27:本物?
朝食の後、アンディは仕掛けた罠に獲物がかかっていないか見に行くことになった。一方の私は朝食の片づけや掃除に洗濯となる。アンディを見送り、モフモフの使い魔達と一緒に家事を進めた。
今日も夏らしい天気で暑くなりそうだった。洗濯物を干し終え、箒を手にはき掃除をしていると。扉をノックする音が聞こえた。
「え、アンディ?」
アンディが自分の家に入るのに、ノックしたことなんて一度もない。ということは……ディーン? 昨日、挨拶もせずに帰ってしまったから、心配して尋ねてくれたのかしら? あ、それともスーザンの件で、何か聞きに来た、とか?
私の部屋で追いかけっこをしている使い魔達をチラッと見た後、扉の方へと向かう。
「はぁーい」
ディーンだろうと思い、大きく返事をして扉を開けた瞬間。
金髪碧眼で一重の釣り目。
オリーブ色のフード付きのマント、ベージュ色のシャツ。マントと同色のズボンの腰の辺りには、剣が見えている。
血の気が引き、倒れそうになる。
あまりに驚き声も出ない。
というか「本物?」という思いも込み上げる。
だが。
「ナタリー、生きていたのだね」
その声は……間違いない。聞き慣れた声だった。
「会いたかったよ、ナタリー」
両腕を広げ、こちらに迫るスチュ王太子に「きゃあぁぁぁ」と悲鳴を上げていた。
「どうした、ナタリー!」
「ナタリー、何があったのかしら?」
「大丈夫!? ナタリー!」
パール、ブラウン、マシュマロ達、使い魔が私の部屋から出て来てくれた。
「た、助けて!」
スチュ王太子に抱きしめられた私は、恐怖で体が硬直し、全く体が動かない。意識も遠のきそうで、声が出せただけでも奇跡だった。
脳裏には彼がブチ切れた時の顔。
鞭打ちを告げた時の声が響き、そして――。
振り下ろされる鞭のしなる音が蘇る。その後の激痛も――。
どうして、ここにスチュ王太子がいるのか、訳が分からなかった。
「ナタリーをはなせ!」
パールを筆頭に使い魔達が、スチュ王太子に魔法で攻撃を行った。だがその魔法はどれも一切彼には効いていない。
なぜ……?
震えながらスチュ王太子を見ると。
碧眼の瞳を細めて彼は笑う。
「ここに魔法を使える人間がいることは、分かっていたからね。王宮にいる魔術師に、魔法を無効にするアミュレット(御守)を用意してもらったんだよ」
スチュ王太子の言葉に、さらに心が凍り付く。
それはアンディのことを知っているということだ。
なぜアンディを知っていて、魔法を使えることまで知っているの?
いろいろ分からないことが多く、何より今、スチュ王太子に触れられている恐怖で意識を失ってしまいそうだった。
「さあ、ナタリー、一緒に王都へ帰ろう。もうリリィは王都にいない。彼女は修道院にいる。ナタリー。可愛いわたしの婚約者。リリィはナタリーを貶めるため、嘘をついていた。ナタリーはリリィにいじめなんてしていないのに。彼女の取り巻きの令嬢が、わたしに教えてくれたんだよ。リリィは嘘をついているって」
……! 衝撃の情報に意識が戻る。
リリィは嘘をついていたの……?
てっきりゲームの抑止力が働き、私の断罪が始まったと思っていたのに。
でも、それは……もうどうでもいい。
鞭打ちをしたスチュ王太子から今さら「可愛いわたしの婚約者」なんて言われたくない。
「は、はなして」
「はなさないよ。わたしの婚約者はナタリー、君しかいないんだ。それに……奴にナタリーを渡すつもりはない」
最後の一言を口にするスチュ王太子は……とても恐ろしい顔をしていた。釣り目なので、普段からキツイ顔つきに感じていたが、今はまるで悪魔のようにしか見えない。
奴、って誰のこと?
まさかアンディのこと……?
「さあ、行くよ」
抵抗したいのに、力が入らない。
完全にスチュ王太子に怖気づき、一切の抵抗ができない。
「待て! ナタリーをどこに連れて行く!」
パールの声に再び使い魔達が、今度は魔法ではない。
体当たりでスチュ王太子に向かった。
でも。
彼らはみんな、幼い動物の姿。
スチュ王太子に振り払われ、床やテーブルに激突し、次々と気を失っていく。
「やめて!」
懸命に叫んだつもりだが、それは震えた少し大きな声にしかなっていない。
「わたしの邪魔をするから。悪いのは彼らだ」
ぐいっと引っ張られ、家の外に出ると、そこには大勢の騎士がいる。
「ナタリー、すまないが、ここは悪路しかない。馬車が通れるような道はなかった。わたし達は馬で来たけど、ナタリー、君は一人で馬に乗れない。だからこの中に入っておくれ」
「!?」
待機していた騎士が、ずた袋を手に私に近づく。
「やめて!」
だが既に力が入らない私が、鍛えられた騎士に敵うわけがなく……。ずた袋の中にいれられ、担ぎ上げられていた。
「アンディ、助けて!」
泣きながら叫ぶと。
後頭部に激痛を感じ、意識を失った。
























































