⑲〈聖剣抜剣(ディバインブレード)〉
「凄いね柴咲さんは」
栞は柴咲の戦いぶりを称賛しながら、魔弾などで攻撃してくる五人の選手たちから飛行魔導でスタジアムを周回するように飛び回っていた。
(どこかに行ったのかしら……姿が見えない)
攻撃を避けながら〈迅雷の魔眼〉を使って誰かを探していた。
(零一くんは大丈夫かな……あれ? いない?)
下を見ればオレを取り囲んでいた選手は皆、床に伏せており、残るのは栞を追っている者たちだけだった。
(さすが魔王様だね。じゃあ私がやることは変更ね)
休む暇も与えない攻撃の数々を避けていた栞は、踵を返すように飛行し選手たちに向いて魔導を発動した。
「<雷電飛剣>」
栞の背後にいくつもの魔導陣が展開をすると、そこから雷の剣が発射された。
「ぜfvgyhんじ」
柴咲と戦っていた選手同様に、栞を襲ってくる選手たちも同じ言語を使って<雷電飛剣>を赤黒い液体を吐き出し、他の選手とも混ぜ合って楯を構成して防いだ。
「吐き気がするからやめてほしいんだけど!」
楯に打ち消された<雷電飛剣>の出力を上げて放ち、隙のできた選手の一人に突っ込んだ。
「ごめんね。少し寝てて……」
小さな魔弾を近距離で撃って気絶させると力なく地面に落ちていく。
「頼みましたよ桂木君」
「了解です生徒会長!」
落ちる選手を恭介の風系統魔導で包み込んで、優しく地面に眠らせた。
「あと四人」
「sいjんrdxdfgy」
「mskfsぁが」
「んk76trszb」
「xcざdfysg」
「会話をしてる?」
内容はわかりようもないことだが、何かをしようとしているのは明確で、赤黒い液体を一人に向けて集まっていき、
「;hgp;vkffvんmpくぁ!!!!」
「な、なにこれ……」
怪物または化け物と言えばいいか、手や足が長く細く生え、背中にはコウモリのような大きな羽が二枚あり、頭はなにか動物を模した、人間の大きさよりも数倍はある巨体のモノに姿を変えて大気を震わす咆哮を上げる。
赤黒い液体を分け与えた選手たちは、まるで電池が切れたおもちゃの人形のように力なく下に落下していく。
「一気に三人かよ!?」
一人はなんとか捕まえてはいるが、まだ魔導が未熟な恭介は、残りの二人を助けられるほどまだ器用ではなかった。
「間に合わない! ――きゃあ!?」
栞も助けようと向かうも、巨体の化け物の大きな手が栞の行く手を阻むかのように振り回された。
「ど、どうしよう……間に合わない……」
「生徒会長、アタシに任せてください!!」
「え!?」
栞の耳に聞いたことのある声が届きその方向を見れば、ギリザイエが落下する二人を受け止めようと飛行していた。
「よしっ! 捕まえた! 桂木君、この子たちを安全な場所までお願い」
「なんで俺の名前を……ってのはまぁいいか。了解しました!」
光系統魔導で優しく浮かせて、ゆっくりと下ろしていく。
「北――ではなくて、ギリザイエさんありがとう」
「いいんですよ生徒会長。こいつに邪魔されてたら無理ですから」
ギリザイエが栞のそばに飛行してくると、二人で巨体の化け物を鋭く見据える。
「アタシが一人で退治してもいいですけど……どうしますか?」
「一緒に戦いますよ」
栞の答えに、ギリザイエが笑って言った。
「じゃあ一緒に化け物退治と行きましょうか!」
ギリザイエが颯爽と真上に飛び上がると、魔導陣を巨体な化け物に向けて展開した。
「〈聖天降雨〉!!」
眩い光の雨が巨体に降りかかると、嫌がるように両手を交互に大きく振って霧散させていく。
その隙を栞は見逃さず、魔導を発動した。
「〈雷爆吶喊〈ライトニングブラスト〉〉」
魔導陣から一筋の雷が放電されると、巨体の化け物の足元を貫くと同時に爆発をした。
「zxcvbんjきうytれ!!!」
片足が粉々に破壊されてバランスが崩れた巨体の化け物は、立て直そうとするも倒れて土煙が昇る。
「今だ!」
ギリザイエが攻撃の手を緩めずに魔導を使用としたその時、
「ギリザイエさん危ない!!」
「えっ!? わーーー!!!!」
栞が雷を使ってギリザイエの体に巻き付かせて強引に引っ張ると、赤黒い巨大な玉が土煙の中から現れてギリザイエの横をかすめていくと大爆発を起こし激しい風が吹き荒れた。
「は、ははは……間一髪……ありがとうございます生徒会長」
「いいのよ。それよりも……」
土煙が爆風で晴れると、巨体の化け物が大口を開けて赤黒い玉が発射されかけるぐらいに出来上がっていた。
しかも――
「さっきよりも大きく作られてる……」
「ですがあれを壊せば……」
チラリと後ろを見ると、スタジアム外で固まって避難をしている中部魔導高校のスカイラクロス部の生徒達が目に入る。
先ほどの大きさであの大爆発なら、今から放たれようとしているのはどうなるのかを簡単に想像した二人は悩んで動けずにいた。
そんな二人に、少女の声が届く。
「生徒会長と吸血鬼さん、ボクに任せてよ!」
奏を安全な場所まで運んでいた柴咲が、巨体の化け物に向かって颯爽と走っていた。
「柴咲さんお願い! ギリザイエさん、上級攻撃魔導使えますよね? 私はもしもの時に備えてここで防護魔導を貼っておきます!」
「任せて!!」
栞が縦横無尽に電気の線を絡めて作り始め、ギリザイエは空高く舞い上がり魔導を発動準備を開始した。
「いっくよーーーー!!! 第二式柴咲流格闘魔導〈獅子咆脚〉!」
柴咲は更に走るスピード上げて、巨体の化け物の喉元を獅子が獲物に襲い掛かるように蹴り飛ばした。
「cvbんghmjkytyrてdfghjkl;ytrt!?!?!?」
呻くような声に出来上がっていた赤黒い玉が、目に見えて小さくなった。
「今ですギリザイエさん」
「行きますよー!!!!!」
ギリザイエは自分の体よりも大きな魔導陣を展開し、両手を組んで天に掲げ叫んだ。
「〈聖剣抜剣〉!!」
組んだ両手から神々しい白銀の光が天高く伸び、そのまま巨体の化け物に向かって振り下ろした。
「両断!!」
振り下ろされた〈聖剣抜剣〉が巨体の化け物も一刀両断すると纏っていた赤黒い液体が浄化されるように消えてなくなっていった。
「浄化完了」
ギリザイエが決めてくれたぜ!!




