⓸魔王と競り合う相手ってなんだよ
お疲れ様会をする代わりに、後片付けの手伝いをするなら開催してもいい、という条件だったのでオレと主催者の恭介。それと後片付けを申し出た栞さんで晴香の手伝いをしている。
「まさか、警備生徒で東京に行くことになるとはな……」
「いいじゃない。おじさんとおばさんに変な理由をつかないで東京に滞在できるんだから」
自分の後片付けを終えた晴香がワインを片手に話しかけてきた。
「それよりも、晴香の方はどうなんだ。影の主の目的は掴めたか?」
「ぜーんぜんわからないわ。どこの誰なのか、どんな力を持っているとか、情報がないもの。地球の神たちにも聞いたけど、知らないって。そんな危ない力を持った人間は監視対象になっているはずだって言ってたぐらいだもの」
「そうか、東京に行ってからじゃないとわからない、ということか」
「お願いだから、地球を壊すだけのことはやめてよ?」
「わかっている。それと、晴香。オレの秘密……つまり魔王だったことがバレているにも関わらず、魔力が奪われなかったのはどうしてだ?」
客はいなかったが、おじさんが上機嫌で洗い物をしているので小声にして訊ねた。
「多分だけど……始めから知っているからだと思うわ」
「始めから?」
「そう、私や零一みたいに前世の記憶を持ってこの世界に転生してきた。とかだったら契約違反じゃないもの」
なるほど。しかし、それだと地球の神たちは知っていないといけないことになるよな。つまりは転生者ではないのか。
「だが、他に方法がないよな……」
「魔導祭の開催まで色々と調べてあげるから、魔総会の警備頑張りなさい」
「悪いな晴香」
晴香は「気にしないで」と言ってワインを飲み干すと、おじさんの手伝いを終えた栞さんがワインを注ぎに来た。
「ありがとう辰弦さん。あ、そうだ辰弦さんに訊きたいことがあったの」
「はい……なんでしょうか?」
「シャッテン。ってどこで知ったの?」
晴香の言葉に、一瞬だけ眉が動いたが栞さんは臆せず言った。
「私の体に呪詛の力を入れる時に耳にしたんですよ。何がどう関係しているのかわからないですけど」
「そっか、ありがとう。まずはそこから調べる必要がありそうね。本物のシャッテンって組織を」
本物のシャッテンか影の主と関係ありそうだが……そういえば――
「楯宮に〈深層支配〉を使って操っていたのも魔術師と名乗っていたな」
「関係ない、とは言いきれないわよね」
「そうですね。〈深層支配〉をいとも簡単に発動できる魔術師はそうはいないはずですから、すぐに見つかりそうなんですけどね」
「なんの話してるんだ?」
恭介がタオルで汗を引きながら戻ってきた。
「お疲れ様、桂木君。零一に挑戦状を叩きつけた命知らずの話をしていたのよ」
「あー、その話っすか。ホント命知らだよな、零一に勝てる相手いるのかよ?」
ふむ、オレに勝ったことがある相手か……いないな。
「確か二人ぐらい勝てそうな人いたわよね?」
晴香が記憶を巡りながら出した言葉に、栞さんと恭介は驚いた。
それは思い出さなくていいことだと思うぞ晴香。
「いたんだ……零一くんに勝てそうだった相手が」
「魔王と競り合う相手ってなんだよ……」
「思い出した。勇者マルリアーゼちゃんと戦女神のフィーリア・ヴェルベイヤさんだ」
「はぁ……思い出すなよ……」
今日は厄日みたいだな。
「そんなに強かったんですか?」
「零一とその二人のどっちかと本気で戦ったら……そうね……わかりやすく言うと、アメリカ全土が木端微塵に無くなって海になるような戦いになるわよ」
「うへー……恐ろしいな……」
「しかも、フィーリアさんの時って結構追い詰められた感じだったわよね?」
「神剣と神槍を持ってこられたら誰だって動揺するだろう」
「それで、どうなったんだ? 血でも吐くような戦いだったのか?」
「服を傷つけられたんだ」
………………
「「それだけ?」」
「あぁ、オレの服を傷つけたことがあるのはその二人だけだったな。完全なオレの不覚だ。思い出したくないことだよ」
苦笑いを見せると、栞さんも恭介も苦い顔になっていた。
「いや、それは追い詰めたことになるのか?」
「それがなるのよ、零一が魔王だった時の世界だと」
「あ、そういうことですか、誰も零一くんの服に傷をつけるほど近寄ったことがないんですね?」
「その通りよ。あれは天界で見ていたけど、神族たちが賭けをしてたぐらい盛り上がった凄いことだったのよ」
あの時に神が賭けをしていたとは、本当に能天気な奴らだな。
「今頃何してるのかしらね二人は」
「さぁな。マルリアーゼは向こうでじゃじゃ馬の如く勇者をしているはずだが、フィーリアは知らんな。オレに負けた後、武者修行をすると言って五百年ほど姿を見なかったぞ」
「フィーリアさんに会いたくなっちゃったなー」
まぁあんな堅物女オレは会いたくないがな。
勇者と戦女神さん。会ってみたいものです。




