50:何が起きているのか
「一体全体、何が起きているのか」
「陛下はなぜ説明をしてくれない?」
通常はダンスで使われる宮殿の大広間に、多くの国内貴族が避難していた。
各国の来賓には客間が用意されているので、彼らは自分達の部屋へ戻っている。
現状、庭園で火事が起きたので避難……ということ以外のアナウンスはない。
ソファや椅子が運ばれ、飲み物や軽食が提供されているが、皆、落ち着かない。
何よりも大広間には、時々「ドーン」という轟音が響いている。
時計塔以外でも爆発を起こそうとしている……これは事実のようだ。
騎士団長は犯人の後を追っているというが、これでは逮捕には至っていないのだろう。
この世界にまだ鉄砲は存在していない。
ただ、鉱山の採掘のため、爆弾は存在していた。
堅い岩盤を破壊するために、爆弾が生み出されていたのだけど。
爆弾の管理は厳密に行われているはずだった。
そもそも鉱山の採掘なんて貴族か平民でも相当裕福でないとできないし、そこから税金を徴収するので、登記や採掘権の所有者情報を含め、国が厳密に管理している。その中で、許可を得た者だけが、爆弾の使用が可能だった。爆弾を作る職人も国家資格が必要。その爆弾を悪用し、こんなテロのような行為を行うなんて……。
しかも失脚したはずの元神官長のカルロ・キージや元王宮付き魔術師であるファーガソン・モーランドが暗躍していたとは。
二人ともモルデル島にある幽閉施設に収監されているが、元は国家の中枢にいた権力者だ。力を失ったとはいえ、権力者の座にいた時間は長かった。表向きの資産は全て失った……かもしれないが、隠れ資産を海外へ送金した可能性は……。
ああ、そうか。それね。
きっと以前からカルロもファーガソンも裏金口座をブルームーン帝国に置いていたのでは? いざという時は、帝国へ逃げのび、そこで新たに生きて行くことを考えた可能性がある。だがアンディの登場と共に国王陛下が待ったなしで動いた。カルロやファーガソンは亡命する暇すらなかった。そこできっと秘密裡に皇太子……皇帝に連絡をとり、裏金を全て提供するから、逃亡に手を貸してくれと願い出たのでは?
魔術師であるファーガソンは、魔術師ということだけでも利用価値がある。帝国もそんな申し出がくれば受け入れただろう。そしてカルロは古狸で悪知恵も働く。さらに国家の機密情報を多く知っているはずだ。それは政治だけではなく、元神官長として知る秘儀や神託など多くのことを含めて、だろう。
それにしてもブルームーン帝国の皇太子。
自身が首謀者の一人なのに、我関せずとばかりに客間に避難したという。いや、証拠がない。一国の皇太子に「お前が犯人だ!」というからにはその罪を証明しなければならないはず。だが今は、同時多発で起きる事態に対処するので皆、手一杯のはずだ。大人しく客間にいて、逃げないのなら、そのままにしておけば……。
逃げない? 果たしてそうかしら?
客間に避難するといい、魔術師の手を借り、逃亡した可能性は……無きにしも非ず。
付き人や護衛など多数いるだろうが、全員の避難は無理だとしても、最低限の人数で脱出を図ったら? しかも火災も起き、街で何か起きている。だから避難した、国に戻ったと言われたら、「逃亡した!」とは言えなくなる。
本当に部屋に皇太子はいるのかしら?
確かめたいと思った。
そのためには……。
「パール、ブラウン、聞いて頂戴」
私は作戦を打ち明け、二人とも「分かったぞ」「任せて、ナタリー」と快諾してくれる。
ならばと私は行動開始だ。
まず護衛の騎士はそばにいたが、軽食を取りに行くといい、その場で待機してもらうことにした。
軽食は目の前に用意されているし、遠くへ行こうとしているわけではない。
「分かりました」と待機してもらえた。
そこで軽食コーナーにいる人々に紛れ、パールとブラウンに魔法で変装をさせてもらう。
つまりメイド姿にしてもらった。
「ブラウン、うまく誤魔化してね」
「任せておいて。でも確認したら、すぐに戻って!」
こうして私は盛り付けた料理を手に、パールを連れ、大広間を出た。
廊下は忙しそうに動き回る兵士や騎士で溢れている。
「街での爆発がどうにもならないらしい」
「どうやら凄腕の魔術師が先導しているようで、騎士団長でも歯が立たないと」
「魔術師アンディ様はまだモルデル島から戻らないし、騎士達は王都民の避難や救護に追われている。聖女様も奮闘しているが、とにかく人手が足りない」
これを聞いた私は心臓がドキリとしていた。
凄腕の魔術師が先導している……?
「ナタリー、ここじゃないか、皇太子の部屋は?」
「そうね。じゃあ、パール、あなたはうまいこと部屋に忍び込んで」
「任せとけ!」
そこでパールと別れ、私はそのまま皇太子が滞在する客間へと向かう。
扉の前にはブルームーン帝国の青色のサーコート姿の兵士がいる。
「軽食をお持ちしました」
私の言葉に兵士は合図を送り合い、そして――。
扉が開かれた。
























































