62:騒動の後に
「ナタリー、皇帝が決断したよ」
森の家に向かう金曜日の夕方。
濃紺のスーツにパールシルバーのローブをあわせたアンディが、エントランスホールに姿を現わすと、開口一番で告げたのが、今の言葉だ。白いレースとフリルで飾られたワンピース姿の私は、アンディに話の先を促す。
「続きは食事をしながらだ。まずは森の我が家へ帰ろう」
アンディは両親に会釈してからパール、ブラウン、マシュマロがいることを確認すると、魔法を使う。
あっという間に森の家に到着し、お留守番のもふもふの使い魔達に、熱烈大歓迎を受ける。
夕食は窯焼き具沢山パン……前世で言うならピザと決めていた。
もふもふの使い魔達は、既にパン生地を準備してくれている。アンディがお風呂の準備をしている間に、生地に肉や野菜やチーズをのせ、火にかけた。
さらに屋敷から持参していたプレーンクッキーにさまざまなジャムをサンドし、ジャムサンドクッキーをデザートに用意。ピザの焼き上がりはアンディに任せ、私は入浴だ。
「ナタリー、いい感じで焼けた。食べよう!」
白の寝間着にラベンダー色のガウンを着て浴室を出ると、髪はアンディが乾かしてくれる。終わるとみんなで夕食スタートだ。
もふもふ達が食べるのに夢中になっている中、アンディとは例の件について話すことになる。
「身柄を引き渡されたストリアは、ブルームーン帝国で即裁判になった。皇太子に対する件も含まれていたから、それはもう迅速。予想通りの死刑判決だった」
これには「そうなのね……」と言うしかない。
「ただ、異例なことだけど、その死刑実施時期は未定。実施までの間は誓約魔法による縛りを受け、孤児院での奉仕活動が義務付けられた。表向きは。きっと帝国のあれやこれやの頼まれ事をすることになるのだろけど……」
やはり隷属し、酷使されるのかしら?
「勿論、モルデル島に収監されることはない。ただ、一年に一度。ファーガソンと面会できるそうだ」
「え、そうなの!?」
「ああ。ストリアがファーガソンの所にいた子供だったとは、マルセル国も今回初めて知ることになった。森に子供を放置したのは、当時、現場に赴いた兵士達だ。しかも子供がいたなんて報告も上げていない。ゆえに国としては知らなかったわけだ。とはいえ幼い子供を森に放置したことは、許されることではない。よってマルセル国としても、非があったと認めることになった。よって皇帝に対し、国王陛下自身も、ストリアへの配慮を求めた。それを受け皇帝も『そのような事情があったのか』と考慮したのだろう」
どうやらブルームーン帝国の皇帝は、無慈悲な権力者……というわけではないようだ。皇太子が謀殺されたと思った時は、怒りに任せ大軍を送っていた。だが納得できる理由があれば、それを受け入れる寛容さがある。
「勿論、二人とも魔術師。口を開けば呪文を唱え、何をしでかすか分からない。誓約魔法があっても、お互い対面している時に会話は……認められないだろう。ただ、お互いの顔を見るだけになる。それでも一年に一度。互いの無事を確認できるなら……本来即刻死刑になるはずのストリアにとっては、上々では?」
その通りだと思う。実質、無期懲役、終身刑になることで、ストリアを信奉する魔術師達も、静観するかしない。何か問題を起こせば、即死刑になる可能性もあるのだから。それに落としどころとして妥当に思えた。
「ナタリーが声を上げなかったら、聖女ルビーも何も言わなかったかもしれない。ナタリーと聖女が声を上げた。さらにストリアが森に打ち捨てられた過去も明らかになった。だからこそ陛下も、格段の配慮を求めた。ゆえにこの結果は……ナタリーの勇気のおかげでもある」
「そう言われると……でも遺族は納得するかしら?」
「陛下と皇帝の判断だ。それにいつでも死刑にできる状態。それだけじゃない。帝国でも遺族からの嘆願書は、受け入れると言っている。つまり死刑を求める声が一定数だったら、刑は執行されるんだ。あとは遺族へ補償もあるし、ストリアの奉仕活動の報告も、希望者には定期的に知らせるらしい」
主の教えに従うなら、この世界の基本理念は“赦す”ことだった。
