23:お仕事、見つけます!
するとそこには目論見通り。
上流貴族のマダムが沢山たむろしている。
彼女達は自身の娘をディーンの挨拶に向かわせ、それが終わるのを軽食やスイーツを楽しみながら待っているのだ。
グループを組んでいるマダムもいれば、群れていないマダムもいた。
孤高のマダムに私はさりげなく話しかける。
こういった社交術が身についているのは。
ある意味王太子妃教育の賜物だと思う。
「こちらのイチジクの生ハム包み、お召し上がりなりましたか?」
先程からシャンパンを3杯ほどあっという間に飲み干しているマダムに声をかける。着ているドレスや身に着けている宝飾品から、公爵家のマダムだろうと目星をつけていた。
「いえ、口にしていませんが」
「今はイチジクが旬ですよね。そしてこの生ハムはイベリコ豚です。イチジクに含まれる酵素には豚肉に含まれるたんぱく質を分解し、消化を促進する効果があると言われています。ですからこの組み合わせで食べるのはベストで、かつ美味しい。加えて、イチジクにはミネラルやカリウムも含まれていますし、お酒の後に召し上がると、二日酔いの予防になると言われているのですよ」
「まあ、そうなのですか」
マダムが瞳を輝かせる。会話の糸口はこれでOK。
あとはこのマダムが知りたいと思っている情報を引き出し、その答えを提示しつつ……。
マダムとの会話は実に盛り上がった。
その結果。
「あなたはとても博識ですわね。……良かったら今度、我が家へお茶へしにきませんこと?」
「それは大変光栄です。でも私は爵位ある身分でもないので、恐れ多いです」
「! そうなのですか!? 街の女性の方なのですか?」
私は申し訳なさそうに頷き、そして……。
「実は両親共に早く亡くし、元は爵位ある一家でしたが、路頭に迷うことになり……。この街へ来たのは、職探しのためなのです」
「まあ、そうだったのですね……」
マダムはそこで考え込み、私を見る。
「あなたはとても品があるし、博識だわ。そんなあなたにふさわしい仕事かと言われると違うかもしれないのですが。よかったらうちの屋敷の下働きでよければ、雇うこともできますけど」
「本当ですか!」
瞳を輝かせ、マダムの名前と住所を教えてもらい、後日面談に行く約束を取り付けた。そこへマダムの娘が戻って来る。年の頃はまだ16歳ぐらいかしら。私に会釈をした娘は、マダムと連れ立ち、ホールへ向かう。ひとまずディーンに挨拶したが、他にいい男性がいないか、親子で探すのだろう。
「もし」
「?」
振り返ると老婆がいた。
決して派手ではないが上質なドレスを着て、身に着けている宝飾品も一級品。でもなんというか……貴族ではない感じがした。
「聞くつもりはなかったのだけどね。どうやらお嬢さんは、仕事を求められていると」
「……そう、ですね。でも先程のマダムが下働きの話をくださりましたので」
「そうだね。でもたいした給金はもらえないよ」
……。お金は勿論生きていくために必要。でも沢山のお給料を手にいれ、贅沢をするつもりはない。
「私がお嬢さんに紹介できる仕事。それは住み込みで三食の食事もつくし、毎日入浴もできる。でも労働は数時間のみ。悪い話ではないと思うよ」
「……それはどんなお仕事なのでしょうか?」
「説明しようじゃないか。でもここで立ち話はなんだ。外の庭園のベンチで話すのはどうだい?」
チラッと今いる部屋を見ると。
用意されている椅子やソファはすべて埋まっている。
「分かりました」と答え、老婆と共に庭園へ出る。
特設ステージを見ると、アンディは勿論、数少ない男性はダンスに引っ張りだこ状態だ。あの様子だと、まだしばらく戻って来ることはできないだろう。
「さあ、そこに座った、座った」
老婆に言われたベンチに腰をおろす。
私の隣に老婆が座る。
「私の名前はスーザン、あんたの名前は?」
一瞬、「ナタリー」と答えようとして、本名を名乗るのは万一を考え、止めておこうと思った。そこで「ナタリアです」と咄嗟に答える。
「ナタリアね。で、年齢は?」
「18歳です」
「いいねぇ。没落する前に婚約者とかいたのかい?」
この質問にはドキリとする。
婚約者がいたように思えるのかしら?
あ、いや。私が貴族だから。
婚約者がいてもおかしくないということね。
そう思い、婚約者はいたが、没落と同時に婚約は破棄されたことを伝える。すると深い仲までいったのかと思いがけず突っ込んだ質問をされ、焦ってしまう。でも何もなかったので「ありません!」と顔を赤くして否定する。そんな私の様子を見たスーザンは「この様子じゃ本当に何もなかったわけだね」と笑った。
他にもいくつか質問され、答えると……。
「いいね。あんたは合格だよ、ナタリア」
スーザンはそう言うと口笛を吹いた。
すると。
座っているベンチの背後で物音がした。
驚いて振り返った瞬間。
顔に布を押し当てられ、叫ぶ間もなく、意識を失った。
























































