14:近い!ものすごく近い!
「ナタリー。4日後、舞踏会だろう。それで……明日はドレスを街に買いに行かないか? オーダーメイドは時間的に無理だけど、街では今、仕立てた状態のドレスが沢山売っていると、ディーンが手紙で教えてくれた。みんな舞踏会に参加するから、ドレスの需要が高まっている。ブラウンの魔法でドレスに変えてもいいけど、街で売っているドレスは流行を取り入れたデザインだって言うから。それにドレスぐらい一着あった方が、ナタリーもいざという時、困らないだろう」
夕食の席でアンディから話を振られるまで、ドレスのことを全く考えていなかった。舞踏会に行くには着飾る必要がある。でも私は……ドレスもアクセサリーも何も持っていない。
ブラウンやマシュマロは既存の服や存在する物を魔法で形や色を変えている。だからディーンが来た日のドレスも。魔法を解くと、元のワンピースに戻ってしまった。マシュマロが私の首と耳に飾ったパールは、小粒のペコロスというタマネギをパールに変身させていたのだ。よって私はドレスもアクセサリーも持っていなかった。
「……アンディの言う通りね。冷静に考えると、ドレスもアクセサリーも何もないのに、私、舞踏会に行きます!なんて意気込んでいたわ」
「それは気にしなくていい。だってナタリーは文字通り、身一つで河に落とされたのだから」
その言葉に今さらだけど。本当に一糸まとわぬに等しい姿をアンディに見られたのかと思うと……恥ずかしい。いや、傷だらけの体。そんな体を見たところで変な気持ちにはならないだろう。それよりも。
「街へドレスを買いに行く必要は……あると思うわ。でも私は……その、お金がない……」
「それは大丈夫だよ」
「?」
キョトンとする私にアンディは、私が身に着けていたネックレスとブレスレットを売るから、そのお金でドレスを買おうと言うのだ。
「え、でもそれはアンディの対価なのだから、私のドレスを買ったら意味がないわよね?」
「それについては二つの反論をする。まずオーダーメイドでドレスを仕立てるわけではない。だからネックレスとブレスレット、その二つを売ったお金で、ドレスぐらい余裕で買える。あと、換金したお金の使い道として、ナタリーのドレスを買うことは意味があると思う」
そこでアンディは言葉を切り、ラピスラズリのような美しい瞳で私を真っ直ぐに見る。
「『それでは申し訳ない』とか言わないでいいから。ナタリーはネックレスとブレスレットを俺に渡した。その上で、この家でちゃんと掃除をしたり、食事の用意をしたり、家事をしてくれている。薪割や畑仕事だってしているだろう。……十分過ぎるぐらいだよ。だから気にしないで。明日は魔法で髪や瞳の色も念のため変えるから。大丈夫。安心して。街へ行こう、ナタリー」
こんな風に言われると……。アンディは男前だと思ってしまうし、最近涙腺が弱い私は、すぐ泣きそうになってしまう。でも私が涙をこぼせば、アンディは自身の胸を貸してくれる。
でも。
アンディの胸で泣いていいのは私ではない。彼の運命の女性だ。
涙を堪え、「ではお言葉に甘えるわ。明日は街へ連れて行って」と笑顔で答えた。私が笑顔で応じたので、アンディは私以上の笑顔で喜んでくれる。
その笑顔を見ながら。
甘えてはいけないと心に誓う。
明日、街でヘアサロンを見つけたら。髪を売ろう。
全くの無一文では不安過ぎる。アンディにも甘えてしまう。
この日の入浴では念入りに髪を洗い、バスルームにあった自家製の薔薇の香油で髪を綺麗に整えた。
◇
翌日の朝。
朝からとんでもない目覚めになった。
気配を感じ、目が覚めた。
その瞬間、目に飛び込んできたのは……。
清々しい顔立ちの青年。髪の色はアイスブルー、瞳はラピスラズリ。鼻梁が通り、薄紅色の綺麗な形の口をしている。肌艶も良く、目覚めた瞬間に拝める顔としては最高のもの――なのだけど!
近い! ものすごく近い!
どれぐらい近いかというと。
間違いない。
経験がないけれど。
多分、そう。
キスできる距離に、アンディの美貌の顔があった。
驚き、飛び起き、アンディに頭突きすることになり……。
アンディは悶絶し、私は青ざめることになる。
しばし声を出すこともできなかったアンディだが。自身が何をしていたのかを話してくれた。
つまり。
アーリー・モーニングティーを手にアンディは私の部屋にやってきた。サイドテーブルにミルクティーをおき、いつも同様、私の顔を眺め、目覚めるのを待った。
すると。
薔薇のいい香りがした。
そう、私は昨晩、髪に念入りに薔薇の香油をつけていたから。それが香ったわけだ。でもアンディは髪から香っていると分からない。薔薇の香りを追い、鼻を近づけた。その気配を察知し、私は目覚めた結果。
そう、頭突きにつながる。
「ナタリー、驚かせてしまい、すまなかった。とりあえず、ミルクティーを飲んで」
「本当、痛かったわよね……。ごめんなさい」
「いや、ナタリーは悪くないから。俺が……不用意に近づいたのが悪い。あれは驚くよ」
お互いに「ごめんなさい」合戦をして、それから朝食となった。
朝食の席では、モフモフの使い魔達が、誰が留守番で誰が街へ行くかで小競り合いをしていた。
結局。
街へ行く目的がドレスの購入だったので、ファッション担当のブラウンとマシュマロが同行することになった。
























































