33:被害は甚大
「アンディが絡んでいるなら、ナタリーは生きているに違いないと思った。魔法を使えば、傷だって簡単に治せるだろう。さらに言えば、アンディとナタリーは一緒にいるだろうと思うと……。いてもたってもいられなくなった。ナタリーをアンディなんかにとられるつもりはない。ナタリーはわたしのものだ。だからわざわざここまでやってきた。侍医を連れてきたのは、ナタリーが既にアンディの手に落ちていたら、王都に連れ帰る価値はないからだ」
スチュ王太子のこの言葉を、ディーンから教えてもらった時。
「やはり」としか思えなかった。別にスチュ王太子は私のことが好きではなかった。スチュ王太子が嫌うアンディと私が結ばれることを阻止したい――つまりは嫌がらせの気持ちだけで、このノースコートに来たのだと、よく理解できた。
さらにもしアンディと私がそういう関係になっていれば……王都に連れ帰る価値はない。ということは、もしかすると私は……殺されていた可能性だってある。なにせスチュ王太子は、森に火を放った理由について、ハッキリこう言ったのだという。
「アンディは傷ついたナタリーを監禁していた可能性もある。つまりは犯罪者だ。そんな犯罪者を野放しにはできない。しかも魔法を使える危険人物。直接対峙したら何をされるか分からない。だから火を放った。ザロックの森なんて、街から遠い。何もないじゃないか。ただの鬱蒼とした森。一度すべて燃やして、更地にして畑でも作った方が、土地の有効活用だろう?」
アンディを犯罪者扱いし、森もろとも消そうと考えたのだ。スチュ王太子は。
これにはもう……恐怖しかない。
スチュ王太子はアンディの命を軽く考え過ぎではないか? これが将来、国政を担う人物であるとは思えない。国王ではなく、魔王になってしまうのではとさえ思えてしまう。
さらにそこまで嫌うアンディと私が結ばれていたと知ったら、これは間違いない。私は……殺されていただろう。しかもその犯人は、アンディとするはずだ。森の中の怪しい家に監禁し、私を殺したと主張する気がした。
そんな不穏な可能性を考えるにつけ、アンディに運命の女性がいてくれて本当に良かったと思う。それがなければアンディにときめいたのは事実で、私と彼の間に何かがあったかもしれないのだから。
「以上が、スチュ王太子が父上や私に語ったことだ。正直、彼は……かなり偏執的だと思ったよ。将来的にスチュ王太子が国王になって、マルセル国は大丈夫なのかと不安になった。それは父上も同意見だ」
今、ディーン、アンディ、私の三人は、オルドリッチ辺境伯家の庭園で、アフタヌーンティーをしていた。優雅にお茶をしているわけではなく、スチュ王太子と昼食会を終えたディーンから、どんな話をしたのか聞いたというわけだ。
「それでスチュのことはどうするつもりなんだ?」
アンディの問いにディーンは優雅に紅茶を口に運び、少し考え込む。
「どうにもこうにも。彼がやったことを、そのまま国王陛下に報告するしかないが、まあ、頭を抱えるだろうね。やっていることがあまりにもヒドイから。それに森に火を放った件については、辺境伯家として、強く国王陛下に抗議するつもりだけどね」
ティーカップをテーブルに置かれたソーサーに戻すと、ディーンは大きく息をはく。
「アンディが鎮火してくれたから事なきを得たが、風向き次第では街にまで火が届く可能性だってあった。それにあの規模の森が焼け落ちれば、生態系への影響はゼロではすまない。さらに言えば、あの森は隣国からも見える。何が起きているか、まさか戦の準備でもしているのではないかと、刺激することになりかねない。現に、隣国から問い合わせの早馬が到着しているからね。それは王都にも向かったはずだ」
つまり森に火を放ったことは、スチュ王太子が思っている以上に大事になる可能性があった。
「……ちなみにアンディ、森はどんな状態なんだ?」
「そうだな……。火が燃え広がっている時は、もう鎮火することで頭が一杯だった。鎮火した後は、ナタリーのことで頭がいっぱいだったから。家に残っていた使い魔達が、ナタリーは王太子にさらわれたと教えてくれた。早く助けに行かないと――そう、焦ってもいた。だから正直、森の被害状況は、ハッキリ把握できたわけではない」
そこでアンディは小さくため息をつき、話を続ける。
「でも……被害は甚大だと思う。俺達が耕した畑や庭園なんかが燃え落ちていたら……それは魔法で再生だってできる。燃えてしまった木々は植え替えるしかないが、それはある程度は魔法でもできるだろう。だがあの森で生きていた動物達が被害にあったかと思うと……。そこはスチュに対して、怒りしかないな」
アンディの言葉に、畑や庭園も焼け落ちたのだろうかと悲しい気持ちになる。それ以上に、森の中では、沢山の野生の動物に遭遇していた。毎朝聞こえた鳥の声、夕方になると聞こえてきた虫の声。狩りの対象になった動物もいれば、森の中を歩く時に見かけた小動物も沢山いた。
逃げのびてくれていればいいが、もし炎に囲まれ命を落としているかと思うと……。スチュ王太子がしたことが、本当にヒドイことだと思える。
何より森諸共、アンディの命さえ奪おうとしたのだ。国王陛下はスチュ王太子を庇うかもしれないが、森へ火を放ったことに対しては、なんらかのペナルティーを課して欲しいと思わずにいられない。
私がこうやって怒っている一方で、アンディの思いを聞いたディーンは……。
























































