⑳言い方を変えると、ハートです♪
栞たちが巨体の化け物と戦っている最中のスタジアム内の通路。
オレはこの元凶を作った者に会うためにゆっくりとした足取りで歩いていた。
「どうやら逃げてるようではないみたいだな」
そこらかしこに不愉快な力を罠のようにまき散らしては身を隠しているようだ。
それを〈炎滅の魔眼〉で壊していくと、意味を理解出来ない言葉が飛んできた。
「bんじゅytfgbんじゅytg!」
赤黒い液体を鋭利な刃物に見立てて切り裂こうとしてくるが、右手で受け止めて燃やした。
「そこか……」
燃えていく炎を辿っていくと、柱の陰にそいつは隠れていた。
「xcvbrdfgh」
隠れていた柱から体を出すと、赤黒い液体を甲冑のように全身に纏い突進してくる。
「意味のないことを」
突進してくる輩の顔面部分を鷲掴んだ。
身振り手振りを激しくして抵抗してくるので、鷲掴んでいる手に力を込める。
「fがlば!?」
顔面部分を覆っていたモノを粉々に砕くと、ようやく顔を拝むことができた。
その顔は愛和魔導高校のスカイラクロス部の女顧問、ではなく金桐亜沙美だった。
「ギリザイエに偽りの魔力を吸われたはずだよな金桐? どうしてここにいる?」
「kgfvytd!」
ふむ、何を言っているのか理解できぬは困るな。
この魔法が通じるか試してみるか。
「〈魔言変換〉」
金桐の喉に指を置いて魔法を注入をした。
「喋ってみろ金桐」
「〈助けて、助けて!〉」
上手くいったようだ。
金桐の言っていることが理解できたが、助けて、とはなんだろうか。
「何を助けてほしい。この異様な力を消してほしいのか?」
「〈それも、だけど。美祈を、美祈を助けてほしいの!〉」
美祈とは、楯宮のことか。
「何かされたのか?」
「〈わたしと同じでこの変な力に染まってるの〉」
つまり、楯宮も被害者になってしまったということか。
「わかった。だがまずはお前からだ金桐」
まずは魔眼で金桐がどうなっているのか探ることにした。
魂は……普通の人間と変わらないな。なら、次は心臓か……これまた何もないな。
「どこにも見つからないと思いますよ、柊さん♪」
後ろから楽しそうという感情がこもった言葉が耳に入り振り返ると、楯宮美祈が軽快にスキップをしながらオレに近寄ってきた。
「〈美祈!〉」
「あ? 亜沙美ちゃんいたんだ? 知らんかったよ」
あの時に言われたセリフと表情を、そっくりそのまま返された金桐は泣きそうになりながらも睨むが、
「使い捨ての分際で睨んでんじゃねーよ」
とても女子中学生とは思えない低い冷たい声を浴びると力なくへたれ込んだ。
「なぁ楯宮」
「なんですか柊さん♪」
一瞬にして明るい表情と声色を戻した楯宮に指をさして訊いた。
「その手に持っているモノはなんだ?」
「あ? これですか? これは失敗品です♪」
バッと勢いよく笑顔で見せてきたのは脈打つモノだった。
「言い方を変えると、ハートです♪」
そう言いながら楯宮は脈打つモノを力強く握り潰すと、鮮血が辺り一面に飛び散った。
「えへへー。次は亜沙美ちゃんの番だからねー?」
顔に血がべたりとついても笑顔を崩さす言う楯宮。
これはもう心の底まで落ちてしまっているな。
「楯宮」
「何ですか? 亜沙美ちゃんが生まれて初めて味わう恐怖した顔を堪能してるのに」
「お前から助けるぞ」
オレが楯宮の体に触れようとした、まさにその時、ドックン! とまた不愉快な感覚が楯宮から放出され触れるのやめた。
「何を言ってるんですか? 柊さん。助けるって誰を? ワタシを? やめてよ。冗談キツイなーもぅ……ワタシが誰かに操らていると思ってますか? 今ので思わないって思いましたよね? これだから魔導使ってる人って律儀で正義感が強くて融通が利かないアホで勉強でしか魔導を知ったつもりでいて深い部分まで見ようとしない馬鹿ばかりで無魔力の人たちを貶して笑う汚いモノでこの世界が魔導で成り立ってると思ってるゴミクズなんだからワタシのやってることに気づかないのは当然か……柊さんってただの分からず屋のお節介焼きさんなんですね」
呆れた物言いをする楯宮に、オレは告げてやった。
「そうか。なら、ここでお前を殺しても文句はないんだな?」
オレの質問に楯宮は腹の底から大笑いを始めた。
「や、やめてよ柊さん! ひぃーお腹痛いお腹痛い! ワタシを殺す? どうやって? 魔導で? 無駄無駄! だってさ、そんなことする前に……」
楯宮から不快な力が溢れると、飛び散った血や金桐に纏っていた赤黒い液体が集まるとオレに笑いながら言った。
「ワタシが殺しちゃうからさ!!!」
楯宮ちゃんの長いセリフをスラスラ書けたのは内緒




