⓽君が、金桐亜沙美か?
金桐という女の子に何があったのか知るために、リニアレールの駅前にある喫茶店にオレたちはやってきた。
「お待たせしました、レモンオレンジソーダでございます」
「こっちにお願いします」
柴咲が手をあげて、女性店員は淡いオレンジ色のジュースを置いて一礼し立ち去るのを見送ると、自分の隣に座る楯宮の前ににジュースをスライドさせる。
「あ、ありがとうございます! お金の方は……」
「いいよ、ボクの奢り。その代わりにちゃんと話してくれるかな? その変な人に襲われちゃったお友達の話を」
「は、はい……わかりました!」
柴咲はタブレット端末を取り出してメモ欄を開き準備万端で話を訊いていく。
「亜沙美ちゃんは……『護符』を作ろうとしたんです……」
「護符? どんなのかな?」
「好意に思っている相手にあげると両想いになれる恋愛成就の護符です……」
「それって……もしかして……」
栞さんが驚愕の面持ちでオレの顔を見た。
「都市伝説か」
「はい……でも、上手く作れなかったんです……」
柴咲がなぜかと質問しようとしたが、栞さんが先に答えを出した。
「金桐さんが魔導を使えないからですね?」
楯宮はこくりと小さく頷く。
「あの護符を完成をさせるためには、最後に魔導を使用しないといけないと書いてありました。しかも、精神干渉魔導で、私たちですら教えられない禁止魔導〈深層支配〉を使用すると」
「ということは、意中の殿方のお心を無理やり動かそうとしたのですか? それはいけないことですわ」
「雉幡さんの言う通りですわね。とても善い行いとは言えませんわ。」
厳しいこと言われた楯宮は、萎縮してしまい首を縮こめてしまう。
空気を重たくしてはいけないと思った柴咲が、すかさずフォローを入れた。
「でもさ、楯宮ちゃんは止めようとしたんだよね?」
「内容を知っていたので、止めようとしたんですけど……それでも作りたいと言ってて、それで喧嘩しちゃって……」
「あー……そうなんだー……そっかー……」
柴咲の頑張りも虚しく終わってしまったので、オレが代わって訊くことにした。
「しかし、なぜ護符作りを続けようと思ったんだ? 魔導が使えない自分が一番わかっているはずだろ?」
「あ、えっと……その……そのことに関してはわたしもよくわからないんです……どうして諦めないのか気になって、昨日亜沙美ちゃんの後ろを追ってたんです……そしたら」
「金髪女性に襲われていた。ということか」
「はい……」
そこが一番知りたかったのだがな。
「で、今日は学校に来ていたのか?」
「休んでました……」
「そうか」
どうやら彼女から聞き出せるのはここまでのようだな。
「暗くなってきましたから楯宮さんのご両親が心配されるので、お話はここまでにしましょうか」
栞さんの言葉にオレたちは頷き、帰宅することにした。
店を出ると、皆はそれぞれの帰路を歩いていく中、楯宮は栞さんと同じリニアレールを使って帰ると言っていたので、改札まで一緒に歩いていく。
すると、駅構内が何やら騒がしい雰囲気を漂わせていた。
数人の駅員が険しい顔をして改札を走り抜けて行くので、ホームで何かあったのだろう。
「見たかよさっきの」
「あぁ、頭おかしいんじゃねーの?」
「何もしてない駅員を一方的に殴るかね」
そう言いながらスーツ姿の男性二人が、オレたちの横を通り過ぎていく。
「揉め事が起きてしまったようですね……」
「そうみたいですね。楯宮は改札に入ったら栞さんから離れるなよ?」
「わ、わかりました!」
「では、揉め事に巻き込まれないように行きましょうか楯宮さん」
栞さんが先に改札を通って、楯宮がそのう後ろを付いていく。
改札を通ればすぐに階段なので見えなくなるまで見送り、オレも帰ろうとしたその時。
〈零一くん大変です!!〉
いきなり魔法念話を繋げてきた栞さんの声は焦っていた。
〈どうした? 巻き込まれたのか?〉
〈違います! 列車がいきなりきゃあああ!!!〉
叫び声と共に、ドゴオオオォォォォとけたたましい音と同時に激しい揺れが襲いかかる。
〈大丈夫か栞? 栞!〉
「くっ!」
オレは急いで改札を通り階段を上がると、リニアレールの車両の一台が垂直に地面に突き刺さっているという、異様な光景を目にする。
「なんだこれは……?」
「零一くん!! 危ない!」
栞の声がする方向に振り向くと、リニアレールの車両が勢いよく飛んできていた。
簡単には避けれるが、それだと他の客に被害が及んでしまうのは目に見えているで、魔導よりも威力がある魔法で壊すしかないと考え、魔法を発動した。
「〈火炎衝破〉」
飛んでくる車両を片手で受け止め、〈火炎衝破〉の衝撃波で粉々に粉砕させていく。
「すごーい! お兄さん、とても強いんだね!」
オレに拍手を捧げながら楯宮と同じセーラー服を着た少女が、ニコニコとこちらに歩いてきた。
「君が、金桐亜沙美か?」
「うん、そうだよ。お兄さん」
あら? 不思議なこと起きてますね




