⑭乙女の秘密ってことで
オレたちが担当していた地域は騒ぎなどの事件は起こらず、日が落ちかけてきた時間となってきた。
「異常なしだな」
「じゃあ……報告するね……」
三十分置きに異常がないかの報告を行うので、支給されたインカムを使って連絡をした。
「こちら桐生です……異常はありません……」
『了解です。もうすぐ時間となりますので、戻ってきてください』
「わかりました……」
通信を終えると、桐生は深いため息をついた。
さすがに炎天下で慣れない仕事をして、ろくに休憩もしなかったからな、疲れるに決まっている。
「飲み物でも買って戻るか。桐生はここにいてくれ疲れてるだろう」
「うん……ありがとう……」
歩道に設置されている花壇にゆっくりと座らせてから、オレは自販機がないか探しに行った。
「ここはあまりないようだな……」
コンビニも見当たらないな……住宅街だからか?
「ふむ……戻るしかないか」
「キャーーーー!!」
道を引き返そうとしたら、女の悲鳴が耳に入ってきた。
「どこからだ?」
ぐるりと一周見渡すが、確認できなかった。
「だ、誰か―! 助けてー!」
「あそこか」
助けを求める声に向かって走った。
だが、それはすぐに立ち止まることになってしまう。
「ここは……」
突如として現れたレンガ作りの塀に阻まれてしまったのだ。
飛行魔導で飛び越えてもいいが、この塀の向こうは確か……淑女の休息所だったはずだ。
オレじゃ入れない場所だ。桐生は今疲労しているから無理強いはできない。
「どうする?」
「どうしたの?」
オレの真後ろからそう話しかけれらたので振り向くと、モノレールで出会ったマジカルメイデンの桜花鈴音がそこにいた。
確か学院都市の住人だと聞いたよな。なら、話をすれば通じるだろうから話すか。
「この塀の向こうから悲鳴が聞えたんだが、オレじゃ入れないんだ」
「悲鳴? それホント?」
「あぁ、本当だ」
「そっか、わかったわ」
桜花は塀の向こうを睨むと、颯爽と塀を飛び越えていった。素早い動きに、モノレールで見たアイドルらしさが影を潜めていた。
そして、彼女が淑女の休息所に入って数分。
「ギャーーーーー!!!!」
今度は男の絶叫が塀の向こうから聞えてきた。
「終わったか」
「よっと」
桜花がまた塀から飛び越えてくると、絶叫を出した男も首根っこを掴まれて飛び越えてきた。
「不法侵入よ」
「ご、ごめんないごめんない!! 許してくださいごめんなさし!」
異様に怖がっているように見えるが……
「何をしたんだ?」
オレの質問に、桜花は口に手を当てて言った。
「乙女の秘密ってことで」
「そうか、ありがとうな」
「あの、さすがにツッコんでほしいんだけど……」
……あぁ、普通に秘密にしたいことだと思って流したんだが、違ったか。
「すまない。そういうことには疎いんだ」
「まぁいいわ。えーっと……名前なんて言ってたっけ?」
「柊零一だ」
「柊零一……うん、完全に覚えたわ。私、中学三年生だけど、零一って呼び捨てに構わない? 私のことは鈴音でいいから」
「あぁいいぞ、鈴音。よろしくな」
「えぇ、よろしく」
「「っ!?」」
鈴音と握手しようとしたのだが、静電気でも走ったような感覚になり、お互いに手を引いた。
「何、今の……?」
「なんだろうな?」
数秒か数十秒かわからないが沈黙が続いてしまったので、オレから切り出すことにした。
「ここに、自販機やコンビニはあるのか?」
「え? 自販機? あぁこの淑女の休息所の塀沿いを歩けば一台置いてあるわよ」
「そうか、色々助かった。それじゃオレはこいつを連行していくぞ」
「あ、うん、わかった……」
オレは不法侵入男を連れていくついでに自販機へと歩き出した。
「今の感覚って……まさか……いや、ただの静電気でしょ。私も帰ろっと
静電気がつらい季節になってきた……




