⓻えと……布団一式……だよ?
「う、うぅ~零く~ん。いってらっじゃ~い」
東京へと出発する日。リニア新幹線のホームで母さんがハンカチ片手に手を振っていた。
「二週間しか向こうにいないんだから泣くことないだろ」
「でも~ご飯が口に合わないかもしれないし~、東京の人たちは怖いって言うじゃない~そんな危ない所に行って零君が無事に帰ってきてくれるか心配なんだもの~!」
はぁ……中学校の修学旅行以来だな……この母さんを見るのは。
「安心してください零一くんのお母様。遅れて行くことになりますが、私がしっかりと見守りますので」
見送りに来た栞さんが母さんの手を取って言うと、いきなり抱きしめた。
「なんて良い子なのかしら~~~~!!! 栞さん、零一くんのお嫁さん決定よーー!!!」
「お、お嫁さんだなんて……そんな……私はただ……」
「か、母さん! 落ち着いて!」
父さんが困り顔で二人の周りを回っているが効果が全くない。
「お兄ちゃん、ナイスガイ!」
お前は本当にオレの妹か?
「それにしてもさ、お兄ちゃんの相棒さん遅くない? もうすぐ列車来ちゃうよね?」
電光掲示板に取り付けてある時計を見ると、あと十分すると来てしまう時間だった。
「お、お待たせ……しました……」
「あ、桐生……さん?」
「お、おぉ!?」
「わ~お」
「あらあら、大きな荷物ね~」
なにを入れたらそんなに大きく膨らむんだ? と言いたくなるほどのリュックを背負い、両手にも大きな手提げかばんが握られていた。
「どうしたんだその荷物量は」
「えと……えと……布団一式……だよ?」
桐生の言葉に、一同沈黙。
「な、なぜ布団一式なんですか桐生さん?」
「う、うち……布団変わると……眠れなくて……」
枕が変わると眠れなくなるのはよく知っているが、布団が変わると眠れなくなるのは初めて聞くことだ。
「じゃ、じゃあ、その背中のリュックは?」
「掛け布団と敷布団カバーです……!」
「手提げ鞄には?」
「こっちが枕で……こっちが毛布です……!」
「あ、あのー? そうなると、着替えはどうしてるんですか?」
椛が訊ねると、桐生は少しだけ時が止まっていた。
「……大丈夫……お仕事時間以外は外に出ない……」
「そういう問題では……」
「えっと、ちょっといいかしら?」
「だ、誰!?」
母さんに指をさして訊いてので、オレが答えた、
「オレの母だ」
「ま、眩しい存在のお母さん……!?」
衝撃の事実かのようなリアクションを取ってくる。
「よろしくね、桐生さん。それと、着替えはちゃんとするようにしてね。細菌感染したくないでしょう?」
「さ、細菌感染!?」
母さんは医療魔導師なので、そういうことには詳しく、その恐ろしさを桐生に伝えていく。
「こ、怖い……」
「そう、だから東京に着いたら、まずは衣服を三日分でも良いから買いなさいね?」
「わ、わかった……じゃなくて、わかりました……」
「うん、零君の相棒さんは素直で良かったわ~」
母さんが小さく笑うと、リニア列車でホームに入ってきた。
「それじゃ、行ってくるよ」
「気をつけてくださいね零一くん」
「向こうで会いましょう栞さん」
オレたちはリニア列車へと乗り込んだ。
影の主よ、首を洗って待っておけよ。魔王が東京に行くぞ。
さぁ東京にレッツゴー!!




