プロローグ
「ふふんふ~ん♪」
七月中旬。
東京魔導学院都市。
零一たちの住む愛知県から約二六三キロ離れた日本の首都東京にあり、その東京湾に巨大な壁に囲まれた人工島として作られているのが特徴的な場所になる。
様々な魔導学校が集結して成り立つ東京魔導学院都市は、魔導師を目指す小学生から大学生までの若者たちが約百万人住んでおり、まだまだ蒸し暑さが残る中でも、涼しげに鼻歌を交えながら歩いている少女もその一人になる。
「曲調はこんな感じか。いい歌になりそうだね」
少女は自分の両耳を塞いでいたワイヤレスイヤホンを外して専用のケースにしまうと、次は携帯端末を触り始めた。
「もうすぐ着くよ。っと」
メッセージを送信して頭を上げると、歩道を塞ぐように男数人が立っていた。
(はぁ…………)
見るからに勉強よりも遊びが一番と言う外見をしている男たちを見て、少女は心の中でため息をついて踵を返した。
だが男たちは加速魔導を使ってすぐに少女を取り囲むと一方的に喋り始めた。
「ねぇねぇー君めっちゃ可愛いね。良かったらオレたちと遊ばない?」
「しかも君ハーフっしょ? 銀髪の子ってすげータイプだぜ!」
「…………」
「詠礼女子って可愛い子多いからさー是非お友達になりたいんだよねー」
「そしたらさー俺たちと夜通し……あはははは!!」
(バカ校の生徒か……よくもまー学院都市に入れたものね……)
男たちの話を全く聞いてない少女は欠伸をして背伸びをしている。
その態度に一人の男が少女の手を無理やり掴んで言った。
「ちゃんと俺たちの話聞けよ~」
「じゃあ、そうね……あそこの裏路地で話をしましょうか」
少女がニコッと可憐に笑って指す場所を見て、男たちはニヤニヤといやらしい顔をして承諾した。
「いいねーそうこなくっちゃなー」
「俺一番な!」
「おい! 抜け駆けすんなよ!」
「まぁいいじゃねーか、ゆっくり楽しもうぜ」
「それもそうだな!! ひゃはー!!」
ゾロゾロと建物と建物の間に入った瞬間、
「「「「「ぎゃあああああああああ!!!」」」」」
男たちの悲鳴が路地裏から木霊すると、さっきまで意気揚々だった男たちが怯えて逃げるように血相を変えて出てきた。
「……あんたたちみたいな低俗に、誰が仲良くすると思ってんの?」
逃げ遅れてしまって転んでいる男に、どこに隠していたのかと思うほどの長さがある一振りの剣を向けて訊く。
「や、やめください! すみませんでしたぁぁぁぁ!!!」
神に祈るかのように両手を組んで謝罪するも、少女の白銀の瞳は微動だにせず真っすぐ見つめたまま口を開いた。
「やだ」
「ひぃぃぃ!?」
「って言ったらどうしようか?」
「に、二度としないですから命だけは!」
「それ? 本当に?」
「ほ、本当です!!」
少女は少しばかり考えると、一つの案を男に出した。
「じゃあ、二度とそんなことができないように全身の毛なくそうか」
また可憐に笑って、剣を振りかざした。
「え? 全部!? 嘘、待って、そんな無理やり、ちょ、あ、あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「んじゃ、私行くから」
軽く埃を払ってから少女は裏路地を歩きだした。
「……………………」
髪の毛から眉毛やまつ毛すらもない男は、地に落ちる自分の家を呆然と見ることしかできなかった。
「もうすぐ魔導祭だってのに、治安悪くしてどうすんのよ……」
少女は持っていた剣を光の粒子にしながら愚痴っていた。
裏路地から出るころには剣は完全になくなっており、少女は雲一つない青空を眺めて言った。
「一体どこにいんのよ……あいつは……」
何か思いつめた表情をしていたが、首を二回横に振ってから目的の場所へと歩み始めた。
魔導祭編。がんばるぞーい!




