⑰死体を動かせる魔導って知ってる?
嫌な感覚を残しながらもオレと柴咲、少し遅れてやってきた恭介と戌井さんら敬う会のメンバーと合流し、スカイラクロススタジアムに入場をした。
「柊くん、こっちだ!」
我が校のベンチ後ろの観客席にいるからそこに来てくれ。と桐島先輩からメッセージが届いていたので、そこに向かうとオレを見つけて手を上げる桐島先輩と、飛行魔導を使ってウォーミングアップしている奏たちを不安げな表情で手を組んで見守る栞さんが座っていた。
「栞さん、どうかしたんですか?」
「急にいなくなったと思ったらすぐ戻ってくるなり、ずっとこうなんだ」
やはりナニカを察知したのか。
「栞さん? どうしたんですか?」
「…………」
「栞さん?」
「え? あ、零一くん! 少しお話したいことが!」
二回目の呼びかけでようやく気づいた栞さんは急に立ち上がり、オレの手を強く掴んで引っ張り観客席から離れていく。
そして連れて来られたはスタジアムのゲート付近で、人の行き来があまりない場所だった。
「それで、何があったんだ?」
「零一くん……さっき胸をえぐってくるような嫌な力を感じなかった?」
「あぁ、感じたな。だが、そんな強い力を持つような人物は見当たらなかったがな」
「私もスタジアムの観客席で悠子と話してた時に感じて、外に出たらスカイラクロス部のキャプテンの大原さんと出会っちゃったのね。そしたら愛和魔導高校が到着したから挨拶しておこうって言われて、挨拶だけして立ち去ろとしたのだけど……」
曇りがちだった表情が更に曇った。
「顧問の人の言葉が意味不明で、何を言ってるのか全くわからなかったの……しかも大原さんは普通に会話していたから……どうしたらいいかわからなくて、零一くんに助けてって〈魔法念話〉したんだけど……」
「ちょっと待て。オレも栞に〈魔法念話〉したんだぞ」
栞は首を傾げて言った。
「私に〈魔法念話〉をしたの? じゃあなんで通じなかったの?」
どういうことだ? 〈魔法念話〉が伝わらなかっただと? 〈魔法念話〉を同時に送り合ってもそんなこと起きるはずがないのだが……まさかあの嫌に感じた力に阻害でもされたのか?
「栞、この練習試合は注視しておく必要がありそうだな……何が起こってもいいように魔眼を使えるようにしておくぞ」
「うん……わかった」
栞とそう話し合って観客席に戻った。
「あ、戻ってきましたわ。会長様どうなされたのですか?」
「なんでもないですよ戌井さん。それよりも、もうすぐ試合が始まるようですね」
目線をフィールドに移すと、両校の共円陣を組んで気合いの入った掛け声が聞こえてきた。
そして飛行魔導で十メートルほど飛び上がった選手たちは各々のポジションにつき、中央では両校一人ずつクロスデバイスと呼ばれる長い柄と、その先端がボールを包み込むように網目状に編まれた網が付いているスカイラクロス用の魔導デバイスを当て合って待っていた。
その当て合っている真ん中に審判がボールを入れると笛が鳴り、当て合っていたクロスデバイスが激しい押し合いへと変わると、ボールが宙を舞って試合が始まった。
「紅林! 取って!」
「はい!」
宙に舞ったボールを奏が一直線に向かって奪いに行った。
反応と飛行速度が良かったのか、どんな選手よりも速くボールを奪取して味方へパスをした。
「よっしゃー! 奏ナイスー!」
恭介たちが拍手をして歓声をあげた。
「早水先輩!」
「紅林! もうちょっと動かないとパスできないよ! もっと上下左右使って動いて!」
「はい!」
先輩から身振り手振りの激を受けて気合いの入った奏の声が観客席まで聞こえてくる。
「紅林さん物怖じしないでついて行って頑張ってまいすわ!」
「雉幡さん、あたくしの手を握るのはいいですが、少々痛いです……」
見ている方もそれにつられて身に入っていた。
