霧島宅
三人称一視点というものを本日学びました。読みにくかったらごめんなさいm(__)m
霧島さんの家は、新築特有のいい香りがした。
居間には額縁に納められた小さな女の子を描いた絵が飾られていた。ふっくらとした可愛い少女だ。
霧島さんがまだ桐生くんと仲良しだったころに貰った誕生日プレゼントだと、私とマキはすぐに分かった。
一度スマホに撮った画像で見せてもらったことがある。
「これ、桐生くんが描いた絵ですね」
クラス委員長の安田さんがその絵を見て絵の作者を言い当てた。
「図画と言えば桐生くんでしたからね」
なるほど。桐生くんの絵は小学生とは思えないほどの完成度だと思う。元クラスメイトとしては忘れらないほどのインパクトはあったのだろうと、私は考えた。
「もう1枚あるんだよね?それも見たい」
マキが言うと、霧島さんははにかんで「もう一枚は近衛くんの部屋に飾ってるの」と手を合わせて、申し訳なさそうな表情に変わった。
「じゃあしょうがないね。でも実物で見るとホント凄いじゃん。今度アタシも描いてもらおうかな?」
ニヤニヤとちょっと嫌らしい笑みを浮かべてマキは霧島さんに近付く。
「だめ~~~!近衛くんはもうわたししか描かないって言ってくれたもん」
霧島さんはこういうところが可愛いと、素直に思う。ヤキモチを可愛く表現できるってある意味才能ではないだろうか。
私たちは霧島さんの部屋でちょっと恋バナをしたいと言うマキの提案に乗って、2階にあるという霧島さんの部屋へ移動することになった。
「わたしはお昼ご飯食べたんだけど、みんなはおなか空いてない?」
霧島さんは部屋に入る直前、ふと気が付いたのか、思いついたかのように尋ねてきた。
「私とマキはまだ食べてなかったね」
私が真希に向かってそう言うと、マキも「そういえば少しおなかすいてるかも~。なんかあんの?」と、ニコニコしている。この顔は嫌な笑顔じゃない。9年間ズッ友をしている私だ、見間違うことなど無い。
「ひかりちゃんは?」
霧島さんは安田さんの事を『ひかりちゃん』と呼んだ。
そのことに私とマキは驚いたが、当の安田さんは気にした素振りもなく「わたしもおなかが空いたわ」と、はにかんで答えた。
「じゃあ、近衛くんが作った、試作品のチーズケーキと水羊羹でお茶しながらお話ししない?」
私たちは、迷うことなく了承した。
おなかが空いているばかりではなく、料理人見習いの桐生くんが作ったスイーツに皆、興味もあったのだろう。
「桐生って、洋菓子屋になりたいのか和菓子屋になりたいのか、よくわかんない奴だね」
マキだけは一言余計なことを言ったが。
「近衛くんは料理人になりたいんだよ~えへへ」
霧島さんにとっては特に余計なことではないようだった。
霧島さんが一旦1階に戻り、私たちは許可を得て、先に霧島さんの部屋に入る。
ベッドと机と本棚、そしてクローゼットしかないシンプルな部屋だ。部屋の隅にはまだ未開封の段ボール箱が4つ、申し訳なさそうに寄せられている。
8畳ほどの広さだろうか、中央には割と広い空間があるがテーブルもクッションも何もない。何かを食べながら話をするのなら、私たちも1階に降りて居間で話した方が良いのではないかと思い始めた時だった。
「何にもない部屋でごめんね」
そう言って霧島さんはちゃぶ台とでもいうべき折り畳みのテーブルを持ってきた。
「あかりちゃんちょっと手伝ってくれる?」
矢継ぎ早に手伝いを申し出たのは、昼友の私たちではなく、意外にも安田さんにだった。
「はい。任せてください」
嬉しそうに手伝いに向かう安田さんに軽く嫉妬しながらも、なるほど、彼女たちにも2年間とは言えクラスメイトとしての歴史があったんだな、と理解できた。
座布団とテーブルの準備が整うと、チーズケーキと水羊羹が次々と並んだ。4人分にしては多すぎるのでは?と思ったが「残った分はまた冷やしておくから」と、霧島さんは相変わらずニコニコしながらどんどん持ってくる。そして悪戯っぽい表情で、
「チーズケーキも水羊羹もA・B・Cの三種類ずつあります。この中で、わたしが作ったものが1つだけあります。さて、わたしが作ったのはどれでしょうか?食べ比べてみてください」
まさかのクイズであった。
結局全員、霧島さんが作ったチーズケーキも水羊羹も見事見抜いて的中した。
見た目のクオリティーが違い過ぎたからだが、だれもその事には触れなかった。
あの傍若無人なマキでさえも触れなかった。
どれも美味しかったことは事実だったので、そんなことを気にする必要はないと思ったのは私だけではないはずだ。
薄めに入れたという『杜仲茶』をいただき、腹ごしらえは済んだ。
ここからは、恋バナタイムだ。
恋バナになったらどこまで話そうか?などと、かなり楽しみに思ったが、冷静に考えてみると、すでに霧島さんの話は聞きつくしたし、私はマキの事情は知ってる。でも安田さんには強くツッコめるほどまだ親しくはない。
この状況は、もしかすると私一人喋らせられるのではないかと気が付いた瞬間。
帰りたくなった。
次回『恋バナ』