59:一緒にいたい
王宮に戻ると、程なくして夕食会がスタートになった。
アンディと共に同席した私は、新たな情報をいくつか知ることになる。
まず、オルドリッチ辺境伯とディーン。
アンディの魔法で二人は領地へ戻り、ブルームーン帝国の侵攻に対処することになった。
かつての戦乱の時代であれば。
侵攻してきたとなれば、血気盛んに即戦闘開始だった。
だが今は平和な時代。
しかも相手の軍がどこの国かも不明なのだ。
まずは話し合いをとオルドリッチ辺境伯は考えた。
そこでディーンが交渉を呼び掛け、帝国軍は……応じてくれたのだ。
皇太子が暗殺された……という報告は帝国魔術師から上がって来たが、潜入させている諜報部員からの連絡は途絶えている。皇太子が謀殺されたぐらいだから、諜報部員も既に命を落とした……という可能性もある。だが帝国軍の指揮官は皇帝よりも冷静だった。皇帝は身内を、皇太子を害されたのだ。頭に血が昇り、冷静な判断ができていない可能性もある。ゆえに指揮官はディーンと会い、侵攻理由を伝えることになった。
マルセル国による皇太子謀殺。それに対するブルームーン帝国の報復攻撃と知り、ディーンは大いに驚くことになる。そして説明に追われた。皇太子を暗殺などしていないと。王都の宮殿の一室で、皇太子は健在であることを伝える。そして本来、自国が不利になるので明かさない情報も開示した。つまり王都で爆破事件が起きていること、元王宮付き魔術師や元神官長が収監されているモルデル島で暴動が起きていることを明かしたのだ。
このことが功を奏した。
重大な情報を明かすことで、指揮官から信頼を取り付けることに、ディーンは成功。さらにそこへ王都から真相を伝える伝書鳩も届く。つまり帝国魔術師ストリアによる裏切りであることが判明。
最終的に戦闘することなく、解決となった。
同時に。
ストリアが捕らえられた件は、皇帝の元へも伝えられている。誓約魔法はストリアの手で解呪され、皇太子自身も、自らの無事を知らせる直筆の手紙を書いた。それも皇帝へ届けられたのだ。これで誤解は完全に解け、皇帝からはお詫びの書簡と今後の友好関係を深める提案書も、国王陛下に送られてきている。
まさに雨降って地固まるとなったわけだ。
夕食会とは言え、こんな感じで真剣に聞く話も多く、食事の後は……かなりぐったりと疲れてしまった。そんな私のことを、アンディは魔法を使い、あっという間に屋敷まで送ってくれる。そして私にゆっくり休むように告げると、もう王宮へ帰ろうとしていた。
「アンディ!」
私はアンディにぎゅっと抱きついてしまう。
「どうした、ナタリー?」
「アンディをモルデル島で見つけた時、心臓が止まりそうだった。ルマンさんがそばにいて、いろいろアドバイスをくれたから、なんとかアンディを連れ、王宮に戻ることができたと思うの。ようやくアンディは目覚めたけど……。もう少し、一緒にいたいわ」
本音は帰らないで欲しかった。このままアンディとベッドで休みたい気持ちになっている。でもそんなこと貴族令嬢という立場で言えるわけがなかった。だから……。
一緒にいたい――これが私の言える精一杯だった。
「……ナタリー、ありがとう。そう言ってもらえて嬉しい。俺も……もっと一緒にいたかったから。本音は朝まで一緒にいたい……」
「アンディ、私も一緒がいい」
するとアンディは私の頭を優しく撫で「じゃあ、きちんとナタリーの両親に挨拶をしよう。ナタリーが王宮に来ていたこと、夕食を共にしたことは知っている。送り届けに来たけど、良かったら客間に泊めてくださいって」――そう言ってくれたのだ!
私は大喜びでアンディを応接室へ案内し、そして両親を呼び出す。
二人とも食後のお酒を楽しんでいたようで、ほろ酔い状態。
それもあり……。
「どうぞ、どうぞ、婿殿! 客間を好きなだけお使いください」
「ナイトティーは二人で楽しんだら?」
なんとナイトティーも一緒に飲んだらと言ってもらえたのだ!
これにはもう大喜び。
さっきまでグッタリしていたのに。
それが嘘のようだ。
私はもう元気いっぱいに復活している!
すぐにアンディを客間に案内してもらうと、寝るための準備開始だ。
「ナタリー、良かったな。今後はアンディがこの屋敷に泊まる日も増えるんじゃないか?」
「というか森の家でも金・土・日と過ごしているでしょう。それで頻度が増えたら……もう一緒に暮らせばいいのにぃ~」
パールとブラウンの指摘はご尤もだ。私だってそうしたい!
でもこの乙女ゲームの世界。
貴族令嬢は婚姻前に同棲なんて許されていない。
でも既に週三日。
森の家で過ごすことを許されているのだ。
これ以上の贅沢は言えない!
ということでドレスを脱いでいる間に入浴の準備を進めてもらい、用意が終わるとすぐに浴室へ向かう。入浴が、前世のように烏の行水をしそうになり、気持ちを落ち着かせる。ちゃんと体を洗い、髪を洗って……。
ミルク色の寝間着に着替え。イチゴ色の厚手のガウンを羽織る。髪はメビウス・リングの力を借り、あっという間に乾かしてしまう。ソーニャ達メイドには、ブラウンの魔法で乾かしてもらったことにして。
みずみずしいピオニーの香油を髪につけたところでアンディが尋ねて来てくれた。
さらにナイトティーも到着。
眠る前の三十分。
アンディと過ごせた時間は、とてつもなく幸せに感じてしまう。
最後は「おやすみ」でぎゅっと抱き合い、アンディは客間に向かった。
























































