第1話:俺の姿
俺はテミスとの条件により、魔王になることを決意した。
魔王になる為に、テミスによる特別な儀式を行わなければいけないらしい。
「準備は良いかい?」
早速、その儀式を開始するそうだ。
俺は頷き、集中する為に目を閉じる。
「粉雪ヨリシロク、黒炭ヨリクロク。闇ノ魔王、今降臨セヨ!」
テミスの儀式と共に、俺に稲妻が落ちる。
「ぐっ・・・・・・うっ────」
俺の身体は消滅し、魂のみがその場を彷徨う。しかし、俺の身体はすぐに現れたのであった。
その肉体に俺の魂が入り、その肉体は俺のものとなった。
「成功です。アナタはもう、影橋ではないですよ────」
何が起こったかなど、さっぱり分からなかったが、湧き出るすごいパワーは実感できた。
それに、今までにはない軽さ。
(なんと言うことだ────)
と、少し快楽に堕ちていたのも束の間。
すぐに、身体の異変に気がついたのだ。
(って、なんだこの身体!?)
なんと、俺の身体は人間では無かったのだ。
俺は身体の隅から隅を探るも、人間に有るまじき物が見当たらなかった。
(なんだか────脚が────!?)
「フフ。世界を恐怖に陥れる魔王様が、自身の肉体に驚愕ですか────」
テミスの発言は煽りにも捉えられるが、本人はそのつもりはないのだろう。
────少し。ほんの少しだけ、イラッとしたけどね。
それより、この身体はどういう事だ?
まるで、宙にプカプカと浮かぶクラゲのような────
この状態では目が見えないので、再度感触で身体を調べる事にした。
「────────」
ん?
ノイズ?
声を出そうと試みるも、声が出なかった。
「喋りたいですか?」
どこか裏のありそうに微笑んでいるテミスが、そう問いてきた。
それに対して、俺は頷く。
「まあ、そうでしょうね。折角魔物になれたのですから、声が出ない甲斐無き異世界ライフを厭うのも当然ですよ────」
────そんな長々と言わなくて良いから、さっさと声を出せるようにしてくれ────
と、心の中で叫ぶ俺。
まあ、直ぐに取り掛かってくれたんですけどね。
テミスは俺の頭に手を置き、こう呟いた。
「君の名は〝サレア・ガタノゾーア〟。神聖なる魔王となり、暗黒なる正義を実行せよ────」
テミスの謎の台詞によって、俺の身体は眩しく光った。
光が収まると、俺の身体は何も変わらずだった。
さあ、問題の声は────!?
「あー!」
おっと!?
まさか本当に、声が出るようになるとは思わなかった。
今回はテミスのおかけで、声が出るようになったのは、物凄くデカい事だ。
「声は完全に出たな。それでは、早速鬼達を支配下に置くとしようか────」
そう言い、テミスは鬼を一点に集めた。
鬼達はドスドスと鈍い足音を立てながら、歩いてくる。
すると、鬼の中でも一番偉そうな、豪華な服を着た鬼がやってきた。
「これはこれはテミス様。お呼びでしょうか?」
その鬼は、手を擦りながらテミスに問いかける。しかし、俺に対しては冷たい視線をチラチラと送ってくる。
「呼んだから来てるんだろ?鬼王。ボクの隣にいるこのクラゲは、今からボクや君達の王だよ────」
テミスがそう告げると、シヴァはどう言う事だか把握しておらず、ぽかんとしていた。
そして、テミスは俺の顔を見ながら、説明を始めた。
「そうそう。まだこの世界について教えていなかったよね?」
俺は固唾を飲み、何が起きたか理解する準備を始めた。
「この世界はね、君が元々住んでいた世界とは異なる世界。所謂〝異世界〟ってやつかな」
異世界か。
まさか、訳も分からず異世界に紛れ込み、元の世界に戻る為に魔王になるものの、その姿はクラゲとか・・・・・・。
なんで俺が、クラゲの姿で異世界ライフを過ごさなきゃいけないんだよ────。
と、内心泣き叫んでいた。
まあ、クラゲなんで涙も出ないんですけどね。
そして、俺はテミスから名を授かっていた事を思い出す。
その事を主旨に、テミスに訊ねる。
「そう言えばさっき、俺の名を決めてくれたな」
「ああ。今から君の事は、サレアと呼ばせてもらうよ」
俺の名はサレア。
意味などは分からないが、折角貰った名だし、この名前で過ごすとしよう。
そんな事を考えていると、シヴァがこう問うてきた。
「途中で割り入り、すみません。貴方様────いえ、サレア様は、どちらの世界からお越しで?」
冷や汗を掻きながら訊ねてくるシヴァに対し、俺は落ち着かせるように答えた。
「そんなに緊張しなくて大丈夫だって。俺も緊張しているからさ。そんで、俺はお前達の暮らす世界とは別の世界からやって来た。というより、何故か来た────」
シヴァは苦笑し、納得していた模様。
そこで、テミスが一つ報告をしてきた。
「サレアよ。今からボクと共に、魔王名義を登録しに行こう。さもないと、魔王として扱われないよ」
