61:その罪
ストリア・ティロール。
自身が師匠と仰ぎ、父親と尊敬する元王宮付き魔術師ファーガソン・モーランド。彼をモルデル島の幽閉施設から救い出すため、彼女が手を染めた悪事は……。
そもそもは私を害し、アンディに復讐するためのレース事件に遡る。
そこから晩餐会でシャンパンに『Na2toxin』という毒物を混ぜ、ファーガソン失脚につながった人物と、マルセル国の友好国に打撃を与えようとした。だがそれを未然にアンディにより阻止されると……。アンディを憎み、私を攫う計画を立てるも、メビウス・リングの魔法が発動し、失敗に終わった。
そこで『Na2toxin』を使った毒殺案が失敗した場合に備え、用意していたプランB。街中の主要な建物の爆破計画を実行することになる。同時に。皇太子がマルセル国により謀殺されたという偽の報告を皇帝に行っていた。これにより皇帝は、弔い合戦のための大軍をマルセル国に向け、送り込むことになった。
その一方でファーガソンの脱獄計画は、遥か遠くのモルデル島で着々と進行していたのだ。
そんな状況で迎えることになったガーデンパーティー。
私達に揺さぶりをかけるため、ストリアは魔法を使い、トピアリーに火を放った。宮殿内での火災。それだけでパニックになる案件だ。その上で街へ移動したストリアは、次々と爆破事件を起こす。そして私達にもたらされた三つの未曽有の事件。時計塔の爆破。モルデル島での暴動。謎の大軍の進撃。
アンディや聖女ルビー、騎士団や団長、オルドリッチ辺境伯とディーン、ルマン、そしてアンディの部下になる数名の魔術師の活躍により、大きな被害は食い止められた。だが被害はゼロではない。死傷者は出ているのだ。
これだけではない。
ストリアは自国の皇太子に誓約魔法をかけ、意のままに操っていた。虚偽の報告を皇帝にも行っている。もはや罪を挙げたらきりがない……そんな状況だった。
事件から数日経った昼下がり、宮殿を訪れた私は、アンディと王宮の庭園のパーゴラ(藤棚)でお茶をしていた。二人とも申し合わせたかのように、アイリス色のセットアップ、ドレスをそれぞれ着ている。そして私はお茶をいただいているが、アンディは遅い昼食でビーフシチューを食べていた。パンをシチューにひたしながら、アンディはこんな話を始める。
「ストリアはマルセル国に外交官という立場で入国していた。帝国魔術師という肩書はあるが、その立場は外交特権が成立する外交官。ゆえにその身柄はブルームーン帝国へ引き渡されることになる。ただ、勿論、帝国も理解しているはずだ。マルセル国でテロを起こしたんだ、ストリアは。建物はルマンにより復興された。だが人命が奪われている。極刑は免れることはできない……と思うけど……」
アンディはストリアの処遇についてこんな懸念を示す。
「誓約魔法を別の魔術師に掛けられ、生き地獄を味わうことになる可能性もある。ストリアは魔術師だ。処刑するには惜しい……となれば、奴隷のように酷使されるかもしれない」
「もしそうなったらストリアは……死を選びそうだわ」
「誓約魔法は、破った時の罰が、自分の死だけではない」
恐ろしいことをアンディが言い出し、私はドキリとする。
「もしこの誓約を破れば、ファーガソンを殺す――そう言われたら、ストリアは従うしかないだろう。ファーガソンはマルセル国でも罪人だ。もし皇帝から好条件と引き換えで、ファーガソンの処刑を交渉されたら……陛下も断らないだろう。断る理由もない」
「とても……恐ろしい話だわ」
「だがストリアはそれだけの罪を犯しているのも事実。仕方ないといえば、仕方ない」
同情する必要なんてないだろう。失われた命があるのだから。
ただ……。
ストリアがファーガソンや元神官長のカルロ・キージのように。
私利私欲のために動いたなら、極刑でいいと思う。
奴隷のように酷使されても自業自得と思える。
でも、ストリアは違うのだ。
恩人を助けたい一心で、暴走した――と思う。
さらに幼い頃の苦労が、彼女の心を歪めたのではと考えてしまうのだ。
「モルデル島に収監することはできないのかしら? きっと帝国の裁判では、死刑判決が出るでしょう。その上で誓約魔法をかけられ、魔術師として酷使されるなら……。せめてファーガソンのいるモルデル島に収監してもらい、月に一度ぐらい、ファーガソンと面会できたら、彼女の心の在り様も変わらないかしら?」
「ナタリー……。爆弾を渡され、大聖堂から飛び降りることを余儀なくされたのに。ストリアを助けたいのか?」
アンディに問われた私はその理由を話す。それを聞いたアンディは……。
「そんな風に考えられるなんて、ナタリーぐらいだと思う。慈悲深い考え方だ。ただその生い立ちの影響。恩人のために暴走したという考え方は……。それはそうなのかもしれない。進言だけはしておこう。でももしもストリアのせいで、俺がモルデル島で命を落としていたら……。今のような考えに至ることはできた?」
「それは……できないかもしれないわ。当事者になったら、そんな冷静な判断、できないと思う。即刻死刑を望んでしまうかもしれない……」
「ごめん。ナタリー。意地悪な質問だった。でもその反応が間違いだとは思わない。当事者ではどうしたって死刑しか望めない心理状況になるだろう。だからこそ客観的に見ることができる、第三者の存在が重要だ」
そう言うとアンディは私を抱きしめ「心優しいナタリーが大好きだよ」と言うと、約束通り国王陛下経由で皇帝に進言をしてくれたのだけど……。もう一人、私に同意を示してくれる人がいた。それは……。
「負の連鎖を断ち切る必要があります。もしもストリアの命を絶てば、遺恨が残るでしょう。ストリアに付き従った魔術師がいるのです。帝国内にはストリア派と呼んでいい一派が存在すると思います。ストリアにもしもがあれば、彼らが動く可能性もあるでしょう……」
聖女ルビーだ!
王宮付き魔術師であるアンディと聖女ルビーによる進言。
これを受けた皇帝は……。
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