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男子高校生✿裏垢女子やってます。  作者: 甘夏
【第二章】鏡映しのアリス
18/50

第17話 裏垢女子+裏垢女子+妹=悪役令嬢? なんてね

「――なになに? それで、女装してサッカーするんだ?♡」


 くっ……。想像通りの反応。語尾につく『♡』が悔しい。

 放課後、屋上にシロちゃんを呼び出した俺は、明日の加恋との約束のことを説明する。理由は、シロちゃんに『ありす』として加恋に会ってもらうため。


 一度、妹の加恋には『有栖』の姿で鉢合わせしたため、ただ女装をするだけだとあのときのが俺だったとバレかねない。

 それなら、できる限りメイクを寄せたシロちゃんに、あのときの『ありす』を演じてもらうほうがリスクも下がるというもので。


「んー、んー……有栖ちゃんのサッカーする姿は見たいし。いいんだけど……なんかひっかかるんだよね」

「……えっと、仲田さん? できれば、学校では名前で……」

「え? やだ。てか、いつまで学校で仲田さんなの?」

「あー、もう……シロちゃん」

「よしよし」


 そう言って俺の頭を撫でる。

 学年一の美少女に頭を撫でる男子生徒など、俺くらいのものだろうが。

 これはそういう羨ましいようなものというよりは、年下の女の子にするそれだ。


「ひっかかるって?」

「んー、有栖ちゃんが自らそんな危険をおかすってのがね。妹ラブなのはわかったんだけど」


(胸を触ったことを脅迫されてるんです……いえない)


「なんか、いまあやしー感じした! 浮気してる子の顔してた」

「してない! ……よ」

「ふーん。加恋ちゃん、会ってみたいしいいよ。あ、でも、ちゃんとカノジョとして紹介してよね」


       ***


「そっっっくり……ね」


 めっちゃ溜めて言うじゃん。この人。

 たしか、部長の河嶋夕実さん。

 そっくりというのは、ナチュラルにメイクした俺のその面影が、ばっちり双子の加恋と同じだったからだ。

 同じ自然な化粧同士のなかでピンクがかった髪色をした加恋のほうが、俺よりも少し派手なくらいだった。

 

 黒のパーカーの下にはもうすでに、スポーツウェアを着込み、シロちゃんに借りた制服のスカートを履いていた。その下は同じくセットのショートパンツにサッカー用の長いソックス。


 黒髪のウィッグを後ろで結び。

 できるだけ顔を隠すために黒色のキャップを深々と被っていた。

 

 今日は、みせるための有栖としての恰好じゃなくて、あくまで女装した旬。

 とするつもりだった。

 

「あはは……えっと、河嶋さん。はじめまして。《《兄》》の、旬。です」

「あー、やりなおし。えっと、たしか姉の……?」

「……へ?」

「姉の~~?」

「あ、有栖……です」


(結局こうなるのか……)


