⑳だが良いものではないことは確かだ
昼花火が学院都市の空に上がった。
ついに魔導祭の開催日となった。
初日は開会式の警備をすることとなり、オレと桐生は観客席を見て回っている。
観客は海外から来た観光客の姿も見えるので、この魔導祭が如何に世界から注目されているのかがよくわかる。
『選手代表として魔総会に出場する学院都市選抜、未谷英雄選手が選手宣誓をします』
「宣誓ー! 俺たち選手一同はスポーツマンシップに則って……則って……」
ん? 次の言葉はどうしたんだ?
「まぁ何でもいいや! スポーツマンシップに則って気合いとど根性で魔導祭を盛り上げてー! 最強無敵の絆をパワーにどんなに苦しく辛いことが起ころうとも! 俺たち魔導学生は豪胆に乗り越える力があるというところを誓ってやるぜー!」
これは、選手宣誓なのか?
苦笑いをしている魔導祭関係者がかなりいるぞ。栞さんも苦笑いで未谷を見ていた。
『これにて開会式を終了します』
「さて、観客が一気に動き始めるから誘導を始めるぞ」
「うん……わかった……」
オレたちは出口へと向かう階段近くで誘導する準備に入った。
「出口はこちらでーす。階段となっていますからゆっくりとお降りください」
「で、出口は……ここここちらでしゅ!」
「落ち着け桐生」
しまったな。あまりの人の多さにパニックになっている。
「きゃ!!」
人の流れに桐生が転んでしまった。
「大丈夫か桐生――っ!!」
くそ、フォローができない。
「桐生大丈夫か桐……生……」
その時、理由はわからないが人の流れがスローモーションになると、桐生が転んだ位置に誰かが立っていた。
その人物は桐生に手を貸して起こすと、ゆっくりとこちらを向いた。
「影の主……!!」
影の主はオレを見るとニッコリと笑って、人の流れの中に消えていくと、スローモーションが終わった。
「……大丈夫か桐生」
人をかき分けて桐生に近づく。
「大丈夫だったか?」
「う、うん……ビックリしたけど……綺麗なお姉さんに助けてもらった……」
「起こしてくれた以外はなにもされていないな?」
「うん……大丈夫……ん? なにこれ?」
桐生は自分の手に何か握っているのに気づいて見てみると、一枚の紙切れを握っていた。
「……読めない……」
「読めない?」
オレが紙切れを覗こうとした瞬間に、不快な感覚が紙切れから伝わってきた。
「今すぐ捨てろ桐生!!」
「え……!? きゃ!?」
強引に手を払って紙切れを離すと、紙切れはドロドロと赤黒い液体へと変貌した。
「なにあれ……」
「わからない。だが良いものではないことは確かだ」
やっと仕掛けて来たか。
「桐生すまないが、ここを任せてもいいか?」
「えぇ……怖いよ……」
……今日は仕方ないな諦めるか。仕掛けてきたということはまだあるということだからな。
さー始まりました魔導祭でーす




