15:て、手をつなぐ……のですか!?
せっかく街へ行くのだと、ブラウンは私が着ていたフォレストグリーンのワンピースを、少しだけオシャレにしてくれた。白い襟に黒いリボン。袖はパフスリーブに。ウエストに黒いリボンベルト。裾に白いフリル。
「ブラウン、とても可愛くなったわ! ありがとう!」
キャラメル色のモフモフのブラウンを抱きしめる。
「せっかくだから髪も変えましょうよ。どうせ変装するのでしょう?」
マシュマロはそう言うと。私の髪をハーフツインテールにし、そこに黒いリボンを飾ってくれた。さらにアンディは私の瞳を碧眼に変えてくれる。
「髪の色はどうする、ナタリー」
「そうね、髪は……」
答えかけて思い出す。
髪はチャンスがあれば売るつもりだった。多分、今の波打つブロンドの方が高く売れると思うので、髪の色や長さはそのままにしてもらい、代わりに眼鏡を魔法で用意してもらう。
瞳の色も変わり、眼鏡をかけるだけで、かなり別人になれた。これなら誰も私が王太子の元婚約者とは分からないだろう。いや、そもそもここは王都からは遥か遠い北の地なのだから。私を知る人なんていないはず。
「ではナタリー、街へ行こう。ディーンの父親の辺境伯が治める街、ノースコートへ」
アンディはアイスブルーの髪を赤毛に変え、瞳は琥珀色、白シャツにコーヒー色のベストとズボン、本当に別人のような姿で私の手を取る。ブラウンは私の肩にのり、マシュマロはアンディに抱かれていた。そして次の瞬間。ノースコートへ到着している。
「これがノースコートの街なのね……!」
初めて目にしたノースコートの街について、アンディが説明をしてくれる。
「今、俺達がいるのは、サン・ノースト広場。噴水の中にある像、あれが初代辺境伯のノースコート氏だ。この広場を中心に、北に辺境伯の城があり、南に市庁舎がある。東西に教会や店や住居が広がっているんだ」
広場を見渡すと、ノースコートの街が、どんな感じなのか分かりやすく把握することができる。ディーンが暮らす美しい辺境伯家の居城も見えた。教会の尖塔は高く天に向かって伸び、商店や住居の建物の屋根が急こう配なのは、雪を落とすためだろう。
「舞踏会が近いから、街は浮足立っている。街の中心から離れた場所で暮らす人達も、ドレスを手に入れたり、アクセサリーを求めたり、沢山集まっている。普段より人出が多い。はぐれると困る。だから、ナタリー、手をつないでもいいか?」
て、手をつなぐ……のですか!?
い、異性と手をつなぐ。
そりゃあ、体育の授業でのダンスや学校行事のフォークダンスで男子とも手をつないだ経験、ありますよ。でも、その相手はごくごく普通の同級生で……。
アンディからはエスコートもされている。それがちょっと進んだぐらいだ、手をつなぐなんて。そ、そうだ。だから、そう、変に緊張する必要はない。
うん。
アンディは……大家さん。優しく親切な大家さんだから。ちょっとイケメン過ぎる大家さんだから。
よく分からないがアンディは大家さんと思うことで、なんとか心を落ち着かせ、手をつないで歩き出すことに成功した。
アンディの手は……私より当然だが大きい。それで自給自足の生活を頑張っているから、手の平に豆が一つあったけど、基本的に指は細くて長い。そしてあんな森で暮らしていると思えない程、肌が綺麗。もしかして毎晩寝る前にハンドクリームでも塗っているのか?と思うぐらい。爪の形も色も女性みたいに美しい。
そして手の温度が実に丁度いい。細マッチョで筋肉もあるから体温が高そうなイメージがあるけど、そんなことはなかった。さらっとしているのに適度な潤いがあり、なんというか……。手をつないでいると馴染むというか。心地良い。ずっと手をつないでいられる。
思わずアンディの手に釘付けになってしまう。でもよく周囲を見ておかないといけない。ヘアサロンはあると思うけど、そう数は多くないはず。だから見落としてしまわないようにしないと。
ひとまずバーバーポールを探す。女性向けのヘアサロンは、男性向けのバーバーに併設されていることが多いから。貴族の女性はヘアドレッシングしている美容師を屋敷に招くが、街の人々はヘアサロンへ足を運ぶ。
ということで意識して探すと、ちゃんといくつかヘアサロンを見つけることができた。安堵したところでアンディに声をかけられる。
「ディーンから聞いたら、このお店が街の女性には人気らしい。俺はお金を用意してくるから、ナタリーはじっくり試着させてもらうといいよ。一応、護衛として。ブラウンとマシュマロをそばにいさせるから」
「任せて頂戴。最新のドレスの流行をチェックしつつ、ナタリーに似合うドレスを見つけるわよぉ」
そうブラウンが言えば、マシュマロも。
「あたしがその間、外をしっかり見張っておくから。安心してドレスを試すといいわ」
こうしてマシュマロは店の外で警戒してくれて、ブラウンは私の肩に乗り、一緒に店の中へ入った。
アンディは雑踏の中へと消えていく。
























































