SS:大切な人とニューイヤーを
森の散歩を終え、家へ戻ると、みんなで晩御飯の準備だ。
モフモフ達がザロックの森であまり食べることがない、ローストビーフやスモークサーモン。それらを王都から持ってきていたので、早速切り分け、食卓のテーブルへ並べる。
その一方でモフモフ達は、豊かなザロックの森の恵み……リンゴ、クルミを使ったサラダを作ってくれたり、自家製のローズヒップのジャム入りのパンを用意してくれた。
干し肉と庭の菜園で収穫しておいた根菜類を使ったスープもでき、デザートをどうしようかと考えていた時。
「ハッピーニューイヤー!」とディーンが訪ねて来てくれたのだ! しかも自家製のパイをお土産で持ってきてくれている!
そのパイは「フォーチュン・パイ」と呼ばれ、レーズン、ドライイチジク、オレンジやレモンピールなどのドライフルーツと、たっぷりのスパイスが入っている。サクサクの生地と甘酸っぱい味わいで、子供から大人まで人気のパイだった。そして「フォーチュン・パイ」と呼ばれる理由。それはパイの中に、そら豆が一つだけ入っている。そのそら豆が入っているパイを引き当てると、この一年、最強で過ごせるというのだ。
「ディーン、ありがとう! 丁度、デザートをどうするかと思っていたの」
「それは良かったです。アンディはいつもニューイヤーズ・デイに我が家を訪れ、一緒に食事をし、このフォーチュン・パイも食べていたんですよ。アンディにとっては思い出の味。ナタリー嬢もぜひ味わってみてください」
これを聞いた私はとても嬉しくなる。アンディの思い出の味。どんな味なのか気になってしまう。それにフォーチュン・パイは、入れるドライフルーツ、スパイスが各家庭で変わる。伝統的なレシピにアレンジを加えるので、各家庭で微妙に味わいが違うのだ。その味をちゃんと覚え、アンディに作ってあげたいと思い、ディーンにレシピを聞いていると……。
「ナタリー、そんな気を遣わなくていいよ。俺はナタリーが作るものなら、なんだって大好きになる。だってナタリーが俺を想い、作ってくれるものだろう? 好きにならないわけがない」
「アンディ……!」
思わずアンディに抱きつきたくなるのを我慢して、みんなで夕食だ。
「「「「「いただきまーす」」」」」
声を揃え、食事が開始する。
「アンディ、王都でのニューイヤーはどうだった? 国王への新年の挨拶、地方領の領主は1月5日以降でいいとされているだろう。だから王都の貴族以外は皆、領地で新年を過ごす。王都のニューイヤーはニュースペーパーでさらっと読むぐらいだけど……実際はどうなんだい?」
「うーん、多分、他の領地と似たり寄ったりだよ。ニューイヤーイブに舞踏会をやって、街の方では王都民がカウントダウンイベントしている。0時の鐘が鳴った瞬間に花火が打ち上げられ、港の方では汽笛も鳴らす。そしてニューイヤーズ・デイは午後から陛下への新年の挨拶があり、夜に晩餐会。辺境伯領もこんな感じだろう?」
「そうだね。花火の打ち上げないけど、寒空の下、楽団が演奏をするから、0時の瞬間はみんな踊って大賑わいだ。そうか。王都と言えど、地方領と大差はないのか」
そんな話をしながら食事は進み、あっという間にデザートとなる。
つまりはディーンが持参したフォーチュン・パイを切り分け、ミルクティーと一緒にいただくことになった。
「これはカットする人も緊張するし、どのピースを選ぶかでもドキドキする」
「はは。アンディ、ならばパイを切るのは僕がやろう」
こうしてディーンが切り分けてくれたパイをのせたお皿を、せーのでみんなで一斉にとる。
パールとブラウンは同じお皿に手を伸ばしたが、そこはレディファーストでパールが譲った。
モフモフ達はなぜか全員が同じお皿に手を伸ばし、爆笑することになる。
そんなこんなでパイが全員に行き渡ると「いただきます!」だ。
しばらくみんな真剣にパイを食べている。
誰がそら豆を引き当てるのか。
もしや私……?
「あっ」
声の主をみんな一斉に見る。
「ごめん。僕が引き当ててしまった」
「なんであやまるんだよ、ディーン! 去年は俺が引き当てた。そして今年はディーンがわざわざこのパイを持ってきてくれたんだ。主はディーンのそういうところ、ちゃんと見ていてくれたってことさ」
アンディがそう言うと、パールはこんなことを言う。
「それにディーンはまだ婚約者もいない。今年こそ婚約者ができるようにって、そら豆様の思し召しかもしれないぜ!」
これにはディーンは「まさか」と驚きつつ、「でもこの一年、僕もみんなも、元気で幸せになれるといいな」と朗らかに笑う。
ディーンは私達にとって大切な友人だ。
彼が幸せになってくれたら、みんな嬉しい。
ザロックの森で、モフモフ達とディーンと過ごしたニューイヤー。
それは大切な人の幸せを願う、温かい時間をもたらしてくれた。
お読みいただき、ありがとうございます。
実家に帰省している読者様も多いのではないでしょうか。
大切なご家族や親戚の方々と温かい時間を過ごせたらいいですね☆彡
そんな思いで書き上げました。
お楽しみいただけたら幸いです(*^^*)
























