「うん、それでヨシ。今日は一日助っ人よろしくね! お姉ちゃん。あ、私のことは夕実でいいから。じゃあ私さきにグラウンドいっとくから準備できたらきてね!」


 そういった感じで、東女入りした俺たちは女子サッカー部の部室替わりの空き教室にいた。

 ほかの東女のメンバーはすでにグラウンドに集合しているとのことで、いまでていった夕実さんをのぞき、残るは加恋、俺、そして付き添いのシロちゃん。


――なぜ、有栖と名乗ったかというと……。


<速攻バレちゃってるじゃん爆笑 てか、ムリがあるって、有栖ちゃん私よりかわいーんだもん>


 スマホに入るLINEメッセージ。

 シロちゃんからだが、今日は加恋にバレないよう旬のスマホへと届く。


 というわけで。加恋の手によってメイクを施された段階で即バレした。


 なぜ女装をしていたのか、についてはシロちゃんがうまいこと恋人同士の遊びだったということで、ひとまずは納得をしてもらえたのだが。


 気まずい。


 結局は、俺にカノジョができたことを暴露したうえに、女装していたことが見つかったという、俺にとってはいいことが何もないスタートで。


「……かわいいカノジョさんに、いいところ見せようってのが見え見えなんですけど。《《おねえさま》》」

「そんな言い方……しなくても」


 朝から。性格にはシロちゃんを紹介してからの加恋はずっと不機嫌だった。

 俺はその気まずさのなかで、準備を進めていた。


――仕方ないわね、もう。


 あのときの『有栖』をイメージした、無造作ヘアに、ニーハイ姿のシロちゃんは俺にそう耳打ちした。

 そして、自宅からあまり二人が直接話す姿は見なかったのだが、シロちゃんはその足で、少し離れたところでストレッチをしている加恋に近づく。


「なんですか……?」

「加恋ちゃん、だったよね。あらためて、ちゃんと挨拶させてほしくてね。私は《《有栖》》ちゃんのカノジョだけど。カノジョって名前じゃないの。仲田詩帆。シホちゃんって、みんな最初は呼んでたけど。小学生には言いづらかったのか、シロちゃんってのがむかしからの愛称」

「えっと……はい、シロ、さん」

「シロちゃん!」

「……なんなんですか! 勝手についてきて、《《姉》》のカノジョとか言われても……」

「ふーん、くやしーんだ?」


(ちょっと……喧嘩はしないでほしいんだけど)

 そんな俺の心配を余所に、シロちゃんは口にする。


「べつに、恋愛に順番なんてないでしょ。大抵の恋愛なんて、略奪愛からはじまるの。だから、今は私がカノジョ。でも明日は? もしかしたら今夜がそうかもしれない。でも、そうやってむくれてる限り、それは来ないと私は思うけどね」

「本気ですか? 私、妹ですよ」

「ふふ、そうやって線引きするのは、負けを認めたくないからじゃない?」


 わざとらしく、まるで少女マンガの悪役のような笑い方をする。

 そんな姿も様になって見えるのは、たぶんシロちゃんがほんとに少女マンガにでもいそうなくらい。背格好も整ってて、なにより綺麗だからだ。


「……よゆーですよね、そりゃ、カノジョさんだもん。なんで。よりによって……こんな美人で、性格悪い子を……」

「褒めてるの? けなしてるの? 加恋ちゃんがそんなに《《有栖》》ちゃんを好きなら、良いところ見せる努力くらいしたら?」

「私は……《《姉》》のこと――べつに好きじゃないから!」

「ふふふ、そんな顔で言っても説得力なくってよ」


 ここまで、すごく白熱してるけど。

 双方、俺のことを姉&有栖として会話をつづけてるのがすごいな、とか思いながら口を挟めずにいる。


(そもそも……加恋が《《わたし》》のことを……?)


 俺だけが設定を守らないわけにもいけないので、心のうちで遵守する。


「はい。ここまでにしよっか。ね、加恋」

「ふふ、詩帆の迫真の演技だった! 加恋すっごく詩帆みたいな子、好きなタイプ! おにぃ……あ。おねえちゃんのカノジョさんが詩帆でよかったー!」


 は? 迫真の演技? どういうことだ……?


「さっき家で、加恋と打ち合わせしてたの。歳も一緒でしょ? すっごく気があったから、急にカノジョを連れてきたときの修羅場パターンやってみたのー。どう、どう? 悪役令嬢っぽかった?」


 芝居がかってた理由はそれか。

 てかいつのまに仲良くなってんだよ。喧嘩するよりはいいけど。


「さ、て、と。サッカーしてきますか! 詩帆、見ててね! わたし点決めてくるから!」

「うん、ばっちし見てる! 終わったらまたいっぱいはなそっ」

 

 あれ。俺は……?

 なんか、輪に入れないんだけど。


 ちょっと泣きそうな気分だったので、キャップを深く被りなおす。

 もう一度設定をまもりつつモノローグを綴った。


(いまのわたし、結構センシティブな女の子なんですけど……? さみしーんですけど)

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