57:邪魔をしていたのは……
結局アンディは収監されている全員を目覚めさせ、マシュマロに誘導させ、建物から避難させることに成功した。だがその間に、魔術師達はファーガソンを解放してしまう。
ただ、もう建物が崩れようが関係ない。
避難は終わっている。
ファーガソンと四人の魔術師 対 アンディとの戦闘が始まった。
その戦闘がどれだけ凄まじいものだったかは、その場に居合わせたわけではないが、分かっている。
戦闘終了後の廃墟。
魔力切れになったアンディ。
たった一人で、元王宮付き魔術師と四人の魔術師を倒したのだ。
肋骨の骨折は大怪我だが、体の一部を失うとか、重体で発見されてもおかしくない状況。
本当にアンディはよくやったと思う。
「それにしてもまさかナタリーが、モルデル島に来てくれるとは思わなかった。一体、ナタリーの方で何があったの?」
食後の紅茶を飲むアンディに、私は全てを話すことになる。
この騒動の犯人を、私はブルームーン帝国の皇太子だと思っていた。
ゆえに彼が逃亡していないか。その確認のため、彼の部屋をメイドに変装し、訪れた。そこで王都のあちこちで爆破事件を起こす犯人が女性の凄腕魔術師であることを知る。その正体がストリアであると気付き、迷うことになった。
皇太子は敵なのか、味方なのか。
ただ、ストリアは誓約魔法に縛られ、行動しているとすっかり思い込んでいた。
ゆえに、皇太子はやはり敵。
ストリアは交渉すれば、これ以上の爆破を思いとどまってくれると思った。
「アンディと宮殿でおとなしくしていると約束したけれど、ストリアが犯人なら話は別。これ以上の爆破は回避したい。そのためにストリアに会って話したいと思い、宮殿を抜け出すことにしたの。協力してくれたパール、ブラウン、護衛の騎士のことは責めないであげて。私が無理矢理説得したのだから」
「大丈夫だよ、ナタリー。今回は非常事態だった。それに……ごめん。ナタリーを危険な目に遭わせたくないと思い、黙っていたことがある」
そこでアンディは打ち明けてくれた。
聖女ルビーが予言していたことを。
建国祭の最中、不穏なことが起こりそうである。そしてこの災厄を乗り越える鍵は私にあると。しかしその過程で私は辛い体験をすることにもなる。危険な目にも遭う。だが奇跡を起こせるのは私だけだと。
それを聞いたアンディは聖女ルビーにこう告げることになる。
「君は聖女で、俺は魔術師。だがナタリーはただの人間だ。誰かを回復させることもできない。魔法も使えない。そのナタリーが危険な目に遭うのを見過ごすことなんて無理だ。しかも君の予言だって万全ではないはず。何しろ邪魔が入って、はっきり見通すことができていないのだろう?」
アンディの心配もよく分かる。彼の言う通りで、メビウス・リングがあっても私はただの人間だった。それに予言が完全に見通せない。そう、そうなのだ。聖女ルビーの邪魔をしていたのは、元神官長のカルロ・キージだった。
ファーガソンから脱出計画を聞かされたカルロは、聖女の力を弱めるため、禁忌の祈りを捧げていたのだ。その影響を受け、聖女ルビーは千里眼で、未来をクリアに見通すことができなくなっていた。
「俺はナタリーに何も話さないと決めた。聖女も口をつぐんでくれたんだ。でも結局、主の采配があったと思う。だからこそ、ナタリーが動くことになったと思う。聖女が見た未来は正しかった」
「なるほど。そうだったのね。これを見て、アンディ」
「それは……ロザリオだろう?」
私は首から下げ、ドレスの中にしまっていた、聖女ルビーにもらったロザリオを見せた。
「宮殿を抜け出し、パールとブラウンにストリアの魔力を追ってもらったら、聖女ルビー様に辿り着いたの。それはアンディの言う通り、主の采配だったのかもしれないわ。彼女からも『やはりこうなる運命だったのですね』と言われて……」
そこで聖女ルビーから改めて、多くの悲劇が起きるが、奇跡も起きる。その奇跡を起こせるのは私だと言われたことを伝えた。
「そうか……。そうなったら聖女も明かすしかなかったのだろうな」
「そうだと思う。ただその奇跡を起こすにも勇気が必要だと言われて……。このロザリオを彼女が私に贈ってくれたの。そして確かに役立ったと思うわ」
ストリアの告白を聞き、心が折れそうになった時。
このロザリオに触れることで気持ちを立て直せた。
「それでナタリー、聖女と会った後は?」
「聖女ルビーと別れた後は……」
その後は大聖堂へ向かい、そこで遂にストリアを見つけ、メビウス・リングの魔法で彼女の元へ行き――。
そこでストリアとの会話を漏れなく聞かせると、アンディは驚愕した。
「導火線に火をつけた爆弾をナタリーに渡したのか!? その上で、絶望を抱いてい騎士団と共に死ぬか、絶望と共に飛び降りるかを迫るなんて……。許しがたいな。当然、メビウス・リングの魔法が」
「違うの、アンディ。そこでなぜかルマンさんが現れたの」
「……誰だよ、ルマンって……?」
整った顔立ちのアンディがぽかんとした顔をした。
それは……なんだかとても愛らしい!
























































