43:彼女の目的
「なぜ、ナタリーを気絶させる必要があったのか。それに『ごめんなさい』と謝罪したのは? しかもブルームーン帝国の帝国魔術師のストリア・ティロールがそんなことをする理由。そこで皇太子に話しを聞いたが……」
皇太子の答えは「分かりません」だった。
「マルセル国とブルームーン帝国の関係に、これまで問題は起きていない。一度だって戦争は起きていないし、友好国というわけでもないが、敵対国でもなかった。同じ大陸にあるとはいえ、国として距離があるから、お互いに無関心だ。よって皇太子が『ストリアの行動は帝国魔術師としてではないと思います。魔術師ストリア・ティロールとして起こした行為かと。尋問はお任せいたします。帝国として全てをマルセル国へ一任し、処罰についても委ねます』と答えたんだ」
「ストリアは帝国魔術師なのでしょう? しかも外交に同伴させるぐらい優秀なのよね!? それなのに処罰を委ねるなんて……。帝国では魔術師の地位が、そんなにも軽んじられているの?」
「そんなことはない。どこの国でも強い魔術師を求める点は変わりないと思う。ただ、帝国としての誠意を見せたのだと思う」
つまり帝国にとって、帝国魔術師であるストリアは大切な存在である。だが今回、その帝国魔術師が独断で魔法を使った。それは実に由々しき事態だ。この状況に対し、帝国は無関係である。あくまでストリア個人の行動。帝国は関与していない。その処罰はお任せすると示すことで、マルセル国を立て、誠意を見せたわけだ。
「ストリアは真面目な性格に思えたわ。それに魔法を使うにあたり『ごめんなさい』と言ったのよ。本人の意志に反し、使わなければならなかった状況に思えるのだけど……」
「それは俺も同感。そうなると無関係を決め込むブルームーン帝国が何かを画策している……と思えてしまう。今、水面下で調査を始めている」
「事前にブルームーン帝国について調べているのよね。そこでは何も出てこなかったのよね?」
その通りなのでアンディは頷く。
「気絶させた私をどうするつもりだったのかしら……?」
「ナタリーの利用価値なんて、山ほどある。それは分かるだろう?」
アンディがぎゅっと私を抱き寄せる。
私を人質にとればアンディを屈服させることもできるし、引き抜きだってできるだろう。
でもストリアは真面目で、悪人には思えない。
アンディを窮地へ追い込むようなことをするとは……思えなかった。
ブルームーン帝国は、これまでお互いに関知せずだったマルセル国に対し、何をしたかったの?
やはりアンディという魔術師を手に入れたかったの?
「ストリアを強制的に起こし、話を聞くのが一番だが……」
「あ、アンディ、今晩の舞踏会は!?」
アンディの胸から顔をあげ、尋ねる。
「予定通り行われる。俺とナタリーに関しては出席は必須ではない」
そこで私はあることに気付く。
「ねえ、アンディ。今晩は建国祭を祝う舞踏会があるのよ。その舞踏会の前に、私がもし姿を消したらどうなっていたかしら? しかも厳しい警備体制を敷いている宮殿から」
私の言葉を聞いたアンディが、私を抱きしめる腕に力を込める。
「この宮殿からナタリーを連れ出すなんてできないよ」と耳元で囁く。
「それにメビウス・リングがある限り、ナタリーはいつだって俺の所へ戻れるはずだ」
それはその通りだ。でもここは万が一攫われた場合を想定して欲しいと頼むと……。
「それは一大事だ。まず俺を本気で怒らせることになる。……そこは分かっているから説明するまでもないな。宮殿という警備体制が厳しい場所からナタリーが消えたとなると、まず警備に不備ありとみなされる。次に内部犯行の可能性。外部の出入りは厳しく制限しているんだ。宮殿の敷地内で犯行に及ぶとなると、内部に犯人がいることが示唆される。そうなると舞踏会どころではなくなるだろう」
「つまり舞踏会は中止になる?」
「さすがにそうなるな。宮殿内で事件が起きるということは、陛下だって自分の喉に剣を向けられたようなものだ。しかも各国の来賓だって宮殿にいる。彼らにもしもがあれば、大変なことになるだろう」
それだ。それが目的だと思った。
「アンディ、もしかするとブルームーン帝国は舞踏会で何かするつもりだったのでは!? 帝国魔術師であるストリアはそれを知ってしまった。真面目な彼女はその企みを阻止したいと思ったのでは? でも直接皇太子に盾突くことはなんてできない。母国には彼女の家族だっているだろうから……。そこで私を隠すことを思いついたのでは?」
「……! なるほど。舞踏会の阻止……。そうか。宮殿の外へ連れ出すには警備が厳し過ぎる。だから宮殿内に隠すわけか」
「アンディ、今から舞踏会を中止することはできる……?」
























































