第11話:海月vs鬼王
俺とシヴァはドアを潜り、辺りの空間の異変を感じていた。
「此処、物凄く魔力を消費しないか?」
「その通りです。この世界はドアの外の世界とは異なり、魔力をどんどん吸収していくのです」
俺、今とんでもなく恐ろしい事を聞いたようだ。
魔力をどんどん吸収する?
一体、どんな世界だよ────と、一人寂しく心の中で突っ込んでいた。
更に⋯⋯
「当然の事ですが、魔力が尽きたその魔物は息絶えてしまいます────」
恐ろしい。
俺はただ只管に、恐怖を感じていた。
もしも俺自身がそうなったらどうしようかと、考えるだけで鳥肌が立つ。
いや、一応肌はクラゲの質だから鳥肌立たないんだけどね。
「しかし、サレア様程の魔力があれば、軽く三ヶ月程は持つのではないでしょうか?」
三ヶ月か。
長いようで短いこの期間。
人間時代の夏休みや冬休みを思い出すようだ。
HMPが十一万で驚愕していたが、それでも三ヶ月しか持たないのかよ。
「たったの三ヶ月だけか?」
何もかも無知な俺は、おずおず聞いてみる。
「三ヶ月も入っておけるなんて、極稀な事ですよ。拙者のHMP程度であれば、一ヶ月も過ごせませんよ」
「へぇ~」
等と、頭を掻きながら苦笑するシヴァ。
俺は扉の中の世界の偉大さについて、まだあまり理解していなかったが、目的はそんな事ではない。
「それよりシヴァ。修行をやるんだろ?」
シヴァは薄笑いした後、突然強力な魔法を放ってきた。
それを軽く息で消し飛ばす。
「流石です。不意のつもりだったのですが、やはり通用しませんでしたか⋯⋯」
シヴァは目を瞑りながら、様々な略で俺に攻撃する。
しかし、そんな魔法を全て躱している。
俺は人間型がとても動き慣れていた為、クラゲの姿よりも素早く動くことができる。
それもあると思うが、一番はシヴァ自身に問題があった。
「俺に届くまでが遅いな。もっと速度を上げたら、当たるんじゃないか?」
俺はシヴァに助言をした。
シヴァは笑顔で構え、俺の言ったように速度を上げて攻撃を仕掛ける。
先程とは別人のように、速度も力も上回っている。
成程、これが鬼の王か⋯⋯。
俺は調子良く避けていたのだが、一発危ない場面があったのだ。
(マズイ⋯⋯!)
俺は躱せないと悟り、シヴァの動きを素直に受け止めようとした瞬間、痛み等無く攻撃が俺に当たっていた。
間違いなく、当たっていた。
しかし、俺には傷一つすらも付いていなかったのだ。
それどころか、少しずつシヴァにダメージが伝わっているような。
「ぐわぁ!」
シヴァは間違いなく、自分自身が放った魔法で深手を負ったのだった。
何故だろうか。
「べ、攻撃方向を変えただと!?」
俺は身勝手に攻撃方向を変えたことにより、シヴァ自身がダメージを負ったのだった。
「俺に攻撃は通用しない、ってか。面白い」
俺はあまりの強さに、笑いが出た。
シヴァは諦めの心を持たず、瞬時に攻撃を再開する。
それに対応出来るよう、すぐに構える俺。
(拙者は鬼の王であり、魔王である。いくらサレア様とは言え、無傷で帰す訳には⋯⋯!)
シヴァは凄く負けず嫌いであり、格上だろうと圧倒的敗北は許されなかったのである。
俺の方が立場が上だと信仰するシヴァにとっても、今回の負けはかなり気鬱になると思う。
シヴァの手には、破壊の魔気力が手を廻るように放たれていた。
そんな攻撃を食らってしまえば、ただでは済まないだろう。
そして、シヴァはとてつもない速さで襲ってくる。
(ヤバい⋯⋯!)
俺は、嫌な予感がした。
攻撃方向が変えられるとは言え、この攻撃方向をも破壊されては、意味がない。
つまり、俺は攻撃方向を破壊されてしまっていたのだ。
その手を握り締めるように止める俺。
シヴァは鬼の形相をして、更に力を入れてくる。
「うおおおおおお!!!!!!!」
俺は、止められる気配がしなかった。
力でゴリ押され、その力は遥かにシヴァが上回っていた。
それに、俺はシヴァの心情の変化に違和感があった。
(我を失っている?いや、負けず嫌いで本気になっているだけか?)
