⓼なんて羨ましい!
気絶した平塚は、魔導大学付属の病院に連れて行かれることとなり一件落着。
ただ、実験しているであろう学校関係者が見つからないので、生徒会長が昼休みに話し合いをしたいと申し出があり、それをオレは承諾した。
当事者のオレと恭介、実技魔導の授業で別校舎にいて「連れてってよー」と拗ねていたから連れてきた奏の三人で、生徒会室にお邪魔したのはいいが、
「あぁ、零一様。お食事を召し上がるそのお姿! なんと惚れ惚れするのでしょうか」
生徒会室に入ってからずっと、戌井さんに恍惚とした目つきで見られている。しかも様付けまでされて。
この姿で様付けされるのは、なんだかむずがゆい気分になるな。
「零一君……本当に助けただけなの?」
「そうだって説明したろ。神沢先生から「お幸せ」にと言われたが……」
晴香め、勧誘活動の時の仕返ししてきたな?
「まぁ、零一がしたことは、男の目から見てもかっこよかったから気持ちはわかるが、あそこまでならないよな……」
「羨ましい…………」
「何か言ったか栞?」
「え、あ、ううん。なんでもないわ。それでは悠子、話し合いを始めましょうか」
「そうだな。では柊くん、平塚に撃ったあの分裂した魔弾はなんだい?」
そっちから始めるのか。まぁ、隠すようなことではないから話してもいいだろう。
「あれは足に硬化魔導を纏わせて蹴っただけですよ」
「それを平然と言わないでほしいのだけど?」
苦笑いを向けてくる桐島先輩。
「風系統魔導の魔弾だったら、桐島先輩でもできますよ」
「本当か~?」
「タイミングと硬化魔導の堅さを間違わなければ」
「よし、今すぐ闘技場に――と行きたいが栞の目が怖いからやめておくとして……柊くんが例えていたバーサーカーという表現に私も納得したよ。平塚はまさに狂っていたな」
「それは私も納得です。戌井さんが抗っているのにいとも簡単に引きずって歩いてる姿、あの耳障りな雄叫び、まさに異常でしたね」
確かに異常だな、この地球の理だと。
「そして、わたしを二回も助けてくださった零一様は、本当に素敵です!」
会話の理を断ち切る戌井さんの発言で、締まりがない空気になったが、桐島先輩がなんとか戻した。
「そんなことよりもだ。平塚から魔導の痕跡が見当たらなかったのが不思議なんだが」
「本当ね。魔導の痕跡が残らない魔導というのを調べてみたけど、全く見当たらなかったわ」
悩む二人を見て、オレは質問した。
「生徒会長でも、桐島先輩でもいいんですが。この学校で喧嘩というのは頻繁に起こることなんですか?」
「校風的に血気ある学生が多くて、意見の相違で喧嘩が多発してしまうのあるにはあるが……それが?」
「いえ、生徒指導室に呼ばれてる放送をよく聞くので」
オレの言葉に恭介は思い当たる節があるようで言葉を出した。
「入学してからまだ一週間しか経ってないけど、やたら聞くよな。勧誘二日目だったかな?十回も聞いたぞ」
そして奏も続く。
「そうだよね、あたしなんて入学式当日に零一君を守る――」
「なんて羨ましい!」
「――為に言い合いした男子が、次の日呼ばれてたし」
今のよく無視できたな奏。
……ではなくてだな。
「そんなに生徒指導室に呼ばないといけない喧嘩や、行動が多いんですか?」
その質問に、顎に手を当てて考える桐島先輩は、徐々に険しい顔になっていく。
「あぁ、言われてみれば多いとは感じるな。勧誘活動期間も含めて一学期始まったばかりでこんな人数初めてだ。そんな小さな理由で私を呼ぶなというのも多々あったな」
「特に、柊君たちの同じクラスの安藤君がそうじゃなかったかしら。私もそんな理由で生徒指導室に?と思っていたわ」
「そうだったな」
二人の会話に奏が割って入る。
「皆に噓をばら撒いてたから、呼ばれたんじゃ?」
「生徒指導委員は私だけではないのだから、他のメンバーがその場で指導すればいいだけの話で、わざわざ生徒指導室に呼ぶほどじゃない」
「でも、桐島先輩が呼んでる放送でしたけど?」
「頼まれたんだ。スクールカウンセラーの先生に「あの生徒は嘘を吐き続ける危険があるから呼んでほしい」とな」
そのスクールカウンセラーの名を、オレは知っている。
「嘉納英美先生、ですよね?そのスクールカウンセラーって」
「あぁ、そうだが……まさか嘉納先生が平塚を狂暴化させた犯人と言いたいのか?そんなことありえないだろう。新学期になってから平塚を一回も呼んだことはないぞ」
「でも、前年度の三学期に呼んでいたわよね?」
「あれは、平塚が無許可で校内に三日も続けて深夜まで残っていたんだ。それは呼ぶに決まってるだろ、しかも、生徒会長から許可を出してもらったと嘘までついてな」
桐島先輩の発言に、眉を寄せる生徒会長。
「なにを言ってるの悠子。許可は出したわよ?」
「えっ……?」
「平塚君はロボット部の前部長が卒業するので、それを祝うためのロボットを製作したいので許可がほしいと申請してきたわ。一週間の申請だったからさすがにと思って、話し合いをして三日間で落ち着いてもらったわ。申請ファイルも残っているから見てみる?」
桐島先輩の疑念を晴らすために生徒会長は席を立ち、この生徒会室で一番重厚に出来ている事務机に足を運んで、立ったまま端末機を起動して操作を始めた。
「あったわ、平塚君の申請ファイルよ。悠子、携帯端末を出して画面共有するわ」
生徒会長の言葉に、慌ててブレザーのポケットから携帯端末を取り出す桐島先輩。数秒しか画面を見てないが、知らなかった、という動揺の表情が見て取れる。
「このファイル、生徒指導室の委員長用の端末機に送ったのよ?許可をしたから目を通してという文章を添えて」
「……来て、なかったぞ……」
とても弱々しい声の桐島先輩に、複雑な表情で生徒会長は言った。
「……返事が来たわよ……了解だ、って……」
「なっ!?」
「もう、決まりね。嘉納先生に話を伺いましょう」
「だが……証拠がないぞ。白を切られたらどうするんだ?」
それなら心配及ばない。
「証拠ならオレが持ってますよ」
「さすがは零一様!! もう既に犯人を追い詰める手立てが整っていたのですね! なんと素敵な御仁なのでしょうか!!」
本当に戌井さんは大丈夫なのだろうか。
報告・連絡・相談は大事です
あと、戌井さんは大丈夫か!?