9:無自覚イケメン
「……ナタリーはディーンみたいなのがタイプ? ディーンは……確かにハンサムだよな。体もよく鍛えているし、未来の辺境伯だし、性格もいいし、穏やかで優しい。モテるし、当然だよな……」
えっと、これはディーンより自分が劣っていると、アンディは思っているのでしょうか? というか。アンディは自分の容姿がどれだけすごいものか理解できていないのかしら? こんな無自覚イケメン、見たことがないわ。
「アンディ。確かにディーンみたいな男性を好きという令嬢は多いでしょうね。アンディの言う通りの理由で。でもそれはそれじゃない? アンディのようなタイプが好きな令嬢も多いと私は思うわ」
「え、俺? 俺のことを好きな令嬢がいるのか……?」
「え、ちょっと待って。そんな具体的にどこそこの令嬢が好きらしいわ、なんて答えられないわよ、私には。でも世間一般的に見て、普通に正装して舞踏会に参加すれば。アンディと話したい、ダンスをしたいと思う令嬢は、何人もいると思うわ」
アンディは信じられないという顔で固まっている。その様子から察するに。社交界デビューは……一応しているのかしら? ディーンがいるから舞踏会には、一度ぐらい行っていると思う。でも積極的に女性と接する機会がなかった……?
「アンディ。あなたは女性と接する機会が極端に少ないのでは? 普通に妙齢の女性が沢山いる場所に行けば。間違いない。あなたはモテると思うわ」
追加のこの言葉でさらにアンディは驚いている。
でもふと思い出す。
そう言えばディーンは、こんなことを言っていなかったかしら?
――「アンディと違い、僕は運命と思える女性がいないのだから」
アンディには……婚約者がいるということ……?
それならばモテる必要はないし、不用意に沢山の女性と知り合う必要もないだろう。だからそういう場に足を運ばなかったということかしら……?
「ナタリーから見たら俺はどうなんだ?」
「へ?」
なぜそこに私が出てくるの……? あまりにも訳が分からず、素っ頓狂な声を出してしまった。でも……客観的評価が気になるということなのかしら?
「それは普通にイケメン……とても素敵な男性だと思うわ。そのサラサラの前髪も、宝石みたいな瞳も。それに鼻筋も通って、整った顔をしているから。パッと見た時に、大天使が降臨したかと思ったわ」
私の言葉にアンディの顔が信じられない程、輝いている。
これはつまり、褒められた経験がほぼない。
いや、全くない……のかもしれない?
運命の女性とやらは。
なぜアンディを褒めてあげないのかしら。
これはさすがに気の毒。
どう見たってイケメンなのに。
自分の容姿に対する自己評価が相当低いのでは?
でも……。
「アンディは、容姿には自信を持っていいと思うわ。……ただし。あまり対価を求めない方がいいと思うの。意中の女性に対しては。特に初対面や関係が浅い時期に。ドン引きよ。いくら見た目がよくても、そこでマイナスだわ」
「……!」
ショック過ぎて声が出ないみたいね。
でもまあ、きっとこんな指摘をされることもなかったと思う。衝撃を受けているのは分かる。ただ、どこかでこのことは知っておくべきだと思う。それに運命の女性だって、対価を持ち出されたら、不快に思うわよね? 今、指摘したことは、感謝されても恨まれることはないと思うのだけど……。
「……ナタリー、指摘してくれてありがとう。その……魔法を使うなら、対価を求めろって」
「聞いたわ、その件は。パールから。ディーンから言われたのでしょう。それは間違ったことではないわ。むしろ正しいと思う。つまり、好きな女性に対しては、対価について話す時、もう少し考えたら、ってことよ」
「そうか……」
本当に分かりやすいぐらい項垂れている。
なんだか可哀そうになってしまう。
もしかすると過去に、運命の女性に対価の要求をしてしまった……のかもしれない。
「アンディ。過ぎたことを後悔しても仕方ないわ。過去はどうやったって変えられないのだから。大切なのは未来よ。これからのことは、自分次第で変えられるのだから。失敗したと思っているなら、リカバリーをすればいいのよ。相手が喜ぶようなことを、してあげればいいのでは?」
割と一般論的なことを尤もらしく言っただけなのに。
アンディは忠犬みたいに瞳をキラキラさせ、私を見ている。
もしも私が底意地の悪い人間だったら、どうするつもりなのかしら? アンディのこの様子だと、簡単に騙されてしまう気がする。身近にいる人間がディーンで、そして人里離れた森に住んでいることは……アンディにとっては正解なのかもしれない。
「……ナタリー」
改まった感じで名前を呼ばれ、「?」とアンディを見ると。
ううう……眩しい。
普通に美貌のイケメンの、希望に溢れる顔を直視してしまい、くらっとしてしまう。
「今日は俺もナタリーもちょっとオシャレな服を着ているだろう。そして夕食の準備はほぼ必要がない。だから、少し、出掛けよう」
「……ええ、いいけれど」
街へ行くのかしら……?
とりあえずソファから立ち上がると。アンディが私の手をとった。
「え?」
「せっかくそんなドレスを着ているから。エスコートするよ」
「!!」
これにはもうビックリしてしまう。
気づくと、パール、ブラウン、マシュマロ達、白いモフモフの使い魔が「ヒュ~」と口笛を吹き、冷やかすようにこちらを見ている。
な、なんなのよ!?
というか、アンディはいきなりどうしたわけ!?
こんな風にエスコートしたら……。
普通に美貌のイケメンだから。
こんなことされたら……。
ドキドキしてしまうではないですか!!
本当に。
アンディは突然、王子様みたいになってしまった。
そのままエスコートして家の外へ出ると。
魔法を使った。
あっという間に。
湖のほとりに来ていた。
そして……。















