31:鋭い指摘
アンディは私の手をとったが。
牧草地にはスチュ王太子が眠っている。
そして馬車には御者、馬車の前後には馬に乗ったまま寝ている騎士の姿が見えている。落馬しないのはきっと、それを防止する魔法がかけられているのだろう。
「仕方ないな。一応、スチュはこの国の王太子だ。あそこに寝かせて放置にはできない。少しだけ待って、ナタリー」
そう言うとアンディは魔法でスチュ王太子を馬車の中にいれ、扉を元通りにした。さらに御者や騎士を起こし、ノースコートの街へ戻るようにと魔法で命じる。
すごい。
アンディの魔法があれば、なんでもできてしまうと思う。
「ディーンのところへ行こう、ナタリー」
◇
森に火を放ったのはスチュ王太子であるという報告が、オルドリッチ辺境伯の元に届くと、彼は自身の騎士達をすぐに動かした。その騎士達を従え、城を出たのはディーンだった。
オルドリッチ辺境伯はもちろん、国王陛下に仕える家臣であり、王家に忠誠を誓っている。だが服従しているわけではない。北方の要を担うオルドリッチ辺境伯の領地はどこよりも広く、また与えられている権限も大きかった。ゆえにいざとなれば、もし王家が間違った行動をすることがあれば。それに異議を申し立てるだけの力を持っている。
だからこそディーンは、甲冑こそ身に着けていなかったが、万一に備え、鎖帷子は装備し、そして帯剣していた。つまりベストの代わりに鎖帷子を身に着け、上衣を着て、帯剣していたのだ。勿論、ディーンから剣を抜くつもりはない。でもスチュ王太子が剣を抜けば、応じる覚悟はできていた。
そして今回、スチュ王太子は剣を抜き、でも騎士道精神に反し、剣を抜いた理由を告げることもなく、いきなりディーンを斬りつけた。ただ、ディーンは鎖帷子を身に着けていたので、上衣が切れるだけで事なきを得ている。
そう、無傷で済んでいた。
ディーンは無傷であると分かり、アンディも私も心底安堵することになる。同時に、ディーンとアンディは、ノースコートに戻って来たスチュ王太子を捕らえることになった。捕えると言っても王太子なので、いきなり牢屋にいれるわけにはいかない。
オルドリッチ辺境伯の城の一室に、スチュ王太子は幽閉され、彼に従っていた騎士は捕らえられ、牢屋につながれることになった。
オルドリッチ辺境伯とディーンは「昼食会」ということで、スチュ王太子から話を聞くことになり、そこで聞いた話を、待機していたアンディと私にも教えてくれた。
スチュ王太子が語ったことは、「なぜここに来たのか」だった。そこで語られたことは、既に私が知っていることと同じ。つまりは新しい婚約者リリィの裏切りを知り、私を迎えに来た……だったが、そもそもなぜ私があの森の中のアンディの家にいると分かったのか。
その点はディーンも気になったようで、スチュ王太子を問い詰めた。
しかしスチュ王太子は、なかなかその答えを明かさない。でもディーンは諦めなかった。スチュ王太子から、どうやって私の居場所を突き止めたのか、それを聞き出すことに成功した。その結果、私はさらなる事実を知ることになる。
「リリィを修道院送りにしてから、ナタリーの捜索を秘密裡に始めた。突き落とした河から流れ着く場所を重点的に探していた。だからノースコートの領地内に、ザロックの森にいるなんて、想像もしていなかった」
スチュ王太子は実に不機嫌そうな顔で、そう口にしたという。
「でも王太子様は我が領地へとやって来られた。それはなぜですか?」
オルドリッチ辺境伯に問われ、スチュ王太子はため息をつき、答えた。
「たまたまだ。ノースコートの宝石商が、とても高価なブレスレットとネックレスを仕入れた。ノースコートの田舎貴族ではなく、王都にいる貴族に売れば、うんと高く売れると考え、そのブレスレットとネックレスを手に王都へやってきたのさ」
そう言うとスチュ王太子は用意されていた肉を乱暴に齧る。
「北方の僻地の宝石商など、王家では相手にしていない。でも王都のいくつかの貴族とはつながりがあった。宝石商はその貴族にブレスレットとネックレスを見せた。最初は男爵だったか、子爵だったか。だが売値の高さにその貴族は断った。そこで伯爵家を尋ねた時、それが何であるか分かった。つまり、宝石商が見せたブレスレットとネックレスは、わたしの元婚約者が身に着けていたものと気づいた」
「ではその伯爵家が王家に報告したと?」
するとスチュ王太子は鼻で笑った。
「伯爵家の中にも序列がある。伯爵家の中では底辺に位置するから、ソイツでは直接王家との接点はない。でもその宝石商がツテを辿った結果、公爵家に辿り着いた。その公爵家は王家ともつながりが深かった。だからそこからだ。話がきたのは。ナタリーのブレスレットとネックレスを、ノースコートの宝石商が売りに来たと」
この説明を聞いたディーンは、冷静にスチュ王太子に尋ねたという。
「ナタリー嬢を突き落とした河からノースコートは、遥か遠くです。そしてナタリー嬢は大怪我を負っていた。生きてノースコートまで辿り着けるとは到底思えない。彼女が身に着けていたブレスレットとネックレスのみが、ノースコートに持ち込まれたと考えるのが妥当ではないでしょうか。つまり、ナタリー嬢が生きてノースコートに辿り着いたとは通常では思わない。それなのになぜわざわざ王太子自らが足を運んだのですか? しかも侍医まで連れて」
この鋭い指摘にスチュ王太子は無言でやり過ごそうとしたが……。ディーンは諦めない。遂にブチ切れた王太子は椅子から立ち上がって「貴様、不敬罪に問うぞ!」と怒鳴った。
























































