52:本心ではないはず!
――「今、起きていることだけに囚われないことです。過去の亡霊は諦めていません」
彼女はそう、教えてくれたのだ。
だから今、爆破事件を起こしているとしても、それは本心ではないはず。
皇太子の演技に騙されてはいけない。
彼は彼女を動かしている張本人なのだ。
いかにもこの事態に同情しています……という態度だが、それはカモフラージュ。
深呼吸して改めて頭を整理する。
爆破事件の犯人が誰か分からないのなら、私はこの宮殿でアンディの帰りを待ち続けた。
でも犯人が誰であるか分かってしまったのだ。
しかも彼女は本心ではなく、誓約魔法に従い、動いている。
それならば止められるかもしれない。
護衛の騎士に事情を話し、街へ向かい、爆破事件を起こしている魔術師を止めたいと話した。
「そんな! 危険です。しかも説得に応じる保証はないのですよね?」
「それは……そうです。でも彼女はアンディと私に打ち明けてくれようとしました。誓約魔法がなければ、私達の味方になってくれたはずです。それに説得は……してみないと分かりません」
しばらくは護衛の騎士と問答を繰り返していたが、ついに侍従長が来て、状況の説明がなされた。
それによると時計塔、噴水広場、アカデミー、王立公園、市庁舎などが既に爆破されているという。次のターゲットは王立学園、大聖堂、貴族の目立つ大邸宅なのではないか……というのだ。
これを聞いた貴族は、自身の屋敷がターゲットになるかもしれないことに青ざめている。
「実はアンディから魔法を発動できるアイテムも預かっているから、いざという時はそれでなんとかするわ。だからお願い。行かせて。みんなの屋敷も被害にあったら……避難はしているかもしれない。それでも大変でしょう?」
護衛の騎士達は、宮殿内の宿舎で寝泊まりしている。だが既婚者だったら家族が、未婚でも婚約者や恋人が、王都に住んでいるのだ。皆が危険な目に遭っていると分かると……。
「分かりました。自分の命を賭してでもお守りします」
こうして説得した護衛の騎士と共に宮殿を出ることになったが、ドレスではダメだ。そこでブラウンに、騎士見習いのような服に変えてもらった。白シャツにアクアグリーンのズボン、濃紺のマント。髪は後ろで一本に結わいた。これなら中性的で、少年に見えるかもしれない!?
いろいろ心配したが、宮殿の出入りは、出るよりも入る方が制限されていた。
というのも避難した王都民が、沢山詰めかけていたのだ。
全部を全部受け入れると、大変なことになる。そこで怪我人や老人、子供、女性を中心に受け入れを行っていた。そして詰めかけている人達は、血を流している者、泣きじゃくる赤ん坊を抱いている母親、主への祈りを必死に唱える老人……。
彼らの姿を目の当たりにした私は強く思う。
絶対に止めないといけない。
「パール、ブラウン、彼女の魔力、追える?」
「任せとけ!」
「行くわよ、ナタリー!」
こうして彼女を追い、私達は宮殿を出た。
◇
馬車道には放置された馬車や荷馬車で溢れていた。
しかも馬具を外された馬が、突然走り出してきたりするので、ドキッとしてしまう。
爆発があった場所には、大きな岩のような塊が転がり、噴水広場は雨が降っていないのに一面水浸し状態。怪我人の治療はその場で行われ、その様子は野戦病院であり、騎士の姿も多数見える。
迷子の子供も沢山いて、聖職者らしき男女が声を掛けていた。
もしや近くに聖女ルビーがいるのでは……?
そう思ったら、いた!
怪我をした老婆に回復を行っている。
「聖女ルビー様!」
私が声を掛けると、一瞬「?」となったが、「ああ、ナタリー様!」と驚きの声をあげる。
そこで自分が男装していることを思い出す。
「一体どうされたのですか!?」
問われた私は手短に事情を話す。
すると聖女ルビーは……。
「やはりこうなる運命だったのですね」としみじみ言うので、今度は私が「?」になる。
「王都で何かが起きるとなった時。それは大いなる悲劇であるのですが、奇跡も起きるのです。その奇跡をもたらすのは……ナタリー様でした」
「えええええ、私、ですか!? 私は聖女ルビー様のように回復ができたり、アンディのように魔法は使えませんよ!? ただの貴族令嬢です」
「そんなことありません。危険を顧みず、ここまで来た勇気。それは貴族令嬢であれば誰でも持ち合わせているのかというと……そんなことはないですよね。ナタリー様だからだと思います」
そう言うと聖女ルビーは、自身のロザリオを取り出し、私へ渡してくれる。
「こ、これは……」
「奇跡を起こせるのはナタリー様だけ。必要なのは勇気です。どうかこの未曾有の危機から、皆を救ってください」
そう言われても……と思うものの。
私はこの爆破事件を起こしている彼女と話すつもりだった。
彼女と話すことで、これ以上の爆破を食い止めることができるなら……。
みんなを救えるかもしれない!
























