確かに、縦横無尽に飛び交ってパスをしてシュートをしてボールを奪い合うのは見ていて面白かったが、相手校の選手が気になっていた。
あのバスで見た時同様に、淡々とした表情で試合をしていた。
「なんか不気味だなー……でも、やれることはちゃんとやろう!」
「奏が動いたな」
飛行魔導特有の上下に動いてかく乱する動きで相手選手をかわすと、そこに目掛けて魔導付与されたパスが奏に通った。
「いける! やああああああ!!」
その勢いのまま高さ十メートルはあるポールに設置された長方形のゴールに向かって、魔導付与をしていないシュートがゴールネットを揺らして笛が鳴った。
「やったぁぁぁ!!」
「「紅林ぃぃ!!」」
見事ゴールを決めた奏に味方の選手たちは抱き合って祝福をしていた。
「やるじゃねーか奏ー! 凄いぞー!」
「猿島さん猿島さん!! 紅林さんが決めましたわ!」
「あーうー! 雉幡さーん! そんなに揺らさないでくださいませー!」
「練習の成果が結果に繋がったな」
「奏っちー! 次もおねがーい!!」
「オホホホホ! さすが飛鳥のお友達ですわー!」
観客席で応援していた恭介たちも大きく手を振ったりなどして奏を称えており、それを発見した奏も手を振っている。
「凄い頑張ってるね紅林さん……」
「そうだな。このまま何もなければ文句はないがな……」
すると、オレの携帯端末が小刻み震えた。
ズボンのポケットから取りだして画面を見ると、ギリザイエの名で着信が来ていた。
オレは皆の邪魔をしないように、少し離れてから電話に出る。
「どうしたギリザイエ、何かあったのか?」
『シュネルステッパーの投稿欄で最後に意味不明な投稿していた人覚えてる?』
「もちろん覚えているぞ」
『その人を日本魔導管理局に頼んで調査してもらったらね……』
一回、二回と深呼吸してからギリザイエは言葉を出した。
『亡くなっていたの……しかも最後の投稿された日に……』
「そうだったのか、それは気の毒にな」
あの意味不明な文面は死に際で意識が朦朧としていたからああなってしまったのか。
『それで……その人に関して不可解なことが起きたから切れ者のレイレイに聞きたいことがあって電話したの』
「なんだ?」
『死体を動かせる魔導って知ってる?』
死体を動かせる魔導か……魔法なら網羅しているからあるにはあるが……魔導はどうだっただろうか……地球にしかない力もこの前経験したばかりだ。そういう力があっても不思議ではないが……
「聞いたことはないな」
『まぁそうだよね……ならどこ行っちゃったんだろう……愛和魔導高校の教員魔導師の遺体は……』
愛和魔導高校?
「今奏たちが練習試合している相手の高校だな」
『え!? 本当なのそれ!?』
「あぁ、目の前で見てるが……まさか……!」
オレがあることに気づいた瞬間、
「紅林ぃ!!!」
悲鳴のような叫び声に顔を向けると、飛んでいるはずの奏が地面にうずくまっていた。
その姿を見ても無表情の相手校の選手一人が、倒れている奏に手を差し伸べるわけでもなく、いきなりクロスデバイスを振りかざした。
「すまん、話は後だ!」
『な、なに!? な――』
通話を即終了させ、明らかに過剰な攻撃を与えようとしている選手に向かって魔弾を撃ち放ったが、違う選手がそれを阻止するようにわざとぶつかって魔弾を止めてしまった。
「ちっ!」
オレは直接止めるべく走ろうとしたが、続々と愛和魔導高校の選手がオレの前に立ちはだかって邪魔をしてくる。
「邪魔だ」
「…………」
いつもなら睨むだけで腰が引ける人間ばかりを見てきたが、今回はそうはいかなかった。
「奏ぇ!」
「紅林さん!!」
もう無抵抗に攻撃されてしまうそんな時だった。
「〈韋駄天衝〉!!」
柴咲の〈韋駄天衝〉がクロスデバイスをへし折った。
「ボクの大事な友達にこんな非道をしようだなんて……この柴咲姫ノ神姫子が許さん!!
柴咲がおキレになったようです!




