42:ナタリー!
「ナタリー」
耳に聞こえた爽やかな声。
でもその声には緊張感もはらんでいる。
さらにギュッと手を握りしめられ、覚醒が進む。
ゆっくり目を開けた。
アイスブルーのフロックコートに、紺碧のローブ姿のアンディが見える。
「アンディ……」
「良かった……! ナタリー」
ベッドに横たわる私の体を、アンディがふわりと抱きしめる。
「ナタリーの方は気絶だけだったようだ」
「えっと何が……?」
ゆっくり体を離したアンディは、私が上半身を起こすのを手伝ってくれる。
「ナタリーはメール室へ向かっていた。そこでストリアに出会った。その直後、パール、ブラウン、そばにいた護衛の騎士、そしてナタリーとストリアの全員が意識を失っている。宮殿の医務室に護衛の騎士とストリアが運ばれた。パールとブラウンは先に目覚めている」
上半身を起こし、アンディの目の動きを追うと、ソファのローテーブルでパールとブラウンはスイーツをガツガツ食べていたが「ナタリー!」「ナタリー、目覚めたのね!」と笑顔になった。ここはアンディの執務室の隣室だ。
「ストリアと護衛の騎士は?」
「護衛の騎士は目覚めた。でもストリアは声掛けしても無反応。あれは魔法による強制的な意識封印状態だと思う」
「えーと、一体何が起きたのかしら? 私も突然意識を失ったようで、全く分からないの」
するとぴょんぴょん跳んできたパールをアンディが抱き上げ、そばの丸椅子に腰を下ろす。
「オイラも一瞬のことで何が起きたかとパニックだった。でもストリアがナタリーに謝罪の言葉を発した直後、みんな意識を失った。だからストリアが魔法を使ったのだと思う」
「ストリアが魔法を使ったのね。でも……ストリアは魔法で意識封印状態なのよね……?」
私の疑問にアンディが答える。
「その通り。意識封印状態だ。一定時間が経てば目覚めると思う。解除は……試してもいいかもしれない。でもマーランの魔法だ。俺でも苦戦すると思う」
「マーランの魔法? ということは……」
「ストリアは、ナタリーがメビウス・リングをつけていることを知らない。アミュレット(御守)を持っていることは想定したと思う」
メビウス・リングなんて錬金術師の幻想だと思っている魔術師がほとんどで、しかも数百年も前の話。ストリアも知識として知っていても、まさか私がつけているとは思わない。それに例のレース事件のこともあり、メビウス・リングは変色しており、ゴールドではなく、ブロンズ色になっていた。それがいいカモフラージュにもなっていたのだ。
「アミュレットがある想定で、ストリアは複数の魔法を行使したと思うんだ。スチュの時のこと、覚えているだろう、ナタリー?」
覚えているのでコクリと頷く。
アミュレットは通常、受けた魔法を反転させ、無効化する。つまり反転魔法が込められているという。だから直接魔法を当てると、弾き返されてしまうのだ。だからスチュと対峙した時、アンディは魔法を直接当てるのではなく、魔法で起こした風をアミュレットにぶつけ、破損させることに成功している。
「あの時と同じで、ストリアは強い魔力を検知したメビウス・リングをアミュレットだと思い、破壊しようとした。同時に、意識を失わせる魔法もナタリーやパール達、護衛の騎士達に行使したと思うんだ。全てを瞬き一つしている間に終わらせるための、魔法の複数同時行使だ」
そんなことをできるのは、ストリアもまた帝国魔術師という地位にある魔術師だからだろう。
「ところがマーランは、そんなこと想定済みだった。メビウス・リングへの攻撃に対し、別の魔法を発動できるようにしていた。こんなことができるのは、メビウス・リングに複数の魔法を重ね掛けできるからだ。通常は一つ、俺でやっと二つだからな」
つまりメビウス・リングに対する魔法ではない攻撃にも、対処できるようにしていた。
その結果、何が起きたか。それはアンディの想像ではあるが、正解だと思う。
「攻撃を察知したメビウス・リングは、ストリアに対し、何らかの攻撃魔法を行ったと思う。だがストリア自身もアミュレットを持っていたのだろう。それを弾き返した。ここからはまさに意趣返しだ。メビウス・リングは弾き返された魔法を相殺すると同時にアミュレットを破壊、ストリアを意識封印状態にする魔法で対処した」
「つまりストリアはメビウス・リングの魔法により、意識封印状態にされたのね。パール、ブラウン、護衛の騎士達が意識を失ったのは、ストリアが意識を失わせる魔法を使い、それに掛かってしまった。でも私が気絶したのは……? 私はメビウス・リングに守られ、意識を失う魔法は掛からなかったのよね?」
「メビウス・リングは通常、ナタリーの意思に連動して魔法を発動する。でも今回はメビウス・リング自体への攻撃もあり、イレギュラーな事態が起きた。でもそんな場合でも対処できるようにしていたのだろう」
それはつまりこういうことだ。
そもそもメビウス・リングは石棺の横臥彫像につけられていた。横臥彫像のアマナに意識なんてない。メビウス・リングが自動的に反応する状態だった。前世の知識で言うなら、自動応答モード。AIモードとでも表現すると分かりやすいのかしら。
「ナタリーがつけることで、ナタリーの意思と連動する状態に変化していた。でも危機的状況を察知したメビウス・リングは、ナタリーの意思と関係なく、魔法を発動する必要があった。そこでナタリー自身の意識も失わせたのだと思う」
異変を察知し、警備の兵が駆け付けると、そこには全員が意識を失っている。
慌てて医務室へ運ばれ、私はこの部屋に担ぎ込まれた。
国王陛下と謁見中だったアンディだが、この事態を受け、私の所へ駆けつけてくれたのだ。
























































