25:断って欲しいな
舞踏会で仕事探しをしているのが、恥ずべきことだと思った……? でも舞踏会は社交の場であるし、貴族と平民が社交をしたら、仕事探しの話をしても……おかしくないと思うのだけど。
あ、もしかして。
アンディにとって私は、金づるだったのかしら? でもネックレスとブレスレット以外で私が身に着けている物は、もうない。
うーん、そうなると……。
え、まさか私が家を出ると困る?
この考えが浮かんだ瞬間、甘い期待がなかったわけではない。でもアンディには運命の女性がいるから、その線はないと即否定する。代わりに浮かんだのは、人手だ。
これまで一人で自給自足の生活を、アンディは送ってきた。でも私が家に滞在し、家事を手伝うことで、少し楽になった。
つまり私は貴重な働き手。それがいなくなるから困る……?
「……ナタリー」
「は、はいっ」
いきなり名前を呼ばれ、驚いた。
ようやく顔をあげたアンディだが、苦しそうな表情のままだ。
「俺は別にナタリーを家から追い出すつもりはないよ。髪を売ろうとしたり、無理して仕事を探したりする必要はない。公爵家の屋敷で下働きをするぐらいなら、俺の家でこれまでみたいに家事や畑の手伝いをして欲しい」
そうよね。そうだよね。やはり人手だ。
自分が貴重な働き手なのだと理解した。
「それはつまり、今みたいにしていれば、アンディの家に置いてくれるということ?」
「家に置くって……。そんな、上から目線のつもりはないよ」
ああ、アンディは。
想像以上にイイ人だ。
この厚意に甘えたいところだけど。
彼には運命の女性がいる。彼女が現れた瞬間、私は追い出される……。
追い出されると思った。
でも、これだけイイ人なのだ。
運命の女性と暮らすようになっても、働き手要員としてそのまま置いてくれる……と思えてきた。
あとは、そう。
私が不用意にアンディにときめかなければいいだけだ。イケメンだからドキッとしてしまうが、観賞用として存在してくれていると思えば。それにうまくいけば、離れを作ってもらえるかもしれない。
だって、いつかは運命の女性があの家にやってくる。今の家は決して広いわけではない。私が使っている部屋は、運命の女性が使うようになるだろう。でも私は働き手として置いてもらえるだろうから、離れを用意してもらえるはず。もう掘っ立て小屋だろうと構わない。そうなれば……。
「ナタリー」
「は、はいっ」
なんだかデジャヴを覚える会話だ。
「……だから帰ろう。家に。公爵家に……話を聞きたいなら聞きに行ってもいい。でもそこで下働きするという話は、断って欲しいな」
「承知しました! 公爵家のマダムにはお断りの手紙を書きます。アンディの家の下働きとして、これから全身全霊で頑張るので、これからもよろしくお願いします!」
「え、ナタリー、そんな、下働きって……」
アンディはホント、イイ人だわ!
鬼畜かと思ったけど、そんなことはなく。
彼に河で拾ってもらえてよかったわ。
「今日の状況だと、もうディーンに挨拶して帰るのは無理だと思います。用意されていた軽食を食べ損ねましたが……。いいです。家には沢山食材がありますから。何か作ります。だから帰りましょう!」
「ナタリー、なんだか話し方が……急に変わったように思うのだけど」
「あ、そうですね」
アンディは今から私の主。でも私が遠慮して話し方を変えると、アンディは恐縮しちゃうのか。よし。いつも通りでいこう。
「アンディ、帰りましょう」
「……いいの? せっかくの舞踏会なのに」
「構わないわ。もう舞踏会なんて二度と行けないと思っていたから。今日行けたのはラッキーだったわ。アンディともダンスできたし、満足よ」
「俺とのダンスで満足だなんて……」とアンディは顔を赤くする。アンディは謙虚ね。アンディとダンスできたって、喜んでいる令嬢、沢山いそうなのに。
あ! アンディを連れ帰ったら、会場にいる令嬢ががっかりするかしら?
でもアンディはキッパリ宣言した。
「帰ろう、我が家へ」
アンディが御者に声をかけた。
◇
森の中のポツンと一軒家のアンディの家に戻ると、モフモフの使い魔達はみんな驚いていた。もっと遅くなると思ったのに、早く帰ったから。美味しい料理とスイーツを食べて帰って来ると思ったのに、食べずに帰ってきたから。
でもその後、夜食でホットサンドを作り始めると、モフモフ達は驚くのをやめ、大喜びになった。既に晩御飯をしっかり食べているのに。みんなホットサンドを食べたがったのだ。勿論、みんなの分のホットサンドを用意して、楽しく夜食タイムだった。
【感謝のご報告】
昨日公開したばかりの本作ですが
本日お昼の日間恋愛異世界転ランキングにて
46位に登場していました!
応援くださる読者様に心から感謝です。ありがとうございます!
























































