49:急変
「中央広場の時計塔で爆発が起きました」
「北部国境沿いに未確認の軍の進行を確認しました」
「モルデル島の幽閉施設で暴動が起きました」
「な、なぜそんな同時に急に……!?」
次々ともたらされる驚愕の情報に、アンディの表情が強張る。
私は頭の中が真っ白になりそうだったが、アンディは落ち着きを取り戻し、状況把握に努める。
三人の伝令の騎士を見ながら、問い掛ける。
「団長はどこにいる?」
「だ、団長は中央広場へ騎士達を連れ、向かいました」
「団長から俺への指示は?」
「は、はいっ! モルデル島には、カルロ元神官長と元王宮付き魔術師ファーガソンが幽閉されています。現王宮付き魔術師であるアンディ様に向かっていただきたい――というのが団長の指示です。ですがそこは、陛下とも要相談であるかと……」
「それ以外の判断は?」
伝令の騎士は額に汗を浮かべ、言葉を絞り出す。
「出ていません。自分は中央広場から団長の指示でこちらへ参りましたが、広場は……大勢の王都民が集まっていました。爆発により多数の死傷者が出ています。団長は救助を指示しつつ、犯人の追跡が始まりました。どうやら犯人は他の場所でも爆発を起こそうとしているようで……。団長も手一杯の状況です」
「そうか。ご苦労だった。モルデル島は俺に任せろ」
そう言うと別の伝令の騎士に声をかける。
「北部国境沿いの未確認の軍の件。俺から陛下と宰相に報告を行う」
その後、各自持ち場に戻るよう告げると、アンディが私を見た。
「ナタリー、俺はモルデル島に向かうことになる。カルロはまだしも、魔術師であるファーガソンが厄介だ。魔法を使えないよう、拘束しているはずだが、もしそれを解除していたら……。俺が相手をするしかない」
新旧の王宮付き魔術師が戦うことになるなんて……。
ファーガソンはベテランの魔術師だ。
まさに老獪だと思う。
「アンディ、大丈夫……?」
「俺を誰だと思っているんだよ、ナタリー。マーランだって俺の実力を認めてくれたんだ。任せておけって!」
私を励ますように、アンディが明るい声を出す。
アンディは確かに強いとは思う。
でも経験の差が……。
「ナタリー。ここは笑顔で『あの老害ファーガソンをぼこぼこにして!』って言って欲しい」
そこで気が付く。
アンディだって不安がないわけじゃないんだ。
今、彼が欲しいのは「頑張れ」と背中を押してくれる声。
「そうね。アンディなら絶対にファーガゾンに勝てる。だってアンディの方が若くて実力もあって、あのマーランが一目置く魔術師なんだもの。あの世にいるマーランが、その魔力の強さにアンディの存在に気付いたぐらいだから。大丈夫。気を付けて行って来て」
ぎゅっとアンディに抱きつくと、彼も私を強く抱きしめた。
その腕の力強さに、自分が言ったことが間違いではないと確信できる。
アンディはまだ成長段階。
これからもっともっと強くなる。
悪巧みばかりのファーガゾンなんかに、負けるはずがない!
「それで……中央広場の方は、騎士団長が対応しているのよね。北部はどうするの?」
「北部はオルドリッチ辺境伯の本拠地だ。彼とディーンを向かわせる。ナタリーは宮殿に避難して欲しい。『今、起きていることだけに囚われないことです。過去の亡霊は諦めていません』というストリアの言葉の意味がよく分かった。きっとブルームーン帝国の皇太子とカルロやファーガソンは、手を組んだのだろう。北部に現れた軍は、きっと帝国軍だ」
ストリアの言葉の謎がここにきて解けるなんて。
確かに過去の亡霊は諦めていなかったのね……。
「アンディ! お邪魔して悪いわね。こっちの火事も鎮火できたわ。でも街の方でも火の手が上がっている。何が起きているのかしら!?」
ブリュレの声に、アンディは抱擁をやめたが、そのまま自身の胸に私を抱き寄せたまま状況について共有する。
「なるほど。いろいろ手伝いたいところだけど、さすがに大公を置き去りにして動くわけにはいかないわ。それは多分、他の国の魔術師たちも同じ。主からあまりにも離れるわけにはいかない。大公を含めたみんなは、一旦宮殿に避難している。そうなると各国の魔術師達は、宮殿の守りを固めることになるわ」
「ブリュレ、君の判断は正しい。マルセル国で各国の来賓が傷つけられる――これこそ国として一番起きて欲しくないこと。宮殿の防御は君たちに任せる」
「分かったわ。一刻を争う事態だと思うから、アンディ、あなたは動いて頂戴。ナタリー様は私が宮殿へ連れて行く」
テキパキと動けるブリュレは、公国魔術師に相応しい自信に満ちている。
アンディに初心な乙女心を見せていた時とは別人だった。
ブリュレは、恋では初心者。でも魔術師としては、経験を積んでいるんだ。
そこはどうしても羨ましいと思ってしまう。
アンディと互いを信頼し、戦える魔術師であるブリュレに。
つい、そんなことを思ってしまうが。
それぞれが動き出すことになる。
アンディはオルドリッチ辺境伯とディーンを呼び出し、陛下と宰相に会い、北部とモルデル島に対処だ。騎士団長は街中で起きている爆破事件を追う。ブリュレ他、各国の魔術師は、自身の主を守り、宮殿の防御。
私にできることは……アンディが戻った時にちゃんと迎えられるよう、元気でいること。
私はアンディの精神的支柱。ブリュレやディーンのように戦うことはできない。
でも、これが正解なんだ。
こうして私はブリュレや他の魔術師たちと共に、宮殿へ避難した。
























































