⓺柊君動いちゃダメ!!
終業式の前日に、魔総会に選ばれた生徒のお披露目をする時間が設けられており、全校生徒が講堂に集まった。
「はい零一くんに桐生さん。これが警備生徒が着ることになる上着と腕章です」
オレと桐生は講堂の舞台袖で、黒を基調とした半袖の上着と黒文字で警備と書かれた黄色の布を手渡される。
「これを着て決起集会に出てください。後は私がメンバー紹介を行いますから呼ばれたら一歩前に出てお辞儀するだけでいいですよ」
「わかりました」
「よ、良かった……けど……人前に出るの……恥ずかしい……」
外を見たりオレたち見たりして落ち着かない様子に、栞さんが優しく桐生の手を握る。
「安心してください。みんなをこけしか、かかしだと思えばいいです」
「こけし……かかし……?」
困惑した表情をして栞さんを見る桐生。
「わ、わかりにくかったですかね?」
「そ、そんなこと……ない、です……!」
首を大きく横に振ると、栞さんは笑顔に戻る。
「ふふ、では皆をアザラシと――」
「栞、後輩を困らせてどうするんだ」
桐島先輩が栞さんの頭に軽くチョップした。
「もぅ、冗談ぐらい言わせてほしいのだけど悠子」
「せ、生徒会長の……冗談……ふふ、面白い……」
ぎこちないニコッとした笑顔が咲いた。
「そういった表情も、時には大切だぞ桐生」
「綺麗な笑顔ですよ桐生さん。さて、決起集会を始めましょうか」
ふっ、とかっこよく笑う桐島先輩と栞さんは袖から出て行き決起集会が始まった。
「綺麗……? だ、誰が……?」
出て行く際に言われた言葉が理解できてない桐生はおどおどしながら訊いてくる。
「桐生さんのことですわ。ね? 零一様」
魔総会のメンバーに選ばれた戌井さんたちが舞台袖にやってきた。
「そう聞こえたな」
「あ、あぅ……うち、初めてそんなこと言われた……」
「フェリスちゃんアイによれば、貴女は綺麗になれる要素を持ってるよ☆」
「ふふ、良かったですわね桐生さん。わたくしも嬉しく思います」
「えぇ、さすがあたくしたちC組の機械科のエースですわね」
みんながこれだけ桐生を気持ちを持ち上げているのは褒めて褒めて褒めまくれ作戦(奏案)によるものだが、本心から褒めているので、耳障りが良い。
「う、うち、うち!! きゃあ!?」
「おっと?」
舞台袖にいた全員が一斉に声を上げた。なんと桐生が恥ずかしさのあまりにオレにぶつかってそのまま一緒に倒れてしまったのだ。
「き、桐生さん!? 大丈夫ですか!?」
「な、なんてことでしょう! 可愛いくまさんが丸見えですわ!!」
「柊君動いちゃダメ!! 他の男子も!! 先輩たちも同様です回れ右!」
「ご、ごめんない……今すぐどくね……」
「あぁ桐生さん! そのままお立ちになっては――」
「へ? …………へ?」
ん……? なんだ? …………目を瞑ろう。
「うちの……うちのパンツ見られたーー!!」
褒めたらこうなってしまった……




