⑮これって……冗談だよね?
昼休みに告げた通りに放課後の屋上で待っていると、ギリザイエではなく北上先輩の姿で現れた。
「話って何かな? レイレイくん……」
不安げな瞳をオレに向けて訊いてくる。
「見てもらいたいものがあってな」
「……なに?」
オレは携帯端末を取り出して画面を北上先輩に見せる。
画面に表示されているのは都市伝説サイトで、これ一つで貴方も最強の魔導師、シュネルステッパーの掲示板のページを開いている。
「投稿されている大半が虚偽の内容ばかりだが、この投稿だけ長いやり取りがされていた」
シュネルステッパーについて質問。という投稿欄をタップしてページを移動させると、北上先輩は内容に目を通していく。
そして、読み進めていく北上先輩の顔は徐々に険しい表情となり、怒りが込み上げてしまったあまりに歯ぎしりまでしてしまう。
その歯ぎしりしてしまう程のやり取りというのが、
『シュネルステッパーさえあれば何十人もの人を身体強化魔導で強くできるのか?』
という投稿者の疑問に、
『可能です。私は数人でしたが、身体強化魔導で強くすることができました。もしよろしければお譲りいたしましょうか?』
『いいんですか!? ぜひ譲っていただきたいです!』
始めは何を本気になっているんだと思ってしまうが、受け渡す場所と日時を指定し始めたのを皮切りに、
『今日は一人に使って成功しました』
『素晴らしいですね。頑張ってください』
『KYO日はSAN人に挑戦しましTA。二RI成功しまSHIたが、HI人は失PAIしてSHIにしました』
『順調ですね。教えた通りに出力を少しづつ上げながら使っていきましょう』
経過報告をするようになり、最後には、
『二じゅゆyん人全員を身体hyk化することが可kjへらいおgl能にな。ghfd様だgふぁえgwsのおかげえわっがえhです¥これsuかiらkuroすおhyrsぎlfで私たふぁwfちは最kyOUで¥l、;あ。誰にjfkぁgjもあmが86お;jhん』
意味がわからない文章が投稿されて終わっていた。
「………………これって……冗談だよね?」
「そう思いたいがな。だが最後の投稿は今日の朝になっている」
「……ということは……」
「近々大規模な事件が起こるかもしれんな」
オレの言葉に悔しさを滲みだしながら北上先輩は言った。
「見つける……絶対に見つけてやるんだから……!! こんなイタズラに魔力を分け与えて何がしたいのよ……」
問題はそこだな。魔力を分け与えることで得られることか……何があっただろうか。
「それで……さ、レイレイくん?」
「なんだ?」
「アタシがギリザイエだってことはどうでもいいの?」
「どうでもいいな」
平然と言い放つと、北上先輩は大きく口を開けて固まった。
「何か気づいたら連絡してほしいと言ったのはお前だ。だからこうして教えているだけだが……なんだ? 深く知っておいた方がいいのか?」
「あ、いや、普通ならさ……どうやってアタシとギリザイエの姿を入れ替えてるの? とか、どうして日本の事件にイギリス魔導管理局が捜査してるんだー? とか気にならないの?」
「誰にでも秘密しておきたいことはあるだろ」
オレも『魂は魔王なんだ』と言えばおあいこなのだろうが、契約のせいで簡単には言えないからな。その代わりに秘密を守るぐらい容易いことだ。
「やっぱりレイレイくんって凄いね」
「そうか?」
「皆といる時と、こうやって話してる時の印象が違い過ぎるんだもん」
「それはお互い様じゃないか?」
北上先輩は「それもそっか」と笑って言うと、目つきを鋭くした。
「情報ありがとうレイレイくん。今から調査しに行くから、少しだけ後ろ向いててくれないかな?」
オレは何も言わずに踵を返すと、柔らかい感触が背中に伝わった。
「とても素敵な人なんだねレイレイは、フェリスちゃんちょっと惚れちゃったぞ☆」
ギリザイエの姿となって抱きついてきた北上先輩が小声で言うと、オレの頬に軽くキスをして飛行魔導で飛んでいった。
「結構大胆なるんだなギリザイエの姿だと」
これは、フラグ回収というやつに入りますか?




