⓼ボク、女の子だよ?
「やーみんなお待たうぇい!? 生徒会長がなぜここに!?」
放課後の正面玄関。カメラなどの取材道具を持った柴咲がオレたちの前に現れると、オレの隣にいる栞さんを見て驚きの声を上げた。
「生徒の安全を守るのも生徒会長の務めですから」
にこりと微笑みながら、もっともらしいことを言って慌てふためく柴咲を落ち着かせる。
「零一様と生徒会長様がいれば百人力――いえ、一万力ですわね、猿島さん!」
「そうですわね雉幡さん。ここに戌井さんが来たがっていた理由もわかりますわ」
ちなみに、ここにいない戌井さんは、悔し涙を流しながら生徒会の仕事に勤しんでいると栞さんが言っていた。
「じゃ、じゃあ、全員揃ったことだし調査開始といこうか」
柴咲が先頭になって歩くと、栞さんがその真横を陣取り歩幅を合わせて歩いていく。
いきなりのことに、柴咲はギョッと目を見開いて後ろにいたオレを見てくるが、栞さんが小声で話しかけた。
「ねぇ、柴咲さん……」
「は、はい、何でしょうか……?」
「零一くんに抱っこされた気分はどうでした?」
「びゃあぁぁぁ!?!?!?!?」
いきなり顔を真っ赤にして変な声を出したが、栞さんは何を話したんだ?
「うふふ、素敵な反応ありがとう柴咲さん。でも、インタビューは終わってないですよ? あの時のお返しです♪」
「なななんあなななー!!!」
今度は呂律が回ってないが、本当に大丈夫なのだろうか。
「柴咲さんはどうしたのでしょうか?」
「さぁ? わかりませんが、とても興奮しているように見えます。この調査に力を入れてくださるなんて素晴らしい心の持ち主ですね、柴咲さんは」
さすがにあの様子だとそれはないと思うがな。
その後、吸血女性を目撃した場所まで、柴咲は栞さんに何か言われる度に叫んでいた。
「ここが吸血女性を目撃した電柱になりますわ」
「つ、強い……強すぎる生徒会長……」
ぶつぶつと何かを呟きながら、電柱の周辺をカメラで撮影していく柴咲。
オレは魔眼を使って周囲を見ていくが、これといった特別な違和感などは感知しなかった。
〈どう? 何か見える?〉
〈魔法念話〉で会話をしてきた栞さんも魔眼を使って周りを見ている。
〈これといって何も…………栞さん〉
〈えぇ、見られてますね……〉
痕跡は見当たらなかったが、オレたちは人の気配は感じ取った。
……敵意のような邪な視線ではないな……凝視されているだけだな。
〈どうするの? 捕まえる?〉
〈いや、見られているだけのようだから放っておこう。何かされた時に捕まればいい〉
〈わかった〉
「あ、こんなとこに血が付着してる」
写真を撮っていた柴咲の声を上げる。
「どれだ?」
「ほら、ここに小さく」
柴咲の指さす箇所を見ると、道路の隅に点々と続く赤いしみがそこにはあった。
それを魔眼で一応見てみることにする。
普通の血痕だな……何か混ざっているとかはない、ただの人間の血だ……ん? この血に魔力を感じない? もしかして、『無魔力者』の血か? 魔力が混ざっていない血を初めて見たな。
だが、魔力を持っているであろう者が、なぜ無魔力者の血を吸う必要があるんだ? 魔力を得られると思ったのか? なら一滴そこらで分かることだろう……それとも空腹を満たすためか? そんな人間がいるとは思えないが……
「これだけでは、なにもわからんな」
「まぁそうだよね……はぁ……収穫なしかー……」
「ですが、そこでずっと見ている子なら、何か知っているかもしれませんよ?」
栞さんが柔らかく見据える方向に皆も目を向けると、オレたち中部魔導高校とは違うセーラー服を着た女の子が、おずおずとこちらを窺いながら立っていた。
さっきから感じている視線はこの女の子からだ。
「あ……! あの女の子が着ている制服……昨日の女の子と一緒ですわ!」
「本当ですわ!」
「っ!?」
「あっ、お待ちになって!」
雉幡さんたちの大声にビックリした表情を出して、女の子は焦りながら逃げてしまった。
〈零一くん〉
〈大丈夫ですよ〉
〈え?〉
〈オレより動くのが速かった柴咲が先回りしてますから〉
「はい、ストップ」
加速魔導で走った柴咲は、女の子の目の前で両手を広げて立ちはだかると、女の子は怯えながら言った。
「ごめんなさいごめんなさい! 悪いことしてごめんなさい! 二度としないので許してください警察のお兄さん!」
「あー……えーっと……」
………………くっ! いかん思わず笑ってしまった。
「ボク、女の子だよ?」
「えっ!?」
「ほら、スカート履いてるし……」
「あ、うう! ごめんなさいごめんなさい!!」
「もういいって、それよりも貴女の名前を教えてほしいな」
「は、はい! 西港中学三年、楯宮美祈です! 昨日ここで変な人に襲われた、金桐亜沙美ちゃんの友人です!」