テミスがそう言うならば。と、俺は軽く頷き、テミスに出発の合図を出した。
「では、魔王名義を登録しに行こう。そして、元の世界に戻るんだ!」
テミスは唇の端をつり上げたものの、目は笑っていなかった。
そして、俺達は魔王名義を登録しに、魔王会場へ向かう事にした。
魔王会場に着いた俺とテミスは、早速名義登録する場所へ向かった。
その場所に着き、名義登録の受付にて登録を始めた。
名義登録が完了し、完全に魔王として認められるようになった。
テミスは一人だけ拍手をし、周りにいた人は全員テミスに目を向ける。
すると、後ろから不気味な口調の男が現れた。
「ククク。実に面白い。お前みたいな下級魔物如きが、正式に魔王ですって?いくら腹があっても、笑いが止まりませんねぇ────」
テミスはイラついているようにも見えたが、今は我慢を優先している。
それは俺が魔王になった以上、責任が重大になったからだ。
下手に暴れれば、魔王は取り消し────らしいです。
そいつに対し、俺は恫喝的な声で話しかけた。
「何か用か?俺は無駄な時間は掛けたくないんだ」
無駄に相手をしたくない俺は後ろを向き、帰ろうとしていた。
そこで、テミスが口を挟む。
「待て!サレア!この方は古くからして、多くの魔物から虞を抱かれている、魔王〝セウズ〟様だ。魔王の中でも、段違いの強さを持っているぞ────」
「!?」
俺はその言葉に吃驚した。
まさか、こいつが魔王だったなんて、思いもしなかったからだ。
まあ、少し強そうなオーラは漏れ出てたんですけどね。
「ククク。そう焦らなくて良いですよ。俺はこう見えて、優しいんです。お前に危害を加えるような事はしません。それに、お前が魔王だと言う事は、はっきり理解していますから」
コイツ、優しいのか怖いのか分からない。
仰々しいオーラが、セウズの周りで踊っている。
何とも話しかけにくいオーラと言えば伝わりやすいが、所々優しそうな語尾に瞞着されているようにも捉えられる。
すると突然、一見幼い女の子に見える者がやって来た。
「セウズ様の言う通りですわ」
急に入ってきたものなので、俺は冷静に質問した。
「何者だ?お前?」
「私の名は〝スカイ〟。セウズ様の侍従でございます────」
スカイは話し終えると、ゆっくりと目を閉じた。
俺はゆっくりとスカイへ近づき、手を取った。
すると、いつの間にか俺はスカイの身体になっていた。
これには全員が、驚愕した。
「サ、サレア!?」
「────!?」
「な!?」
俺は何が起きたか把握しておらず、そっと自分の顔を触ってみる。
おぉ。
────この感覚、正に人間らしい感触だ────。
近くにあった鏡を見て、今の俺の姿を見る事になった。
「こ、これ、スカイじゃん────」
俺は驚きのあまり、放心していた。
すると、スカイから怒りのビンタがやって来る。
しかし、全く痛みを感じなかった。
それは何故か。
俺は自然に、テミスの背後に回っていたからだ。
これは意図した訳ではなく〝勝手に〟だ。
「なんで避けるのよ────」
少し悲しそうな表情をしたスカイが、ボソッと小さい声で問いかける。
「何でって。俺は勝手に避けてしまっただけだよ」
当時は何も考えず、即座に事実を話してしまった。
これが悪い方向へ発展すると知らずに。
「スカイの攻撃を避けるとは。お前、中々やるようですね。ならば、俺の攻撃はどうかな────」
怒りを含めた笑顔で、手を鳴らしながら一歩一歩近寄ってくるセウズ。
俺はそんなセウズに、恐怖を覚えた。
「ま、ままま待て!この身体は辞めるから!」
俺はそう言い、クラゲの姿へ戻った。
それから、一旦沈黙の時間が続いた。
一体、何故スカイの身体になれたのだろうか。
それは、誰しもが思っている事だ。
すると、俺の思いに答えるかのようにテミスが説明をした。
「さっきの身体変化の件だが、魔物のクラゲの足は四本ある。その中でも相手を分析し、身体を変化させる足でスカイの手を握ったのだと推測する」
テミスの説明に納得するセウズと、まだイマイチ分かっていない俺とスカイ。
次に、セウズが焙り出す。
「しかも、それって永遠にその情報が保存されるようですよ。ククク。実に面白い事が起きましたねぇ────」
いや、全く面白くないんだけど。
そんな事より、俺は脳裏でテミスの言った情報を整理する。
えっと────クラゲの足は四本で、その中でも相手を分析する足を使った────と言う訳か。
運が良いのか悪いのか。
テミスと俺は魔王名義を登録する為に〝魔王会場〟へやって来た訳だが、それは果たせた事だし、そろそろ戻るとしよう。
と言っても、住処はないか。
その事をセウズに伝えると、セウズ達の星へ行く許可を貰った。
俺達はセウズに着いて行くことにした。
いざ!セウズ達の住む星へ!




