13:上書きしたい
何かとても幸せな夢を見ていたが。
すうっと自然に目覚めた。
そして目覚めた私の瞳に飛び込んできたのは……。
清々しい顔立ちの青年。髪の色はアイスブルー、瞳はラピスラズリ。鼻梁が通り、薄紅色の綺麗な形の口をしている。肌艶も良く、目覚めた瞬間に拝める顔としては最高のもの……って、これ、アンディに初めて会った時と同じシチュエーション!
え、なんで!?
時が巻き戻った!?
まさか――「とりあえず、背中の傷の治癒。あとは寝間着。それと3日間の看病。その代金として、お嬢ちゃんがつけていたネックレス、これは俺がいただくから」とこの後、言われたりする?
そう思い、アンディを見ると。
「おはよう、ナタリー! アーリー・モーニングティーを入れたから!」
爽やかな声でミルクティーを渡された。
「お、おはよう……。そしてありがとう……」
とりあえず上半身を起こし、受け取ったミルクティーを飲み、何が起きているのかと考える。お姫様気分は終わったはず。アンディの服装もいつもの白シャツに黒のズボンとブーツなのだから。
「アンディ、ミルクティー、美味しいわ。……でも突然どうしたのかしら?」
「……上書きしたくてさ」
「え?」
アンディは最悪な第一印象を変えたいと思っていた。つまり、私と初めて会った時。目を開けた私はアンディを見た。その私に対し、アンディは対価の要求をしている。それを……忘れて欲しいらしい。
「多分一度では無理だと思うんだ。だからこれから毎日。目覚めた瞬間の俺の笑顔を見てもらって。それでアーリー・モーニングティーをナタリーは飲む。そうすれば最悪な第一印象も……きっと上書きされ、いつか忘れると思う!」
そんな……あんな衝撃的な目覚め、忘れられるはずがないと思う。でもアンディはきっと上書きできると信じているようで、名案を実行中とばかりにニコニコしている。
どうして、そんなくだらないことにこだわるのかしら……? もはや笑い話で気にしなければいいのに。初対面の印象は、「イケメンだけど鬼畜」だったが、今は鬼畜とは思っていないのだから。
ただ、毎朝アンディのこの顔を見られるのは……無論悪くない。朝からいい目覚めになるだろう。
「さあ~、朝食だー!」
テンション高めのアンディは、私が飲み終わったミルクティーの入っていたカップを手に、部屋から出て行く。その後ろ姿を見送り、いつも通り、ワンピースに着替える。飾りはないシンプルなワンピース。明るめのフランボワーズ色で気に入っていた。
「アプリコットジャムがあるから、パンケーキを焼いている。ナタリーはサラダとスープを用意してもらってもいいか?」
「了解」
朝からパンケーキなんて初めてだった。というかこの家でパンケーキなんて初。
なんだろう。
イケメンとパンケーキ。
って。
デートみたい。
「ナタリー、蜂蜜もバターもあるから」
「あ、はい。ありがとうございます」
不思議。なんかこんなドキドキする朝食、初めてかもしれない。
モフモフの使い魔達も嬉しそうにパンケーキを食べている。
朝食の後の掃除や洗濯は。
いつも通りだった。いつも通りなのに。
ただ、そばでアンディが箒で床をはいている。
シーツをピンとのばして干している。
それを見ているだけで、なんだか嬉しくなってしまう。
昼食も。午後の食材調達も。
普段通りだったのに。
楽しい……。
これまでスルーしていたアンディの笑顔が眩しく感じてしまう。
この日の夜。
ベッドに潜り込んだ私は。
なんとなく気づいてしまう。
もしかしたら。
もしかすると。
私は……アンディのことが好きになっているのではないかと。
でも、アンディには運命の女性がいる。
その女性が今どこにいて、何をしているのか。
それは知らない。
ただ、ディーンも知る女性なのだ。
きっと古く長い知り合いなのだろう。
つまりアンディとその女性は絆が深い。今、一緒にいなくても。二人の想いは一つなのだと思う。それを邪魔するなんてこと、私はしたくない。
だから。
気付いてしまった気持ちは封印することにした。
もう別に恋愛はできなくていい。
平和に生きていければいいからと。
恋愛感情。
いや、恋愛感情とまでいっていなかったと思う。
淡い恋心。素敵な男子に対する憧れ。
それぐらいのまだ浅い気持ちだったから。
アンディは対価を払った私を家に置いてくれている大家さんみたいなもの。そう捉えることで、翌日以降はいつも通りに戻れた。
いつも通り――つまり日常。
この森の中の一軒家での日常。
アンディとモフモフの使い魔達と、心安らぐ自給自足の日常に戻った。
























































