21:二人の邪魔はできない
こうして少し早いが、ディーンの屋敷に到着した。他の招待客よりうんと早く到着した私達のことを、ディーンは喜んで迎えてくれる。
ちなみにディーンは、王道の黒のテールコート姿だ。王道な正装スタイルなのだけど。ディーンはハンサムだから、それだけで十分、素敵に見えている。今日の舞踏会に来た令嬢は、さぞかし胸をときめかすだろう。
「アンディ。すまないが父上が、君に頼みたいことがあるらしい。まずは父上と会ってもらえるか? その間、ナタリー嬢は、私が屋敷の中を案内しよう」
「分かったよ、ディーン。じゃあ、ナタリー後でまた」
ディーンの父親・オルドリッチ辺境伯から頼まれごとをされるのは、よくあることのようだ。アンディはいつものことかという顔で、そして慣れた足取りで、オルドリッチ辺境伯がいる執務室へと向かって歩いて行く。その様子からも、オルドリッチ辺境伯の屋敷には、アンディが何度も足を運んでいることが分かった。
「ではナタリー嬢。我が家の所蔵している美術品をお見せしましょうか」
「!!」
「オルドリッチ辺境伯家は、北方の要であり、隣国とも接していますから、交易でいろいろなものが入ってきます。その中でも美術品というのは、唯一無二のもの。代々の辺境伯が集めたコレクションがあるのですよ」
それはなんだか見応えがありそうだ。
実は私は。
前世では美術部だった。
友人に誘われ軽い気持ちで選んだ部活だったが、思いの外ハマっていた。というのも。美術というと絵を描いているイメージが強いが、顧問の先生は自由人。ゆえに陶芸、七宝焼き、版画、彫刻と、何をしても許してくれた。かくいう私は、陶芸で茶碗やら花瓶やら皿を作っていたのだ。それもあり、美術品を見るのが大好きだった。
「ここだよ」
ディーンに言われ、案内された部屋は……広い! しかもきちんとガラスに収納され、展示されており、カーテンを閉じ、日光を排除。さらにケースの中には、グラスに入った水がおかれていたりで、もうちゃんとした美術館みたいだ。
ただ、展示されているものは、私の想像とはちょっと違っていた。飾られているのは、甲冑、宝剣、宝石など、戦利品より。でも絵画も並んでいる。
「この辺りの絵画は、ノースコートの自然を描いたもので、これは過去の戦乱の様子を描いたもの。描いた画家の名は……」
この世界でかなり名の知れた画家が手掛けたものと分かる。
すごいわ。
ディーンの説明を聞きながら、絵画を見て行ったのだが。
これは……。
美しい少女の油絵だった。
肩までの波打つようなブロンド。ビスクドールのようなミルク色の肌。頬と唇は薔薇色で、瞳はルビーみたいだ。フリルのついたチェリーピンクの愛らしいドレスを着ている。
「ナタリー、これ、誰が描いたか分かりますか?」
「えっ……」
これまで沢山の有名な画家の名前が登場した。
しかしこの絵は、その画家たちの描く特徴とは違っている。
違っているが、とても美しい。
誰だろう……。
「とても写実的で、それでいて柔らかい表現で、有名な画家の作品だとは思うのですが……分からないです」
私の答えを聞くと、ディーンは楽しそうにクスクス笑う。
もしや超有名な画家の作品なのかしら……?
知らないとかなり恥ずかしい……とか?
思わず背中を汗が伝ったが。
「これはね、アンディが描いたものです」
「えっ!」
もう驚くしかない。
こんな絵心があるなんて!
「この少女が、アンディの運命の女性なんですよ。生き別れることになったものの、いつか彼女を迎えに行くつもりだと、アンディは私と出会った頃から言っていました。どんな女性か気になり、画材をプレゼントして描くように頼んだら……。これを描いたのは、アンディが12歳の時。それまでも描いていましたが、子供のらくがきみたいでした。でも絵画について学び、それから描いたら……すごいですよね。私も絵を習っていましたが、ここまでのもの、描くことはできなかったです」
「この少女が……アンディの……」
「年齢は聞いていません。ただ、自身と近い年齢だと言っていたので、今頃は素敵な令嬢に成長しているでしょうね」
そうなのね。
生き別れになってしまったの。
どんな事情があったのかしら……。
「……アンディはいつ、この女性を迎えに行くのでしょうか?」
「そうですね……。ただ、アンディは私なんかより、強い魔法を使えます。だから彼女のことも、きっとずっと見守っていたのだと思います。ここぞというタイミングで、彼女に会いに行くと決めていたと思いますよ」
「なるほど……」
美しく成長した運命の女性を迎えに行く――。
それがいつなのか、ディーンでも分からないのね。
もし、明日や明後日だったら……。
私は……すぐにでもあの家を出て行かないといけない。
二人の邪魔をするわけには、いかないのだから。
そうなるとやはり。
今日の舞踏会で。
住み込みの仕事を見つけないといけない!
決意を新たにしたところで、アンディが戻って来た。
ディーンと私のところへやってきたアンディは、自分の描いた絵の前に、私達がいると気づいたようだ。
あっという間に顔が赤くなった。
























































