22:ダンスのお相手
「ど、どうしてこの絵の前に!?」
「それはナタリー嬢にアンディの名画を紹介していたんだよ。ナタリー嬢も感動していたところだ」
「アンディ、とても上手だと思うわ」
褒めているのに。
アンディは片手で顔を覆い、絶句している。
なぜこんな反応を?
そんなに自分の絵を見られるのが、恥ずかしいのかしら?
あ……。
そこで気が付く。
絵の出来が恥ずかしいわけではなく、運命の女性である少女の姿を見られたことが恥ずかしいのかしら?
少女の姿でこれだけ愛くるしいのだ。成長してもきっと美しいに違いない。恥ずかしがる必要などないのに。
「……アンディは相変わらずだなぁ。この様子だとまだ……。何を照れているのだか」
ディーンはアンディの頭にぽんぽんと優しく触れると、私にハンサムな笑顔を向ける。
「とりあえずアンディはとても恥ずかしがり屋らしい。……そろそろ会場へ行こうか」
「あ、はい」
アンディの代わりに私が返事をして、ディーンと共に三人で、舞踏会の会場へ向かった。
舞踏会の会場は、とんでもないことになっている。
とにかく街中の女性の来場をOKにしたのだから、大ホールだけでは収まらない。だからそのまま窓を解放し、大ホールに続く庭園も舞踏会の会場にしていた。ちゃんとダンスができるよう、特設のステージが設けられている。大ホールとは別に、楽団も待機していた。
庭園のあちこちではランタンが灯り、松明もあるので、もう夜とは思えない明るさになっている。さらにそこには、既に沢山の来場者が姿を見せており……。
「ディーン、この中から本当に婚約者を見つけられるのか?」
スケール感に衝撃を受けたアンディが、ディーンに尋ねる。
対するディーンは、苦笑するしかない。
「……まあ、一つ言えることがあるとしたら。舞踏会が始まったら、二人と話す時間は絶対にないということだ。とりあえず、私のことは気にせず、楽しんで欲しい。軽食コーナーには、軽食とは思えない料理と絶品スイーツがあるから」
ディーンはそう言うと、大ホールへと戻っていく。
この後、舞踏会開始のセレモニーがあり、最初のダンスが終わったら……。ディーンは来場した女性達との挨拶で、もう大変なことになるだろう。
そしてその予想はまさにその通りとなる。
開始のセレモニーが終わった瞬間。来場した女性達は、大ホールにいるディーンに挨拶するため、長蛇の行列を作った。当然、庭園の特設ステージは閑古鳥だ。
「挨拶を終えた女性達が、どうせこっちにも来るだろう。それまでは貸しきりだ。ルールにのっとり3曲。俺とダンスをしよう、ナタリー」
アイマスクをつけたアンディは、なんだか謎めいた貴公子という感じで、ドキドキしてしまう。あの湖のガゼボ(東屋)の時とはまた違う胸の高鳴りを覚えながら、アンディとのダンスを終えると。ディーンとの挨拶を終えた女性達が、続々と庭園にもやってきた。
相対的に女性の数が多いので、アンディと踊りたそうにしている女性の視線を感じる。
ここは……どうしていいものかと迷う。
アンディには運命の女性がいる。だから女性と知り合いたい……という気持ちはないだろう。その一方で。女性が多く、壁の花になりそうな女性達の心細い気持ちも分かる。そしてここで思い出す。住み込みの仕事を探すため、人脈作りをこの舞踏会で考えていたことを。
「アンディ。私、喉が渇いたから、軽食コーナーに行ってくるわ」
「俺も行くよ」
「でも見て。そこの令嬢達を。アンディとダンスをしたいという顔をしているわ。私がアンディを独占すると、嫌がらせを受けるかもしれない」
「え、そうなのか……?」
アンディが舞踏会慣れてしていなくてよかった。
「そうよ。だって今日の舞踏会、圧倒的に女性が多いから。周りを見てみて。男性を同伴している女性も、3曲踊り終えたら、パートナーの男性が別の女性と踊るのを許容しているでしょう。ここでもし、アンディのことを私が自分の専属ダンスパートナーなのよ!みたいな態度をとったら、ドレスの裾を踏まれたり、飲み物をかけられたりするかもしれないわ」
すべて乙女ゲーム『愛され姫は誰のもの?』で、悪役令嬢ナタリーがヒロインにやっていた嫌がらせなのだけど。現実で本当にそんなことをする人がいるのかというと……いるのだ。女性同士でライバル視し合うことは、舞踏会でよくある。ちやほやされている令嬢にハプニングを装い、裾を踏んだり、飲み物をかけたりすることは、実際起きていた。
「……そうか。ナタリーがそんな目にあうと困るから。ナタリーが休憩している間、ダンスのお相手をしておくよ」
舞踏会のことをほとんど知らないアンディを騙しているのは心苦しい。でも実際問題、多くの女性がダンスをしたいと思っているのも事実。ここはボランティア精神で、アンディには頑張ってもらおう。
ということで一旦、アンディとわかれ、私は軽食コーナーへと向かった。














