㉑〈黒焔滅死鳥(ヘイルへニックス)〉
楯宮は狂気な笑い声を通路に響かせながら赤黒い液体を虎のように成形し攻撃を仕掛けてきた。
「あはははは!! ほらほら! 怖いでしょー? あはははははは!!」
赤黒い液体の虎はオレを一口で喰らうかのように口を大きく開けて襲ってくる。
「器用なことができる液体なんだな」
オレは虎の足元に〈十字火路〉を敷いて燃やしていく。
それでも足を止めることなく虎は疾走してくる。
「だーかーらー魔導じゃ無駄無駄―。そのまま噛み殺されちゃえばいいよーあはははは!!」
「それじゃ、これはどうだ?」
「もう何しても無駄だっ…………って?」
魔眼を光らせて魔法陣を地面に作ると、そこから黒き焔の鳥が翼を広げて出現をした。
その荒々しく燃える姿に虎は攻撃をすぐさまやめて、楯宮の近くに舞い戻った。
「〈黒焔滅死鳥〉だ。仲良くしてやってくれ」
〈黒焔滅死鳥〉が大きな翼を羽ばたかせてオレの横に着地すると、会うのが久しぶりだったため顔を下げてオレにじゃれてきた。
「相変わらずの甘えん坊だなお前は。しかし、すまんな。しばらく外に出してやれないと思ったが、生きが良い獲物がそこにいてな、滅するか?」
オレが指さす方向に顔を向けて虎を見ると、翼を広げて咆哮を上げた。
「そうか、滅したいか。良いぞやってこい……ってもういないか」
オレが言う前に〈黒焔滅死鳥〉は凄まじい速さで飛んでいき、その鋭いくちばしで虎の腹を貫くと黒い焔が燃え上がる。
「あ、あがやあああああああああああああ!!!!!!」
虎が貫かれた箇所と同じ箇所を楯宮は手で押さえながら絶叫をした。
「これでしまいか楯宮?」
「あああ! ああああ!!!」
苦し紛れに赤黒い液体で攻撃をしてくるも力はなく、魔法を使わずとも跳ね除けていく。
「ああああああ!!!」
まだ、頑張るのか。潔く諦めることができなんだな。
「ああああ……ああ……あ…………」
最後にはふらふらになりながら続けていたが、力なくその場に倒れた。
だが、不快な力はまだ消えずに残っている。
「あは……あはは……あははははははは!!!」
急に笑いだした楯宮は、ふわりと何かに引っ張られるかのように宙に浮いた。
全身に力は入っておらず、瞳も閉じて意識があるようには見えないが彼女は言葉を出した。
「どう、ビックリした? 凄いでしょワタシの力」
まるで操り人形にでもなったかようなぎこちない体の動きで、楯宮に腰に手を当て胸を張らせる。
どうやら何者かに支配をされているようだな。
「どうもこうない。お前は誰だ?」
「ひーみーつ♪」
子供のように無邪気に答える彼女にオレは言った。
「そうか、〈黒焔滅死鳥〉を見ても減らず口を叩けるだけの自信があるんだなお前は」
「当たり前じゃん。それはそうと、柊さんのペットにこの子を攻撃させるのやめさせたら?」
〈黒焔滅死鳥〉が楯宮の心臓を貫こうと、背中にくちばしを当てていたので、オレは首を横に振ってやめさせると一本の後ろに下がっていく。
「まぁこの子を殺したところで、ワタシは消えないから攻撃してくれても良かったんだけどー」
楯宮から不快な力がさらに強く溢れ出してくる。
「居心地がとても良いしー、この子にはもう少し頑張ってもらわないといけないからー、帰るねー♪」
赤黒い液体が楯宮を包み込むと、〈黒焔滅死鳥〉と同等な体格をした鳥へと変貌してスタジアムの壁を破壊し、外へと颯爽と飛んでいった。
「追うぞ、〈黒焔滅死鳥〉」
〈黒焔滅死鳥〉の背中に乗って壊した壁から外に出て、同じく空へ舞い上がった。
「零一くん! ってきゃあ!」
楯宮を追っている途中、栞が飛行魔導でオレの横を飛んできたが、〈黒焔滅死鳥〉が敵と勘違いをして威嚇した鳴き声を発してしまった。
「〈黒焔滅死鳥〉大丈夫だ。彼女は大事な友人だ」
頭を優しく撫でてやると、威嚇するのをやめた。
「栞、すまないな。こいつは〈黒焔滅死鳥〉と言う魔鳥なんだ」
「そ、そうなんだ。頭撫でても大丈夫?」
「あぁ大丈夫だ」
敵意がないことを示すために、そっと頭を撫でると気持ちよさそうに喉を鳴らした。
「ふふ、可愛い」
「それよりも栞、聞いてくれ。楯宮がこの騒ぎを起こした元凶に操られているようだ」
「えっ!?」
「それを今追っている状態だ」
そしてオレは栞の手を引っ張り、〈黒焔滅死鳥〉の背中に乗せて言った。
「しっかり捕まっていろ。飛ばすぞ!」
「きゃあああああああ!!!!」
追うぞー!




