17:本当に、勿体ないわねぇ
こうして舞踏会のドレスは無事に手に入った。アクセサリーも買おうと言われたが、さすがにそれは辞退した。ドレスだけで十分お金を使わせている。それにこの蒼いドレスであるならば。昨日のように、マシュマロが小粒のペコロスというタマネギをパールに変身させてくれればそれでいいと押し通した。
「ナタリーは謙虚だね。元は貴族の令嬢なのに」
それは……確かにそうなのだけど。前世が庶民だったので、どうしてもその感覚が……抜けきれないのかもしれない。それよりも。
「アンディはどうするの? 私をエスコートしてくれるのでしょう?」
「俺は適当に魔法で」
「適当!? 私はこのドレス、ものすごく真剣に選んだのに!」
「そうよぉ。アンディの瞳の色だからって、ナタリーはこのドレスに決めたのよぉ」
ブラウンの一言に私は固まる。
一方のアンディは「え!」と驚き、そして琥珀色の瞳を私に向けた。
そんな、ブラウン、そんなこと、言わなくていいのに!
「ナタリー、本当に?」
「……た、たまたまよ! 流行色を選ぶと、みんなと被るから!」
別に照れる必要はないだろうに、なぜか真っ赤になってしまう。するとそんな私を見て、アンディが再び赤くなる。
二人して顔を赤くするこの状況をなんとか打破したいと思い、アンディに提案した。
「アンディもたまには服を買うといいと思うわ。ほら、そこに紳士服の店もあるのだから!」
「あたしもそう思うわよぉ。アンディって服に対する執着なさすぎるから~」
ブラウンとマシュマロに言われ、アンディは「仕方ないなぁ」と自身の服を買うことを決めた。
その瞬間。
チャンス到来と気付く。
アンディが自身の服を選んでいる間、私はヘアサロンで髪を売ろう!
「アンディ。服を選んでいる間、ヘアサロンに行ってもいいかしら?」
「ヘアサロン……、あ、うん。いいよ」
こうして私はマシュマロを連れ、アンディはブラウンと共に、それぞれヘアサロン、紳士服店へと向かう。
「ナタリー、あんたヘアサロンで髪をどうするのさ? まさか今日、舞踏会用に髪をセットしてもらい、それを当日までもたせよう……とか思ってないわよね?」
「さすがにそれは無理でしょう。違うの、髪を切って、売ろうと思うの」
「え!?」
「いらっしゃいませ~」
スラリとした長身の、画家のサルバドール・ダリにそっくりな店員さんが笑顔で私に近づいた。私が髪を売りたいと言うと、大げさなまでに驚いた顔になる。
「え、こんなに綺麗な波打つようなブロンドをお売りになるの? 勿論、当店としては嬉しいですが、せっかくの美しい髪。勿体ないわよねぇ?」
「でも髪なので。また伸びると思います」
するとダリそっくりの男性店員さんは、私の耳に口を寄せる。とても小さな声で「……もしやお金に困っているのかしら?」と尋ねた。まさにその通りなので強く頷くと。
「……分かったわ。通常の倍の値段で買い取りましょう。でも……本当に、勿体ないわねぇ」
そう言いながらも席へと案内し、髪を切るための準備を始めてくれる。
勿体ない、か。
そうなのかな。短くなったら洗うのも乾かすのも楽になるから。いいかと思うのだけど。それに私はもう貴族の令嬢ではないから。髪をアレンジしてどうこうする機会も、ほぼ無縁になるだろう。
店員さんは用意ができたようで、ブラシで丁寧に私の髪をとかしてくれる。
「……ねえ、お嬢さん。お金を作るのに髪を切る。それは手っ取り早い方法よ。でもそれは一時しのぎに過ぎないわ。良かったらあなたが働けそうなお店、紹介しましょうか? 飲食店とか、パン屋とか」
ダリそっくりの店員さんは。とっても優しかった。
「ありがとうございます。できれば住み込みで働ける場所があるといいのですが」
「住み込み? ……なんだか訳ありねぇ」
店員さんはそう言いながらも私の髪を手に取り、ハサミをいれようとしたまさにその瞬間。
「待ってください!」
アンディの叫び声がして、ふわりと抱きしめられていた。
「まあ」
ダリそっくりの店員さんは、驚きながらも動きを止めている。
「ちょ、アンディ、どうしたの!?」
「マシュマロが教えてくれたんだよ! ナタリーが髪を切って売ろうとしているって!」
……!
マシュマロってば、いつの間に。
店内を見ると、マシュマロとブラウンが心配そうにこちらを見ている。
「なんで? こんなに綺麗な髪、売ってしまうんだ!?」
「綺麗だからよ。綺麗だから売れるでしょう? それに髪なんてすぐ伸びるわ」
「伸びるって……。ここまで伸ばすのに、どれだけかかったんだよ、ナタリー!」
どれぐらい……。
物心ついた頃から髪は伸ばしていたから……。無論長すぎると邪魔なので、お手入れで定期的に髪は切っていたけれど。結局今の長さになるのに、どれぐらいかかったのかしら?
私が考え込んでいると、アンディは苦しそうな表情でさらに尋ねた。
「いくら綺麗で買い手がつくからって、売る必要はないだろう?」
「……でも、私、一文無しですから」
「!! そ、それはそうだけど……。お金が……必要なのか?」
アンディは驚きの表情を浮かべている。それは森での生活が長く、自給自足が基本だからそうなのかな? お金に無頓着なのか無関心なのか。私の感覚では無一文であることは心もとなく感じてしまうのだけど。
「お金は……生きていくには必要よね? 今日のドレスだってアンディに買ってもらったけれど、本来は自分で払うべきなのだから」
「……! それで髪を売ろうとしたのか?」
返事の代わりに頷くと、アンディは大きなため息をつき、まずは店員さんに頭を下げる。
「すみません。彼女の髪は俺が買うので、あなたに売ることはできません」
「「えっ」」
思わず私と店員さんの声が重なる。
アンディはその声を無視して、金貨を数枚取り出し、私に渡した。
























