俺の目には、シヴァは理性がなくなっているように見えた。
この凶暴性。魔の力によって力を得た、飢えた猿のような。
そして、俺の力は負け、シヴァが上から手を振り下ろす。
見事に手は俺にクリティカルヒットし、俺はその場から消え去った。
サレアの姿が無くなると、シヴァは我に戻る。
「あ、あわわ、サレア様⋯⋯」
何処にもサレアの姿が見つからず、シヴァは懸命に辺りを探す。
魔力が少しでも残っていれば、居場所は簡単に掴めるはず。
逆に魔力を感じなければ、サレアは完全消滅をしたと言う事になる。
シヴァは心を落ち着かせ、集中して辺りの魔力を感知する。
しかし、一向にサレアの魔力は感じられなかった。
完全に消滅したのである。
「そんな。拙者の破壊の力のせいで、サレア様がこんな事に⋯⋯。アビス殿に何と伝えれば⋯⋯」
シヴァは自分の行いに後悔し、涙ぐんで帰ろうとする。
戦闘した事により、残りの魔力もあと僅かになっていたと言うのもあってな。
そんな時、突然シヴァの背後から声がした。
「お前の力、見せてもらったよ。それと、破壊と言う概念を消しちゃった」
そう、俺が復活していたのである。
俺はこの時、破壊すれば破壊されると言う決まりを消していたのだ。
この程度で消えてちゃ、俺は元の世界に戻る事など出来ないしな。
シヴァは茫然自失となっており、俺の恐ろしさをよく知れた筈だ。
「は、破壊の概念を消した、ですか?」
「まあな。俺はこの程度で負けてちゃ話にならない。それに言っただろう?俺は元々この世界の生き物じゃないし、元の世界に戻る為だけにクラゲになったんだから────」
シヴァは「成程」と言わんばかりに、二度頷く。
何度も言うが、俺は元の世界に戻るべくクラゲになったんだ。
こうやって修行してるのも止むを得ずやってるだけであり、強くなるどころか戦わなくたって良いんだ。
だが、光軍を殲滅させる為にも、戦わなければならない。
そう言う思いが、俺の更なる高みへと導いているのだろう。
「だけどな、正直今の段階で、かなりクラゲ生活を満喫しているし、お前や他の仲間とも出会えて嬉しいんだ。普通の人間なら経験出来ない事を、俺は今経験している」
今の俺は、中々楽しく暮らせているもんだ。
クラゲとだけ聞けば、何故にクラゲかと思われるが、随分リラックス出来るし、何かと利点が多い。
まあ、欠点もあるけどね。
こうして、俺とシヴァと言う魔王同士の会話は、一時続くのであった。
話が終わると、俺達は再度修行に取り掛かる事にした。
俺達で話し合った事なのだが、ここからは〝両者一ミリたりとも手加減をしない〟と言う事だ。
手加減と言うのは、互いに向上するのを邪魔するものに打って付けだからな。
そして、俺とシヴァは睨み合う。
「スッ────」
シヴァはとてつもない素早さで、俺の目の前までやって来ていた。
しかし、直近されて焦るようではまだまだだ。
俺のお得意な空手では、パンチを寸止めされてもビビらなかった。
そのため、俺はシヴァにカウンターを仕掛けることが出来たのだ。
「マズイッ────!」
シヴァが躱そうと必死に身体を逸らすが、それをしっかり留めていた。
俺はシヴァに出来た隙をしっかりと突き、遠くまで殴り飛ばした。
「な、何なんですか、この重たいパンチ⋯⋯」
「これはただのパンチではない。魔力と身体を上手く活用して、通すパンチだ」
アニメやゲーム等で知った術を、実際にやって見せた。
シヴァはそんな事知らなかっただろうし、ポカンとしていた。
更に、俺は追撃するように飛びかかる。
「クッ!!」
なんと、シヴァの腕は鉄のように硬くなっており、より頑丈に守られた。
こんな術を持っていたとは、俺もまだまだ相手を見極める能力が低い。
「その腕の硬さ。シヴァ、何をした?」
俺は気になったがために、咄嗟に質問をする。
呆気と痛みが混じったような表情をしたシヴァは、口ごもった声で返答する。
「これは〝超硬化〟と言う能力です。大抵の魔法や打撃は効かないのですが────」
シヴァが説明していたその時、急に胸を抑えてもがき苦しむシヴァの姿が見えた。
俺は急いで救助するように、シヴァの胸に手を当てた。
(何とかなってくれ。今の俺なら、魔法で何とかなる筈だ!)
俺は、助ける事しか考えていなかった。
するとそこに、アビスがゆっくりとやって来た。
アビスの姿は黒くシルエットのような姿に見えたが、歴としたアビスであった。
「シヴァは魔力が尽きたのでしょう。外の世界へ出て、休ませるとしましょうか」
当時アビスの指示に従うしか出来なかった俺が、すごく憎かった。
俺は黙りこくったまま、シヴァを抱えたアビスについて行くのみだった。
それに気づいていなかったのだが、俺とシヴァの戦いでドアが故障していたようだ。
「おや。サレア様とシヴァの戦いの衝撃で、ドアが故障してしまってますね」
アビスは棒読みでそう呟く。
俺はドアの方に手を翳し、治せないかどうか目を瞑って解析をした。
正しいのかどうかは分からないが、解析結果は「元から故障している」と判断された。
元から故障している為、壊れやすかったらしいのだ。
俺は、淡々とその事をアビスに伝える。
「どうやら、元から壊れてたせいで脆かったみたいだ」
「ですよね。このドア、私と同じ程度の力を持つ者でさえ、壊すことが困難だったのですから⋯⋯」
「アビスと同じ程度の力?」
「いえ、恐縮です」
正直、アビスもとんでもない魔力を所持していると考えられるし、油断してはいけない存在だった。
もしかするとだが、あのルインやセウズさえも上回る強さを持っているのではないかと思う程⋯⋯。
そんな事を思っている間に、アビスの能力によって外の世界へと戻ることが出来た。
一時期どうなるかと思われたが、俺達はアビスによって助けられたのだった。




