⓾偽りの魔力を吸うわ
魔導が使えないはずの金桐が、なぜか希少な闇系統魔導を纏わせてオレと向かい合う。
どういうことになっているのかと思い、魔眼を使って彼女を見ると、一瞬彼女の体にノイズが走った。
「君は魔導が使えないと、そこにいる楯宮から聞いたが、どういうことだ?」
「あ? 美祈いたんだ? 知らなかったよ」
栞に抱きかかえられている怯えた表情の楯宮に、金桐は感情というのが消えてしまっているような目線と言葉を送り、すぐさまオレを見た。
「ね、お兄さん。わたしと遊んでよ。折角魔導が使えるようになったんだからさ」
また金桐の体にノイズが走る。
「断る。と言ったら?」
「うーん、そうだねー」
わざとらしく人差し指を口に当て悩む金桐は、笑って言った。
「じゃあ、死んじゃえ♪」
すると彼女の体と認知できないほどノイズが乱れ走ると、オレの周りにだけ無数の黒球が出現した。
これは……爆破魔導の〈黒蓮華〉だな。なんとも殺傷性が高い魔導を使用したな。
「はい、ドーン!!」
パチンと両手を叩くと、黒球は花が開花していくように広がると爆発を起こして黒い炎を上げた。
「ひ、柊さん!!」
「楯宮さん爆発に巻きまれてしまうので、ここから離れましょう!」
「で、でも!」
「彼なら大丈夫ですよ」
次々と爆発していく黒球から逃れるために栞たちは階段を下りていった。
「あーあ、死んじゃったか、つまんないの」
「誰が死んだって?」
「えっ!?」
爆発して出た黒い炎が一点に吸い込まれていくのを、金桐は面食らった表情で見ていた。
そして、全ての爆発した黒い炎が集まると、一つの球体としてオレの手のひらの上で出来上がった。
「どうした? そんなもので終わりなのか?」
オレはそう言いながら、黒い炎の球体をホームの屋根の隙間から見える空へ放り投げ、〈灼熱魔弾〉を撃って空高くまで押し運び爆発させる。
「い、意味わかんないだけど!」
金桐は苦虫を噛み潰したような顔でオレを睨むが、足は小刻みに震えていた。
「そう、不愉快な顔をするな少女よ」
オレは一歩前に進むと、金桐は一歩後ろに引いた。
「魔導を扱えたことに心躍ってしまったのは悪いことではないが」
また一歩進むと、金桐はまた一歩下がる。
「扱い方を誤ってしまうのは」
オレがまた足を前に出すと、金桐は後ろに下がるがそこには壁があり背中についてしまう。
その事に焦る金桐は、目は泳ぎ、呼吸が激しくなっていく。
「とても感心できんぞ」
魔眼を光らせて言うと、我慢の限界になった金桐は涙をボロボロと流し始めた。
「いや、いや、殺さないで! いやああああああああ!!!」
「待ちなさい!」
背後から静止させる声が聞こえ振り向くと、背中までウェーブのかかった鮮やかな金色の髪をふわりとなびかせた女性が、オレを睨んで立っていた。
まるで赤い月のような真朱のドレスを着た女性はオレに向かって言った。
「ここは私に任せてほしいんだけど」
「何をする気だ?」
「偽りの魔力を吸うわ」
つまりこいつが……
「昨日、金桐を襲ったのもお前だな?」
オレの言葉に、表情を崩すことなく女性は頷く。
「否定をしないのだな」
「傍から見れば襲ってると同じだもの。否定しても無駄でしょ?」
なるほど、常識はあるようだな。
「貴方との話しはここまでにさせてほしいわ。仕事に取りかかりたいから」
オレは「あぁ」とだけ言って一歩横へ歩いて女性に道を譲ると、金桐は更に怯えた。
「昨日の忠告をもう忘れちゃった? 偽りの力に頼ったらダメよって」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」
「貴女の体内に、超小型の発信機を埋め込んで正解だったわね」
そうか、昨日は血を吸っていたのではなくて発信機を入れたのか。
「じゃ、偽りの魔力を奪い取るわね」
「あ、ああぁぁ来ないで来ないで!!! いやああああ!!!」
女性は金桐の首元に噛みついて偽りの魔力を吸い始めた。
栞さん→零一状態
栞→魔王モード
という見分け方でお願いします
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