罪を正当化することはない。
ただ個人的な憎しみ、復讐心を捨て、相手を赦す。
赦すと同時に咎人には、悔い改めることが求められる。
ストリアが改心を示せば、主の御心に従い、赦しを与える――それがこの異世界の価値観だった。この教えを平民から王侯貴族まで信奉しているのだから……。前世持ちの私からすると、ただただすごいと思ってしまう。つまり遺族が嘆願書を出す時は、ストリアの改心が認められなかった時のはずだ。そしてストリアは師であり、父親代わりだったファーガソンに会うため、改心すると思う。
「そうそう。宮殿の庭園のトピアリーや花壇、聖女の回復で、新芽が生え始めている」
「そうなの!」
「うん。魔法では燃えた草木を戻すことはできない。でも聖女の力ならそれが可能だから」
森の家で長く暮らしていたアンディだからこそ、庭園が火事になったことに、心をとても痛めていた。
さらに魔術師ではあるが、燃えた木々や花を復活させることはできないことを、悔しがっていたのだ。でも聖女ルビー。彼女がいてくれて本当によかった。
「あ、あと晩餐会の使用人達。彼らについての調査報告も上がった」
つまり毒入りシャンパンを給仕した使用人達だが、その行動は魔法で制御されていたのかと思ったら……。
「それぞれ闇を抱えていた。一人は同僚のメイドを妊娠させてしまい、結婚を迫られ、困っていた。協力すれば、そのメイドを始末すると約束され、犯罪に加担していたんだ。他にも宮殿の調度品を盗んでた者。実は家庭内暴力をしていた者とか……調べたら埃が出てきた。つまりはそれらの弱みにつけ込み、かつその悪事の手助けをするから、協力しろ……と、手を組んだようだ」
つまり彼らに関しては、悲惨な最期を遂げることになったが、そうなってもおかしくない素地があったわけだ。だからといって私刑が許されるわけではないが……。
「ストリアにより、宮殿内部の膿を一掃できた……とも言える。これは何だか皮肉な話だけど」
そこで食事が終わり、お留守番もふもふへのお土産を渡す時間だ。
それが終わったら、食後の紅茶とジャムサンドクッキー。
アンディは喜んでクッキーを食べ、そして後片付けを私に任せ、自身は入浴の準備だ。
「さあ、みんな、もう満腹でお眠よね?」
「「「「ふぁ~、眠いよぉ~」」」」
もふもふ達をまとめて抱っこし、古参のパール、ブラウンには先に私の部屋へ行ってもらう。アンディの部屋に向かうと、ベッドの枕元にマシュマロと抱っこしていたもふもふ達を下ろす。
「「「「アンディ、まだ~?」」」」
「まだよ。先に寝ていてね」
順番に頭を撫でると「はーい」と返事をして目を閉じて行く。
あっという間に「すー」「ぴー」の寝息の大合唱だ。
リビングダイニングルームへ戻ると、お風呂上りのアンディがソファで寛いでいた。
アイスシルバーのガウンがとても彼に似合っている。
そっと背後から近づき、目隠しをすると、アンディがクスリと笑う。
「ナタリー」
甘々な声で私の名を呼ぶと、目隠ししていた手を掴み……。
「ちゅっ」と手の平にキスをした。
そして顔を上げ、私を見ると、ラピスラズリのような瞳をキラキラと輝かせる。
「ナタリー、サプライズだ。実は取得予定だった休暇を取ることにした。来週の月曜日から一週間」
「え……じゃあ今日からこのまま……」
「そう。森の家でのんびりできる。必要なものは魔法で用意するから、楽しく過ごそう。使い魔達には明日の朝に教える。きっと大喜びだ」
私はソファに座るアンディに抱きつく。
「それは私だって同じ! 嬉しいわ!」
「ナタリー!」
アンディもぎゅっと私を抱きしめた。
お読みいただき、ありがとうございます!
アイスシルバーは明るく、水色を感じさせるグレーというイメージで使っています♪
建国祭にまつわる事件はこれにてひと段落です~
ただ、とある人物が一連の事件にどう関わっていたのか。
気になっている方もいると思うので、明日はその方のモノローグを公開します!
























































