㉓あいつクソ真面目できらーい
昼間だというのにカーテンを閉め切った暗がりの室内で、ベッドで眠りについていた小柄で小麦色の長い髪をツインテールにしている少女が目を覚ました。
「あー最悪ー。めっちゃ最悪ー。なんなのあれ……化け物め……」
額から出る汗を拭いながら体を起こして、枕の横に置いてあるカラフルにデコレーションされた携帯端末を手に取った。
「あーあ、マスターからめっちゃ怒られるじゃんワタシ……」
憂鬱気分で携帯端末を操作してマスターと呼ぶ人物に向けてメッセージを送る少女。
送信完了されたことを表示されると、携帯端末を放り投げて大の字でベットに寝そべった。
(柊さんって本当に不思議だったなー……黒い火の鳥を作るし、その鳥を槍にしちゃうし、あの子の精神世界で魔導なんか使っちゃうしで……あーむかつくー!!)
この少女こそが楯宮に〈深層支配〉で精神世界を支配していた魔術師なのだが、今は零一のしたことが気に入らなくてジタバタしている。その様子はただの女の子と言えるほどだった。
「あー……こういう時は服見たりして気を紛らそーっと」
気だるく起き上がって着ていたルームウェアを脱ごうとしているが、彼女の携帯端末から軽快な音楽が流れ出してやめてしまった。
「絶対マスターからだよ……」
恐る恐る携帯端末の画面を覗くと、少女はため息を漏らして通話ボタンを押した。
「マスターごめんねー。折角力を貸してくれたのに失敗しちゃったよー」
緩い言葉遣いで謝罪をすると、彼女は少しだけ目を見開いて会話を続ける。
「あ、うん。そー、そうなんだー……あの人意味わかんないよー……ワタシの〈深層支配〉なんて気にしてないしさー……うん……そー……」
今度はマスターと呼ばれる相手が喋っているようで、相槌を繰り返していた。
「うん……え!? ホントに!? いいの!?」
驚いた声をあげるが顔は笑顔を咲かせる彼女は訊き返した。
「いいの? 東京行ってもいいの? ……やったーーーー!!!!」
携帯端末を耳から離して両手を上げてくるくると回る少女。
しかし、次に聞こえてきた言葉で、彼女は固まった。
「え? なんであいつと一緒なの? いくらお仕事だからってあいつと一緒に居たくないんだけど?」
さっきまでの舞い上がっていた声のトーンが一気に下がり、小麦色の髪をいじり始めた。
「だってさーあいつクソ真面目できらーい。この前のお仕事だって折角の海外なのに『ショッピングすら周囲の目があるからダメだ』とか言うんだよ? 信じらんでしょー? そういうことだからワタシ、パスね」
この話が終わったら買い物いこうなど考えていた少女に、ある一言が囁かれた。
「…………もう、しょうがないなー…………いいよ……マスターも一緒なら行く。うん、うん、わかった八月ね。じゃあね、マスターシャッテン様ー……」
通話が終わると、少女はベッドに突っ伏して言った。
「規格外の人から次は銀髪女剣士かぁ……マスターどんなこと考えてんだろうねー。まぁどうでもいいか」
マスターシャッテンは何者なんでしょうね




