53:救出と復讐
「ナタリー、あれだ。あの大聖堂だ!」
パールの言葉にやってきたのは、昨日、建国祭の祝賀行事が行われた大聖堂だった。
見ると正門から突入していく騎士達の姿が見える。
騎士団長がいるということは。
間違いなく、この大聖堂に彼女もいる!
「ナタリー様、鐘楼のところに人が見えます」
護衛の騎士の言葉に顔を上げると……。
確かにいた。
しかも手には何かを持っている。
え……あれは……!
爆弾!
爆弾を持っている!
止めないと!
その一心だった。
パールもブラウンも、護衛の騎士も置いて、私の体は鐘楼にいる彼女の所へ移動していた。
メビウス・リングの魔法が発動した結果だ。
私が突然現れた気配を察知したのだろう。
碧いローブに流れるような銀髪。
彼女が……ブルームーン帝国の帝国魔術師のストリア・ティロールが、驚愕の表情で私の方を振り向いた。
「! えっ……?」
「ストリア様、もうやめましょう」
「な、ナタリー様!? いつの間にここへ!? それにその姿は!?」
私はゆっくり彼女の方へ歩み寄る。
「ストリア様を止めるため、宮殿から抜け出して来ました。これはそのための変装です。……もう十分ですよね? 時計塔、噴水広場、アカデミー、王立公園、市庁舎まで爆破した。例え誓約魔法があってもやり過ぎです。王都は壊滅的な状態。誓約魔法を解く方法を一緒に考えましょう」
「……本気で言っています?」
驚いた表情のストリアが尋ねた。
「はい。本気です」
「ここへ来たのは……何か魔法のアイテムでも使ったのですよね。ナタリー様、あなたは無謀過ぎます。魔法を使えないのに、私に会いにい来るなんて」
「だってストリア様は本心ではないでしょう? 本当はこんなことをしたくないはず。それなら話し合いで解決できると思い、ここへ来ました」
ストリアは大きく息を吐くと、私を眩しそうに見る。
「ナタリー様の純粋さが羨ましく、そして憎いです」
「え……」
「アンディ様もそう。真っ直ぐで、優しくて、本当にいい人。でもダメなんです」
「そんなことないですよ! 諦めないでください!」
私の言葉にストリアは笑う。
「ええ、諦めていません。諦めていなかったから、ここまでやれたのです」
「……?」
「王宮付き魔術師だったファーガソン・モーランド。彼は私の師匠であり、父親代わりでした。彼は孤児だった私を引き取り、魔力を持っていることに気付き、魔術師として育ててくれたのです。でも師匠は魔力の強さを買われ、マルセル国へ連れてこられました。中立地帯で知られる森で、師匠と私は静かに暮らしていたのに。私は大した魔力はないと、森へ置いてきぼりになり……」
ストリアが突然語り出したことを、私は目を大きく見開き、聞くことしかできない。
まさかあの老獪ファーガソンがストリアの師匠であり、父親代わり!?
「幼い私は森の中で、一人では生きて行けない。その後、奴隷商人に捕まり、そこから逃げ出して……紆余曲折を経て、ブルームーン帝国に流れ着いた時には、立派な魔術師に成長していました。生き残るためには魔力を使い、魔法を行使するしかなかったから……」
そこでストリアは眉をきっと上げる。
「人間の欲望、したたかさ、ずる賢さ……全部見て育ちました。そんなもの、見たくなかったです。そう言ったものと無縁で育ったであろう、アンディ様とナタリー様が羨ましいです」
「そ、そんなことはないわ。私もアンディも」
「話の腰を折らないでください」
これにはぐっと言葉を呑み込むことになる。
「人間の汚さを目の当たりにして……でもその分、私は世渡り上手になりました。帝国魔術師に登り詰め、師匠にも堂々会いに行けると思っていたのです。この建国祭で師匠に会えると。それが……モルデル島にある幽閉施設に収監されただなんて……!」
ストリアは爆弾を赤ん坊のように大切そうに抱きしめる。
「師匠を救い出すために計画を立てました。皇太子を脅し、誓約魔法をかけた結果。彼は私の駒の一つになり下がりました。昨日……あなたを攫い損ねたのは大失敗です。私を邪魔したアンディ様をぎゃふんと言わせる計画だったのに。あんな風に魔法が発動するなんて。アンディ様が用意したアミュレット(御守)は相当なものだった……」
そう言うとストリアは美しい顔に残酷な笑顔を浮かべる。
「でもナタリー様もアンディ様も、すっかり私を信じましたよね。その姿を見たら、溜飲も下がりました」
ストリアの耳を疑いたくなる言葉に、私は声が出ない。
「……舞踏会で何かするつもりはなかったのに。随分と警備体制を強化していましたよね。その様子も滑稽でした。今、王都のあちこちで火の手が上がっているのは、アンディ様とナタリー様のせいです。そもそもは晩餐会のシャンパン。あれが成功していれば、プランBを実行することはなかったのに」
つまり晩餐会でアンディが『Na2toxin』が利用されることを阻止したので、ストリアは頭にきた。アンディをぎゃふんと言わせようと、私を攫おうとした。舞踏会で何か起きるかもしれない、そのため舞踏会を中止するためにストリアが騒ぎを起こした……そんなことはなかったのだ。
その事実を知った私は……とんでもない衝撃を受けている。
それでも脳をなんとか働かせる。
ストリアは、師匠であるファーガソンを救出するために動いた。
救うと同時に復讐も兼ねていたと思う。
つまりファーガソンが失脚するきっかけになった国王陛下、王太子、王家を支える重鎮や友好国、そしてアンディや私もターゲットだった。でもまさか、修道院にいるヒロインまで利用するなんて……。
それに毒殺を防いだから、代わりにターゲット以外の無関係な王都民まで巻き込み、爆発を起こしているというの……?
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