサムの木のそばに、テーブルと椅子を用意して。真っ白なテーブルクロスを敷いて、銀食器を並べ、ナタリーを喜ばせるための沢山のスイーツも用意した」
アンディの語る景色が脳裏に広がる。
春爛漫の桜の木の下でのお茶会。
絶対に素敵なのに。
どうして……私は覚えていないのだろう?
























































