おぼれたガヨク
「大樹の女神様!」
肉体から離れたせいか、大樹までは時間差なしで到着した。
女神様は私を見ると理解している様子だ
「ガヨクは私たちを狙うつもりね、墓場の女神には注意したわ」
腕輪で私の精神と肉体を分離した事を報告する
「そうねぇ、神具が使われたのかしら」
しばらくすると、墓場の女神様が到着する
「大樹の女神さん、ヒサギさん、こんにちわ
墓場の宮殿にはダミーを置いときました」
いつものように憂鬱そうな雰囲気がある
「ヒサギ、悪いけどアイと一緒にガヨクに対応して」
霊体の状態で闘うのだろうか?
「どうすればいいのです?」
しばらくすると、馬車が走ってくる。
大樹の入り口につくと、中からツキヨ姉弟と私が出てくる。
弟のコザルが、私の耳になにかをささやく
見てるだけで、くすぐったい。
私を先頭にして、大樹の女神様の部屋に入ると
弟が大声で合図をする
「女神をガラスにしろ」
何も起きない。
少し動揺したコザルは命令を繰り返す。
冒険者のアイは、彼らの背後から近寄ると剣を抜いて
姉弟に突きつける。
彼らの注意がそれた隙をついて私は自分の腕輪に集中した。
その腕輪は、まだ人間が女神の力を奪い合う時代の道具。
女神を油断させて肉体を奪う力がある。
腕輪の仕組みを理解して、前のように構成された物質の
『つながり』を外す。腕輪は砂のように流れ落ちた。
同時に私は私に戻る。
「本当は、腕輪をつけられる前に、砂にできた筈よ」
大樹の女神が先生のように指摘をした。
ガヨクが入り口から私たちの状況を見ると絶句している
「なんで墓場の女神がいる」
大樹の女神は、
「その腕輪一つで、支配できると考えたの?」
あまりの浅はかさに、哀れみでも軽蔑でも無い
幼い子がイタズラをした所を見つけたような目を向ける。
「これが結末なの」ツキヨが叫ぶ
そうだ、占いのカードは
二人の男女、大きな岩を押す男、おぼれる男
私とアイの二人が、野望を防ぐという事なのか
ガヨクは自分の才能におぼれたのだろうか。
「ヒサギはぼくがもらうんだ」
コザルは叫びながら私に突進してきた。
同時にツキヨもガヨクも銃を出す。
私はつい冒険者のアイの事に集中してしまう
彼が傷ついてはいけない
アイの腕に触ると世界の仕組みが『見えた』
ツキヨとコザルの不幸な生い立ち
ガヨクの女神への羨望と憎しみ
そしてこの計画が成功した時に、私と結婚をして
その子供が世界を支配する夢
人の欲望と歪んだ愛情を受け止めると
私の心と体が痛む
「ヒサギ、彼らも望んで不幸になるわけじゃない
進むべき道が見えない」
奈落に落ちた時のように、アイは私のそばに居る。
あふれる力が止められない。
時間軸をさかのぼり、この罪人達の設定を変えてしまう。
気がつくとガヨクも姉弟も消えていた。
立てない私はそのまま床に倒れる。
「運命を変えるのは良くないわ、あなたの体が持たないからね」
大樹の女神が心配そうに見ている
アイは私の手を握りながら見つめていた。